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Uberを使って分かったこと──コデラ総研 家庭部:CES 2016特別編
テクニカルライター/コラムニストの小寺信良さんによる「techな人が家事、子育てをすると」というテーマの連載(ほぼ隔週木曜日)の「CES 2016特別編」(これまでの連載一覧)。今回のお題は「Uberを使って分かったこと」。
文・写真:小寺 信良
年明け3日から、CES(Consumer Electronics Show)取材のために渡米した。CESはラスベガスで行われる世界最大の家電製品の展示会で、出展メーカーは3600、来場者は例年17万人を超える、巨大イベントである。今回はちょっと視点を変えて、タクシーでも自家用車でもない「足」を体験した話をしてみたい。
CESの期間中は17万人も街の外からやってくるわけだから、あらゆるホテルが満室、交通網も時間帯によってはパンクする。主要ホテルから会場まではモノレールがあるが、プラットフォームに人が入りきれず入場制限されることもある。もちろんシャトルバスも普段なら15分で行けるところが、1時間以上かかるような状態だ。
この慢性的なアシ不足は、夜にまでおよぶ。ご飯を食べようとあらゆる人はホテルから繰り出し、あちこち大移動が始まるため、タクシーの数も当然足りなくなる。
そんなラスベガスの街で今回便利に使えたのが、Uberだ。Uberは、契約した個人が自分の車をタクシーのような格好で運営するサービスで、利用者がアプリを使ってどこからでも車を呼べるサービスとして人気がある。日本的に考えれば「白タク」みたいなものだが、お客とドライバー双方にとって安全な仕組みを確保してあるのがポイントである。
米国の他の都市はよく知らないが、ラスベガスの場合、いわゆる「流しのタクシーを拾う」という行為が存在しない。道端で手を上げて車を止めることも、そのお客を乗せることも禁止されており、ホテルのエントランスなど指定されたタクシー乗り場でしか乗車できないのだ。人通りのない道でお客を拾うのは、客とドライバー双方にとって危険だからである。
だがそうなると、ホテルから乗るのは便利だが、ショッピングセンターやレストランといった目的地からタクシーを拾うことが難しくなる。客待ちしているタクシーはなく、自分で電話してタクシーを呼ぶしかないわけだが、地元じゃあるまいし、知り合いのタクシー運転手などいるわけはない。そうなると、自分でレンタカーなど借りてない場合、行ったはいいが帰れないということが起こりうる。
そんなときにUberがあれば、ショッピングセンターに車を呼ぶことができるわけだ。日本では、日本交通をはじめとするタクシー会社が、アプリでタクシーを呼べるサービスを展開しているため、それほど便利なものには見えないかもしれない。だがこれらのタクシー配車アプリは、Uberをモデルにして作られている。2009年創業のUberの方が、老舗なのである。
双方にとってのメリット
タクシーと比較すると、Uberのメリットは多い。Uberのアプリでは、乗りたい場所を指定することで車を呼べるわけだが、同時に目的地もアプリ上でセットすることができる。つまり乗車したときには、すでにドライバーは目的地が分かっている。
有名な場所なら目的地を伝えることは難しくないが、ドライバーも知らないような場所を説明するのは大変だ。さらに言えば、自分も行ったことがなければ説明もままならないわけで、地図を使って目的地をセットできれば、それに越したことはないわけである。
また料金も、乗車位置と目的地の距離に応じてあらかじめ明示されるので、ぼったくられることがない。ただ混雑時には3割増しといった料金が設定されることもあり、そこは配車を頼む前によく見ておく必要がある。支払いは、アプリに登録してあるクレジットカードから引き落としされるので、降りるときにドライバーと現金やカードの受け渡しをする必要もない。着いたら「Bye」といって降りるだけである。
車から降りると、今のドライバーを評価するための画面がポップアップする。ドライバーは、星が上がればそれだけ自分が呼ばれる確率が高くなるので、丁寧にサービスする。車の質が良くなければ、水やアメをくれたりしてサービスに努める。一方で客側も、ドライバーによって格付けされる。ランクが下がればなかなか配車が受けられなかったり、アカウント停止になったりする。双方が格付けしあうことによって、より良いドライバーと客がマッチングされるようになるわけだ。
冒頭で述べたように、CESなどの巨大イベントで、1週間だけ交通手段が不足するようなことになるわけだが、この期間だけ近隣都市から出稼ぎとして、Uberドライバーがラスベガスに集まってくる。回転率がいい商売になるのはもちろん、利用者にとっても長蛇のタクシー列に並ばなくて済むため、ありがたい。ただ、ラスベガスに不慣れなドライバーに当たる可能性もあり、混雑時の抜け道を知らずにハマるといったリスクもあるにはある。
日本の場合、タクシー会社が非常に細かくサービスを提供するため、Uberの利便性はさほどないかもしれない。だが一人しか乗ってない自家用車を有効活用するという点においては、有償の相乗りを可能にするよう規制緩和も検討されている。Uberとは違う形になるかもしれないが、完成されたサービスとして、UberのWin-Winを目指す仕組みは、検討に値するように思える。(了)
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