あのチームのコラボ術
グローバル企業になるためのインフラを! 楽天がYammerで目指す社内ソーシャル
あのチームは、どんなツールを使って、どんな風に仕事をしているんだろう?」を探る本コーナー。今回取り上げる企業は、読者の皆様もお世話になっている方が多いはず、「楽天」です。東南アジアをはじめとする積極的な海外進出、英語公用語化など、まさにグローバル企業への転換の真っただ中です。そんな楽天では、社内の情報共有ツールとして「Yammer(ヤマー)」を導入したそうです。
その狙いと利用する現場の実態について、楽天株式会社の開発アーキテクチャ部テクニカルマネージングオフィサー 吉岡弘隆さんと、楽天トラベル株式会社の編成・マーケティング部 メディアマーケティンググループ UXデザイン&ストラテジーグループ(取材当時) 藤原健太郎さんに伺いました。
まずは、吉岡さんと藤原さんの業務内容を教えてください。
大槻
私は開発の部署に所属し、エンジニアをエンパワーする役割を担っています。特定のサービスに紐づいたものではなく、社内を横串にした開発専門のチームです。
私は、楽天トラベルのマーケティングを担当※しています。SNSアカウントの運用や広告を活用した集客のためのプロモーションなどを行っています。
※2012年取材当時
2009年から社内SNSを活用している楽天、そのきっかけは?
楽天では「社内Facebook」とも呼ばれるSNS「Yammer」が導入されているとのことですが、その経緯はどのようなものだったのでしょうか?
大槻
元々は、2009年から有志の社員で無料版を使っていました。あるとき、社長の三木谷が開いている「寺子屋」という社内横断の勉強会の中で「組織の壁を取り崩すようなメディアが必要だ」という議論になりました。それで、Yammerが草の根的、実験的に広く使われ始めました。
2009年とは、とても早いタイミングから社内SNSを活用していたんですね。
大槻
そうですね。まずは100名ぐらいのアーリーアダプター(技術に強い先端層)中心で、雑談に近いやりとりをしていました。
そこからどのように社内に浸透してきたんですか?
大槻
小泉さんという社内報の編集長がいるんですが、彼女がYammerを使って社内報を盛り上げようとしたんです。マニュアルを作るトレーニングチーム、便利な使い方を集めるチームなどを組織し、ホリデーシーズンの写真を投稿するキャンペーンなどをYammer上で実施した結果、だいぶ認知が広がりました。
社内報も昔は紙でしたが、いまはイントラ内でデジタル共有されています。紙の場合は作って出しても反応がなかなか見えづらくさみしいものですが、Yammerであればコメントするだけで敷居も低いので、活動に対する反応を直接感じることができたのは大きな変化でした。
全社会議でも活躍しています。会議では毎回、社長の三木谷が英語でスピーチを行うのですが、カイルという社員がその英語スピーチをメモってYammerにすぐに上げてくれるので、英語がそこまで得意でないひとにとって助かってます。楽天の文化を共有、継承していく上では重要なツールですね。
震災時の緊急連絡ツールとして社内普及
重要な業務情報が流れ出すと、ツールとしては一気に広がりますね。有料版に移行されたのはどのようなタイミングですか?
大槻
2011年3月11日に東日本大震災がありましたが、多くの社員は社外から社内のネットワークにアクセスする術がありませんでした。つまり、出社しないと社員同士の連絡が取れなかったのです。そこで、緊急時の連絡網として社外からもアクセスできるYammerを使いました。その後の5月にエンタープライズ版を導入しました。
普及の裏にはそんなきっかけがあったのですね。現在、社内のどれぐらいの方がYammerを使っているんですか?
大槻
Yammerには約8,000名のユーザー、1,000以上のグループがありますね。
順調に普及しているんですね。
大槻
しかし、自ら発言してくれるひとの数が思ったよりも伸びていないのが正直なところです。登録ユーザー全体のうち5%以下ぐらいでしょうか。本当は10%ぐらいのひとが発言してくれていると盛り上がっている感が出るんですが。
開発に所属している方のつぶやきが目立ちますね。営業部にはあまりまわりに振りまく話題がないひともいるみたいです。
つぶやくにも機密保持とカジュアルのバランスが難しいですよね。多くの社員が、全社員が見ていることを懸念してつぶやかない。ずっと呼びかけてはいるんですが。
積極的に使っていて、スマホアプリ開発に周囲に巻き込んでいるようなひともいます。海外の社員からアプリについて率直に意見を言ってもらって発見を得ている人もいます。英語を中心としたコミュニケーションの利点が活きていると思っています。
藤原さんご自身はYammerを業務でどのように使っていますか?
大槻
私は、担当するプロジェクトごとにYammer内で議論を行っています。ファイルを手軽に共有できるなど、自由度高く投稿できるところが気に入っています。また、プロジェクトの進捗をひとまとまりに見ることができるので、過去のやり取りも見返しやすいです。あと、スマホアプリでも使うことができるのは助かっています。
Yammer以外のツールも導入は検討されたんですか?
大槻
セールスフォースのChatterを入れましたが、うまくいきませんでした。もともとは営業向けのシステムですから、それ以外のひとがつぶやくためにわざわざログインしなかったんですよね。Yammerは草の根的に仲間内でぼそぼそ喋っているうちに、Facebook的に広がっていきました。
社長の三木谷さんもお使いなのですか?
大槻
はい。先端層が雑談に近いやりとりの中に社長も入ってきたんです。2011年の正月ぐらいでした。
ちなみに、Yammerの中でも英語が公用語なんですか?
大槻
はい(笑)三木谷が「Japanese is prohibited.(日本語禁止)」と書き込みました。最初は書き込みも減りましたが、逆に海外にいる社員からの投稿が混じり合うようになりました。
楽天のグローバル戦略を支える「英語公用語×社内ソーシャル」
三木谷さんがYammerを評価したポイントは何だったのでしょう?
大槻
楽天は情報共有にものすごく価値を見いだしているんです。未だに全社員が集まる週に一度の会議があります。ですが、数千人規模の会社になると週に一回では間に合わない。業務は部門内で閉じていきますから、他部門とのコミュニケーションは最重要項目ではなくなります。
いわゆる大企業病の一歩手前という感じですね。
大槻
しかし、楽天全社としての強みを生かすこと、またそのために情報共有を促進していくことに対する危機感はありました。なので、全社会議があって、社内ネットがあって、社内報がある。たぶん日本国内だったら社員の横のつながりはもう出来上がってきている感じです。
横軸での情報共有がそれだけスムーズなのは、なぜでしょうか?
大槻
楽天市場を中心にトラベル、ブックスなど50ぐらいサービスがあって、全てが楽天ポイントでつながっているからだと思います。
なるほど。ビジネスがつながっているからこそ必然的に、という訳ですね。それなのに、Yammerを導入されたのはなぜでしょうか?
大槻
一方的な情報共有ツールはいくつかありましたが、双方向的なものがありませんでした。Yammerを導入することで、部署間のコミュニケーションをさらに生みだそうと考えたのでしょう。実際に、私が藤原さんと出会ったのもYammerでした。そして先ほどお話しした、すべてが楽天ポイントでつながっている構造を海外でも実現したいというのが三木谷の野望です。いまM&Aで海外の企業を買収していますが、この横展開モデルを輸出しています。その第一の壁は言葉です。だから、英語を社内公用語化しました。
そういう狙いがあるんですね。これはおもしろい。
大槻
海外へビジネスモデルを輸出すると言っても、経営陣だけがコミュニケーションをしていればよいのかというとそうではありません。例えば、日本で楽天市場を担当している社員が、明日ブラジルに行って現地の子会社の社員とすぐに連係して作業に取りかかれるようにするなど、現場レベルで横でつながっていかないとスピード感が出ません。そのときに、海外も含めて全社的にフラットにコミュニケーションできるようにするという意味で、Yammerは戦略的ツールだと思います。
社内SNSというと、漫然と社内の風通しを良くするというような目的で導入する会社も多いようですが、楽天は戦略を実現するためのツールという明確な位置づけなのですね。
大槻
Yammerは重要です。三木谷も些細なことからつぶやいて試行錯誤しています。
ただ、今言ったようなことができているかというとそうではありません。いまは最初の段階です。ときには、そこまで言っていいのか?と思わせるような社員もいます。しかしFacebookとは違って、社内だけに限定されているので、突っ込んだ議論にまで深く掘り下げることができます。
これからはYammerを使って新しいビジネスやイノベーションを生む。そうやって本業に貢献するのが課題です。
グループウェア利用の成功の定義は難しいので、そこは試行錯誤だと思うんです。正解がない。できるところからやっているというのが正しい表現かもしれませんね。
数字として成功を証明していくことはなかなか難しいですよね。
大槻
そうですね。もっと使われるようになるために、仕事でメリットがあるという伸びしろを作っていかないといけません。いまはそういう状態ですね。
写真撮影 :橋本 直己
SNSシェア