あのチームのコラボ術
採用したい人材に合わせて、むしろ会社を変えていく──働き方は「会社優位」から「個人が選ぶ」へ
前編では、激務というイメージが強い外資系コンサルティング会社ですが、アクセンチュアでは社長自らが経営課題としてコミットした「働き方改革」を行い、風土が変わってきたことを伺いました。後編では、アクセンチュアの“リアルな姿”を知ってもらった上で、多様性に富んだ人材を獲得することに注力している「新卒採用」や「第2新卒」について、具体的にどんな取り組みを行って、どのような成果が出ているのか? 引き続き、新卒採用チームリードの佐藤優介さんに、サイボウズ人事部マネージャーの青野誠が話を伺いました。
新卒採用は経験不問、エッジの効いたパーソナリティが大切
採用についても聞かせてください。アクセンチュアさんは、新卒採用に積極的に取り組んでいると伺っています。新卒では、どのような人材を求めているのでしょう?
「アクセンチュアのDNA」という、我々のカルチャーを10箇条にまとめたものがあり、それに合致することを重視しています。「チャレンジに手加減しない」「チームワークを大事にする」といったものですね。これは4年前に、現場の200人のハイパフォーマーたちを徹底的に分析して作ったもので、エントリーシートや面接でも活用しています。
エントリーシートでも使うんですか。
そうですね。「10箇条のうちから、あなたが共感するものを選んで、その理由を書いてください」といった具合に。
佐藤さんが考える“アクセンチュアぽい人”って、どんな人でしょう?
やはり成長意欲が高い人ですね。「7人7色」の、7色のうちの1つにも挙げましたが、若手のうちから高いスキルを身につけたい、みたいな。最初はとにかく成長することに集中して選択肢が広がってから、その後のキャリアを選ぶという人が多いですね。
面接などではどんな点を見ていますか?
新卒採用では、それまでどんなことをやってきたかという経験などは重視していません。むしろ、エッジの効いたパーソナリティが大事ですね。うちは個性が強い社員が多いので(笑)
ちょっと変わっているな、という人でもOKなんですか?
尖っている人は面白いですね。ただ、あくまで「この人を育ててみたい」と感じられるような人であることが大事です。
第2新卒については?
第2新卒は採用実績が好調なため現在は募集していない部門もありますが、新卒に近いポテンシャル採用でしたね。今まで何をやってきたかはあまり見ません。基準は「アクセンチュアで伸びる素養があるかないか」です。
アクセンチュアさんは昨年度まで第2新卒の採用にかなり力を入れていると伺っていて、とても面白いなと思ったんです。募集の間口もかなり広げたと聞きましたが、どのような背景からだったのでしょう?
第2新卒の方の場合、一度どこかの会社に入ったにも関わらず「こんなはずではなかった」とか「状況を変えたい」と考えているので、意欲が高い方が多いんです。自分が何をやりたいのかかが明確で、一度失敗しているからこそ、コミットメントというか、覚悟のある方が多いんですね。そこに期待して力を入れていました。
学生は外資系企業に「ハードワーク」や「サバサバしすぎている」というネガティブなイメージを持っていたりする
採用をやっていく上で、現在の課題はどんなところですか?
新卒採用では特に学生の方って、外資系企業に対して、「ハードワーク」だとか、「サバサバしすぎている」といったネガティブなイメージを持っていたりするんです。だから、リアルな姿を知ってもらうというのが今の一番の課題ですね。 そのために、とにかくウチの社員と会って、“人”を通じて理解してほしいと思っています。
アクセンチュアさんでは、採用イベントもやっていらっしゃいますよね。特に第2新卒は今すぐ採用というのでなく、緩やかなつながりを大事にしていたと伺いました。
そうですね。転職のタイミングが今ではなかったとしても、いつか機会があればぜひアクセンチュアに、という方とつながっていたい。そこで、イベントや定期的な情報提供を通じて、候補となりそうな人材のリストを「タレントプール」に溜めていって、アクセンチュアを理解してもらう活動をしていました。その結果、イベントなどで登録してもらった後、1年、1年半たってから採用できるケースも出てきていましたね。
ずっと関係性を構築し続けるのは難しいですよね。私たちも「U29(ユニーク)採用」という第2新卒も積極的に採用しています。ホームページからの直接応募も増えていて、毎月開催している説明会はいつも100名前後集まるようになりました。
すごいですね。
ただ、タレントプールへのフォローまではまだできていないですね。あと、今はまだ転職のタイミングではないけれど、将来的にタイミングがきた時にサイボウズを選択肢に入れてもらえるような、説明会以外の勉強会などゆるく繋がっていける場は作っていきたいです。アクセンチュアさんでは具体的にどんな取り組みをされていたんでしょう?
軽いものだと、アクセンチュアのホットトピックをメールで送るとか。あとは採用色のあまりないイベントやセミナーでしたね。
内容はどんなものですか?
一番人気だったのは、実際にコンサルタントの業務を体験してもらうものです。初めて会った人とチームを組んで、問題解決をしてもらうとか。それをグローバル向けに、全て英語で行った時もありました。女性のキャリアを応援するセミナーや勉強会や他社と大型のイベントやワークショップを開催したこともありますね。
そうした取り組みをして、入ってくる人も変わりましたか?
コアな人は変わりませんが、2年前にデジタルグループが立ち上がって、今までいなかったデザイナーやデータサイエンティスト、デジタルマーケティングの専門家も入ってくるようになったんです。今までと毛色が違うプロフェッショナルが増える中、ビジネスシーンでの服装も多様化してきました。そのため、業務内容や会う相手に合わせて各自が選択できるように服装の規定も変わりました。逆にその人たちを受け入れるために、「金髪短パンOK」とか規定が変わっていますね。ある意味、そういう人材が活躍できるようにするために会社のほうを変えるという柔軟な取り組みをしています。私も採用を担当していると、だんだんラフな格好になってきちゃって、たまにやりすぎて注意されたりするんですが(笑)
採用したい人材に合わせて会社が変化しているんですね。サイボウズも第2新卒や中途採用ではスキルだけではなく、志望動機をとても重視しているので、食品メーカーや芸能プロダクションなど全然違う業界からの転職する人も増えてきました。 数多く会社がある中で、「なんでサイボウズなんですか?」と聞いた時に明確に言えるか、その共感度がすごく大事だなと思っていて。正直スキルだけを求めるなら、サイボウズの社員ではなくてもいいと思うんですよね。例えばデザインスキルがあるだけの方なら、外注してデザインをお願いするという選択もあるわけですし。サイボウズは、掲げる理想に共感する人達が集まる組織にしていきたいと思っています。
これからの人事は「芸能プロダクション」のようになっていく
御社のようなプロジェクトベースの働き方の場合、入社後キャリアで悩んだ時には、誰に相談するんですか?
まず、1人にひとり必ずつく、キャリアカウンセラーに相談できます。このキャリアカウンセラーは管理職の社員ですが、必ずしもプロジェクトの直接の上司であるとは限りません。また、本人がこのキャリアカウンセラーと自分は合わないな、と思った場合は、変えることもできるんです。 もう1つ、福利厚生として、プロのキャリアカウンセラーに相談することもできます。僕も以前、月に2回、50代のカウンセラーの方に相談に乗ってもらっていました。
これまで正直、外資系コンサルの場合、何年か働いてスキルを身につけ、他のところ転職する人が多いというイメージを持っていたんです。でも決してそんなことはないんですね。
もちろん全くないわけではないですが、以前より社内の選択肢が増えたので離職率が下がりました。ボランティアやプロボノといった制度のほかにも、「キャリアズ・マーケットプレイス」というグローバル共通の制度があって、各国・各部門で現在募集しているポジションが、社内求人メディアみたいなもので一覧で見れるんです。公募されているポジションに応募するのに、上司の許可は必要ありません。面接を受けて異動先のOKがもらえれば異動できるという制度です。ある意味「社内転職」のようなものなので、こうしたものを使えば、わざわざ社外に行かなくても新しいキャリアを築けるわけです。
なるほど。
いずれにせよ「自分のキャリアは自分で築く」という意識が徹底されています。入った当日、研修で言われるくらいですから。社内にあるいろいろなリソースやチャンスを自ら活用して、自分なりのキャリアを築いてほしいですね。
最後に、「今後の人事の役割」をお話を聞いてもいいですか?
今まではある意味、会社優位で働き方が決められていましたが、いまそれが徐々に個人へとパワーシフトしていると感じています。その時、人事の役割は、1人ひとりの人がどうしたら自分の望むキャリアを築いたり、スキルを身につけたり、ワークスタイルを実現したりできるかを考えることにあると思います。 これが進んでいくと、人事は、各社ごとに個別にあるのではなくて、複数の会社で共通化してしまったほうが個人は働きやすくなるのでは? と個人的には思っています。芸能プロダクションのような感じですね。才能のある人をマネジメントして、いろいろな企業から仕事を取ってくる、みたいなのが、今後の人事の世界なのかなと思っています。ちょっとぶっ飛んだビジョンですが。
すごく面白いですね。佐藤さん自身、そういう芸能プロダクション的な人事をやってみたいと思っているのでは?
それはありますね(笑)。青野さんはいかがですか?
サイボウズでは「100人いれば100通りの人事制度」が浸透しつつあって、副業や在宅勤務、一度サイボウズをやめたいなど、「こうしたい」という希望を社員もどんどん言うようになってきたんですよ。そのひとつひとつに対応するのは、正直大変なんですが(笑)。 今後は社会全体を見ても、ひとつの会社だけではなく複数の会社に所属しながら活動をする人や、副業をする人がもっと増えていくと思うんですよね。 だからその時に、「例えばマネジメントや評価とかでこんな課題にぶつかりますよ」と、先陣を切って実践したからこそわかった課題などを社会に共有していけたらと思っています。
なるほど。
お話を伺って、これまで自分が外資系コンサルの働き方について持っていた認識が変わりました。本日はありがとうございました。
こちらこそ楽しかったです!
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執筆
荒濱 一
ライター・コピーライター。ビジネス、IT/デジタル機器、著名人インタビューなど幅広い分野で記事を執筆。著書に『結局「仕組み」を作った人が勝っている』『やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)。