自分の「強み」を持つことがこれからの時代の「安定」──リブセンス 村上太一×サイボウズ 青野慶久
インタビューの場となった、リブセンス社の会議室に現れた青野社長。その手には何やら紙袋が・・中には、26歳の誕生日※を迎えた村上社長へのサプライズプレゼントが。中身は… レッドブル26本!
※村上社長のお誕生日は10月27日。昨年の取材から掲載までだいぶ時間が経ってしまいました。。すみません(編集長大槻)
明日がお誕生日なんですよね。おめでとうございます!
ありがとうございます!これは・・インパクトありますね・・・
これ(レッドブル)で、もっと働いてくださいね(笑)
はい。社員のみんなと分け合います(笑)
村上社長と“おカネ”
いきなりの質問ですが、上場してお金が入ったと思いますが、今なにがほしいですか?
うーん…
あれ、ない?(笑)
マットレスを買いたいですね。
マットレス… あのベッドの… ですか?
とある経営者の方に「マットレスに投資しろ」と言われたんです。もっと熟睡して、睡眠時間を1時間短縮したいなと。そうしてできた時間を仕事に充てたいですね。
村上さんの本を読んで予習してきましたが、ここで書かれているとおり、質素なんですね。
質素とか倹約というよりは、単純に興味がないんですよね。例えば、僕の両親もタクシーを嫌うひとで、いまでも時間を短縮するために乗るぐらいでしか利用しないです。きっと、そういう幼い頃に植え付けられた感覚が今でも残っているんですかね。
普通はそういう体験に対して反動がありそうじゃないですか?
うーん… ないんですよね。ごはんだって、安くてもおいしいものはたくさんありますし。
乗らないフェラーリとか買わないんですか?
買う予定はないですね(笑)僕、駐車が苦手なんですよね。
村上社長と“起業”“経営”
ところで、もともと起業志向はあったんですか?
はい。両祖父が経営者だったので、中学生のころは何となくでしたが、高校生になってからは明確に起業したいと思うようになりました。
高校生というと2000年頃?ちょうどITバブル真っ盛りの時期ですね。
はい。今はリブセンスはITの会社ですが、将来的にはIT以外もやる可能性はあります。
それは意外です。例えばどんなビジネスですか?
世の中になくてはならないビジネスでしょうか。たとえば、宅配便です。そもそも儲からないと言われていた宅配業ですが、ヤマト運輸の小倉昌男さんが米屋で宅配を受け付けてから火がつき、競合では佐川急便やペリカン便と出てくる中、クール便など次々と新しい分野にチャレンジされて大きな事業になりましたよね。僕たちがいま楽天で生鮮食品を買えるのも宅配便のおかげですから。
インフラに近いイメージですね。ビジネスの立ち上げを検討するときは、お金から入るんですか?
いえ、“どれくらいのひとが使ってくれるか”というイメージから入ります。
目標としている経営者はいますか?私は孫さんとかすごいなと思うんですが。
特に誰という目標はいないですね。孫さんには、実際にお会いしたことはありますか?
はい、一度だけありますよ。村上さんは?
いいえ、お会いしたことはないんですよ。
孫さんはすごいですね。一回の打ち合わせの中で、私では思いつかなかったような事業アイデアが4つぐらい生まれました。すぐさま会議室にある電話で社内の誰かを呼び出すと、下の階からひとがやってきて「やりましょう!」となるんです。
すごいですね。孫さんは高校時代から海外に行き、何かを発明しては売却を繰り返してますからね。でも、時価総額2兆円、そのうち借金が1.5兆円というのを知り驚きました(笑)。僕はどちらかというと日本電産の永守さんや、ファーストリテイリングの柳井さんのように、努力しながら着実にやっていくタイプです。
ほんとによく勉強してますね~。
いえいえ。青野さんの目指すところはどこですか?
僕は太陽のような企業が理想なんですよ。太陽って誰からもお金をもらっていなくて儲かってないですけど、すべての人類がその価値を享受していますよね。そんな誰からも必要とされていて、かつほかの誰も作れないものを生み出しているのがいいですね。
僕もそういうの好きです。でも僕は利益もあげていきたいですね。Facebookのザッカーバーグが言う「利益は投資の源泉」という言葉は自分の中で“これだ!”と強く思いました。
なるほど。「ジョブセンス」の成功の秘訣はなんだと思いますか?
三方良しのビジネスモデルという点だと思います。アルバイト情報サイトで“成功報酬”という目新しさ、ユーザーへの“お祝い金”ですね。でも、東証一部上場はしましたけど、自分たちの影響力がまだ小さいというのは自覚しているんです。やるからには業界で1位を取りたいです。
M&Aとかは考えないんですか?
そうですね、将来的に可能性はゼロではないですが、M&Aをするとほかの会社と同じ攻め方になってしまいます。そしてほかと同じやり方をやってもパワーで負けてしまう。僕が考える“戦略”とは“ほかと違うことをやること”です。
あと、“なにをやらないか”も重要ですよね。既存のサービス以外にはどんな事業をやっていきたいですか?
なにかしらの課題を解決するもの、ですね。僕はそれとは逆に、娯楽系が苦手なんです。
質素なひとは娯楽系、苦手ですね(笑)
そうかもしれないですね(笑)青野さんは娯楽系いかがですか?
僕もダメ。普段、洋服を買いに行ってもどれがいいかとかなかなか選べないですもん。むしろ、“原価いくらかな”とか気になっちゃて(笑)
ところで、海外展開は?
日本で勝てないのに海外で勝てるかというとそうではないと思うんです。なので、まずは足場を固めたい。もちろん、海外に展開する可能性はゼロではないですし、海外に行きたくなったときにいつでもアクセルを踏めるようにしておきたいです。それに、いざ“海外でやるぞ!”ってなっても、最初はしかるべきミスをしないといけないでしょうね。青野さんは以前、海外展開されてましたよね?
はい。サイボウズも10年近く前に一度海外で失敗して、2億円ぐらいすりましたけど、あのとき失敗してよかったです。日本の文化やビジネスが受け入れられるのにもタイミングがあると思うんです。そのタイミングが来るまで待つのも大切です。
タイミングと言いますと?
例えば、いまアメリカってプリウスばかり走っていますけど、あれは最初、有名俳優のレオナルド・ディカプリオが映画祭に乗ってきて、そこで“エコ”と“かっこいい”の意味がちょうど合わさった。そういうきっかけがあって文化としてうまく定着したことを考えると、単に自分たちのタイミングで海外進出しさえすれば良いというものではないと思います。
村上社長は社外への発信は控えめ?
FacebookとかTwitterはやらないんですか?
僕、あんまりつぶやかないんですよね。人前に出るのがあまり得意ではないんです。まだ広報からつぶやけというプレッシャーもないので(笑)発信し続けると、それが逆にプレッシャーになるんじゃないかなと。
立場があるひとは気をつけたほうがいいですよ。僕も競合企業に挑発的なことをつぶやいたら、サイボウズ式編集長の大槻に怒られましたもん(笑)
社外に発信して行くのって難しいですよね。発信しすぎると、いろいろありますから…
では、社内への発信は?
社内にはメルマガを書いています。
えらい!
ただ、メールだと一方通行な気がするので、これからはインタラクティブにしていこうと思っています。
ぜひ今回導入頂いたガルーンを活用して下さい。
青野さんは社内に向けて情報発信されてますか?
社内に向けて発信するのは大切ですよ。“うちの社長はこんなこと考えているんだ”と思ってもらえますから。そういう意味で、うちは過去に失敗しましたね。
失敗?
ええ。ひとが一気に増えて、ぐわーっとやめていったんです。そんなことがあってから、例えば“松下幸之助さんの本を読んで、僕はこう思うよ”みたいなことを社内のグループウェアで書き始めました。
自分の強みを持つことがこれからの時代の「安定」につながる
お互い若い頃に起業して現在に至るわけですが、村上さんは今の若者に対して起業を勧めますか?
そこは価値観だと思うんですよ。でも、“やりたいことがない”というのは避けたほうがいいと思います。
僕の世代は偏差値で大学を選んで、教授に推薦された大企業に入ると“幸せ”と言われていました。でも僕の友達で大手家電メーカーに勤めていた友人なんかは、今では早期退職という名目の強制退職同然の扱いを受けたりしています。
“大企業、公務員は安全”“なにもやりたいことがないから大企業” みたいな風潮は僕らの世代でもありますよ。“おまえ、保険興味ないだろう?”みたいなひとが保険業界の大手企業に入社したり。
そうなんですね。
はい。この前、柳井さんが「現実を視よ」という著書の中で「暑いお湯の中にカエルを入れるとすぐに飛び出す。でも、水の中にカエルを入れてゆっくり茹でてもなかなか飛び出そうとしない。日本はいまそんな状況だ」と書かれていました。それで、“安定”というのは“自分一人で自立できること”なんだなと思いました。
日本の企業は“アップルみたいな企業が出る、出る”と気づいていたのにずっと何もしませんでしたからね。
日本は島国ですが、これが移民国家だと、みんな共通のバックグランドがないからお互いを信じないところから始まるんです。アメリカの企業は、お互いを信頼しないことを前提に組織を作るのがうまい。もちろん、日本の性善説はいいところでもあるんですが…
それを“いいところ”というのは、村上さんの世代感ですね。
そうかもしれません。よく“いまの20代は挑戦していない”と言われます。“ノマドとか、自分なりの生き方とかそういうのだけで生きていて、社会に対して挑戦していないんじゃないか”とも。そのひとなりの価値観を認める、自分なりの生き方、世界でいいんだというのは、もしかしたら”逃げているのかもしれない。逃げていると言われてもなんとなくわかる”と思ってしまいます。
良い、悪いでいうと?
良い、悪いではまだわからないですね。そこから新しい本流が生まれて、いまの考え方が“古い”生き方みたいになるかもしれませんから。
安易に価値判断を下さないで、その先を見据えているんですね。40歳を過ぎた私でもそこまで達観するのはなかなか難しい(笑)今日は勉強になりました。ありがとうございました。
写真撮影:comycomo
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