ミドリムシへの熱い想い、競合ゼロで世界へ挑む "草食世代の経営術"
「ミドリムシ」と言われると、小学校の理科の時に習った記憶しかない人も多いかもしれません。ミドリムシは植物と動物、双方の利点を併せ持った藻の一種です。東京大学発のベンチャー企業として設立された株式会社ユーグレナは、このミドリムシを使った健康食品などを開発しており、業績も好調で、2012年12月末に東証マザーズに上場して以来ますます注目を浴びているバイオベンチャーです。
このユーグレナを率いる出雲充代表取締役社長(33歳)と、サイボウズの青野慶久社長(41歳)による新世代の経営感覚についての対談をお届けします。「肉食世代の経営はドラゴンボール型、草食世代はワンピース型」と例えた出雲社長、その真意はいかに?
ミドリムシで食糧問題とエネルギー問題が解決!?
著書(僕はミドリムシで世界を救うことに決めました)を読ませていただいたのですが、ミドリムシって食べられるんですね。
そうなんです!食べられるんですよ!
人類が膨大な数になった現在、マグロを増やさないといけないし、生態系も調整していかないとなりません。最下層に存在するミドリムシを増やすことで、エネルギーが補えるのではないか、ミドリムシに注目したきっかけはまさにそこです!
私の父は釣りが好きなんですけど「何で世の中、牛や豚ばかり育てるんだろう。どう考えても魚のほうが成長は早いだろう」とよく言っていました。ミドリ虫は他生物に食べられる宿命を背負ってきている。他の生物を増やすためにもミドリムシを増やさなければならない。でも直接食べられれば・・・という発想は面白いですね(笑)。しかも「バイオ燃料も賄える」と書いてありましたね。
世界中の石油会社は代替燃料を探すため、さまざまな植物を絞って検証をしています。この成果により、ガソリンと軽油を作ることは出来たのですが、航空燃料だけは難しい。試しにミドリムシで検証してみたところ「出来る」との情報が出てきました。ミドリムシで飛行機が飛ぶ。これはすごいことじゃないですか?
航空燃料の研究を開始するきっかけはその情報だけだったんですか?
私も最初にその話を聞いたときは冗談だと思いました(笑)。最初は、食料増産を目標にミドリムシを培養していたのですが、ミドリムシはCO2をたくさん吸収することも分かり、温暖化にも対応できることがわかりました。これに加えて航空燃料までカバーできたら、ミドリムシは必ずブレイクする!と確信しました。
化石燃料の埋蔵量は年々減少しているなか、航空燃料については使用量が年々増加している。LCCの登場も影響し、今後も増えていくことは容易に予想でき、ミドリムシを使ったバイオ燃料に世界が期待しているんです。
食料、CO2、エネルギーがカバーできる。キーワードだけでも美し過ぎる並びですね。
人が増えて足りなくなるものは、水、食料、エネルギーと言われています。このうち、2つをカバーできる、出来過ぎですよね(笑)。
「社長を辞めたかったとき」それぞれの乗り越え方
会社のことについてお聞きしたいのですが、最初は苦労もあったようですね。
2005年8月に会社を設立して2008年までは大変な思いばかりで、何度前職に戻れればと考えたか・・・。常に「一個でも売れれば辞めてもいいかな」そう考えていました。
それは意外(笑)。インタビュー記事を拝見して、ミドリムシに覚悟を持って挑戦していると思っていました。
覚悟なんて・・・元々根気がありません(笑)。辛かったのですが、何も出来ないままミドリムシをやめるのがどうしても嫌でした。ミドリムシは僕たち人類よりも生物界では大先輩。僕のことはいくら否定しても構いませんが、ミドリムシだけは誰にも否定されたくありませんでした。
そういえば、スポーツ選手の実力の差は師匠への想いだと聞いたことがあります。「自分が負けたら師匠の評判が落ちる」、そのこだわりが競技への姿勢を変えると。出雲さんにとってミドリムシは師匠のような存在なのかもしれませんね(笑)
初めてミドリムシを購入してくれた方から感謝の手紙をいただいた時、「もう一人喜んで貰うまで頑張ろう」と気持ちが変わりました。その後は一度も辞めたいと思ったことはありません。師匠を認めてもらった、じゃあもっとたくさんの人に認めてもらいたい、きっとそう思ったんでしょうね(笑)。青野さんはサイボウズの代表を「辞めたい」と思ったことはありますか?
一度思いました。サイボウズは時代も後押しし、会社設立から四ヶ月で黒字化。ただ、時代が変わり、私が就任した当初は経営が思い通りにいかなかった。「社長をやると言いましたが、才能がなかったので辞めます」と取締役会に伝えました。
しかし「やめるな、勉強代だと思え」とやめさせてくれない。離職率も高まっていくし、本当に辛い時期でした。
才能がないと思ったきっかけは?
サイボウズのこともIT業界のことも知っている筈なのに、何故上手くいかないのか…上手くいかない原因がわからなかったんです。
気持ちが変わったのは松下幸之助さんの「本気になって真剣に志を立てよう。強い志があれば事は半ば達せられたといってもよい。」の言葉を知った時。「失敗した時に死ぬ覚悟を持っていたか」と振り返り、 “原因”が見えてきました。同時に勉強代と言ってくれた取締役会、残ってくれた社員、この人たちとやっていこうと考えたら、ブレも消えていました。
僕はミドリムシが大好きです。ミドリムシは世の中を変える力を持っている。好きなことを突き詰めて解明したい、みんなが「世の中こうなると便利だな~」と思っているツボを押したい。不景気ですが日本は資産がある。つまり、利益率とか即物的な考え方をせず、本当に好きなことを追及できるんです。青野さんが「一緒に働きたい」と考えた社員、僕にとってはミドリムシは社員の一人。大好きなミドリムシと一緒に働ける、とても幸せなことです。
出雲さんのその考えはまさに新世代の経営感覚ですね。
Linux OS産みの親リーナス・トーバルズの書籍「それが僕には楽しかったから」にもありますね。元々オタクだから、ギークだから、好きでやっているだけ。売上げや利益はあまりないが、好きなことを続けるためには必要。それ以上は必要ない。そして「好き」がビジネスになるとより楽しくなってくる。
青野さんも若くして起業されましたが、グループウェアに人生をかけようと思った“こだわり”はどのようなものですか?
僕は「みんなで働いている」状態が好きなんです。サイボウズは色んな人が色んな言葉で衝突、調和している。それを見るのが好き。サイボウズはそんな「人と人の結びつき」がビジネスの会社、つまりは、社内外問わず僕の「好き」を広げていける。僕はこの自分のビジネスが好きです。ただ、バブル世代も少しだけ経験しているので、旧世代の「他社には負けないぞ!勝ちに行け!」の考えも持っています(笑)。
70年代生まれと80年代生まれで異なる経営感覚とは?
僕はユーグレナの取締役、福本拓元さんと同郷なんです。2010年ぐらいに愛媛県出身者の集まりでユーグレナのお話を聞きました。福本さんは元々クロレラの会社で取締役をされていた。そんな方まで引き込めたのは、出雲さんの「好き」が伝播する力を持っていたんでしょうね。出雲さんはバブル世代の経営者をどう考えていらっしゃいますか?
バブルまでの経営者の成功モデルはドラゴンボール型。修行して強くなって敵を倒し…の繰り返し。強さにインフレが起きてきます。しかし、ワンピースの主人公は特別素晴らしい才能がある訳じゃない。
「海賊王になる」と大きな声で話し、それを信じて仲間が集まりお宝を目指して行く。これが“草食”世代の感覚。
ユーグレナには様々なプロフェッショナルが集まっています。その中で私は「ミドリムシで地球を救う!」と胸を張って言い切れる"プロ"です(笑)。
夢を恥ずかしげもなく語るってなかなかできない。言っておいて実現できなかったら、あとで恥ずかしい思いをするのは自分だから、高い目標は心のうちに秘めてしまう。でも、表に出てこないと人が集まらないし助けられません。発信するのが重要ですよね。
リブセンスの村上さんや20~30代の人と話すとこの感覚をすぐにシェアできるんです。
いわゆる肉食(=バブル)世代を嫌いだったりしないのですか?
僕にはそういう感覚はありません。日本を牽引して豊かな社会を築いてくれた肉食の方々にはむしろ感謝をしています。バブル崩壊後は、物事がインフレしなくなってしまった。“草食”は時代に合わせて変化した結果かもしれません。
競合はゼロ? 世界で勝負できる秘訣は日本古来の技術にあり
これからの時代は、一人が引っ張っていくスーパーサイヤ人型の経営者では対応が難しいのかもしれませんね。競合企業の経営者はいかがですか?
意識はしているのですけど、実は競合がいないんです。ミドリムシを増やせる企業が他に存在しない。
ビジネスチャンスも大きいですし、参入する企業がいてもおかしくないと思いますが、全くいないんですか?
自前で一からミドリムシを研究するより、ユーグレナと協力してリスクやコストを把握しやすいほうが良いですよね。ただ、アメリカは航空燃料が欲しいので、ミドリムシなど藻類を研究しているベンチャーや大学があります。しかも、予算は私たちと常に二桁も違う。
資金が増えればレバレッジが増えて、研究スピードも早くなる。アメリカに先を越されてしまう不安はありませんか?
そもそも、日本は日本酒や味噌、最近では塩麹のように、昔からミドリムシのような微生物に指示をして何かをさせる“発酵”を行ってきました。アメリカにはこの概念がありませんし、指示して何かするのを待つよりも、遺伝子を操作して都合良く動かしてみようと考えてしまう。
日本にはミドリムシを刺激し、行動を研究してきた蓄積があり、これは資金が増えれば増やせるものではありません。
2018年ごろぐらいにミドリムシを培養する大きなプールを作ったりしていると思いますが、それまでは大きな資金は必要ありません。ITの世界は海外が先行していますよね。やはり不安は大きいのでしょうか?
確かに海外が先行していますが、参入企業は世界中に多数存在しています。また、クラウドが登場したことで新しい価値も生まれました。今までは会社ごとにサーバーを買ってOSを入れ、データベースの設計・開発、運用、メンテナンス、一つのシステムがまさに一品料理のようなものでした。
クラウドの登場は、IT業界にフランチャイズ・チェーン店のような動きを生みました。もちろん一品料理が悪い訳ではありませんが、新しい考えにより確実に業界は変化しています。ビジネスチャンスを確実につかむことで先行している企業を追い越すことも可能だと僕は考えています。
ミドリムシも化石燃料業界に新しい価値を提供する存在になるかもしれません。ミドリムシは藻の仲間なのですが、ミドリムシと聞くと「キャベツをかじっているアオムシ」みたいなイメージが浮かぶじゃないですか。そんな存在が「実は凄い!」となったら、皆さんガビーンとしますよね。その時に「私たちは知ってましたよ」って顔をしたいなと(笑)。
下克上感ですね(笑)。
僕にとってミドリムシは自分の娘のような存在。娘がデビューしてトップモデルになっていく様子を見守っている気持ちです。しかし、ここに航空燃料の価値が入ってくれば、トップアイドルになれる可能性も出てくる。モデルとアイドルのトップ、まさに最強の存在になれる。そのために、周りに左右されず「好き」の気持ちを大切に持ってのぞみたいと思っています。
まさにそれは「信念」。肉食、草食に共通する価値観ですね。
(写真撮影 :橋本 直己)
関連記事:
・自分の「強み」を持つことがこれからの時代の「安定」リブセンス 村上太一社長×サイボウズ 青野慶久社長 対談
・もしも「ルフィ」が社長だったら?-「ONE PIECE」から組織マネジメントを考える
SNSシェア