「従業員同士を親友のようにしたい」──スタートトゥデイ×サイボウズ、型破りな人事制度に込めた想い
日本最大級のファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイ。同社は大きな話題を呼んだ「1日6時間労働」をはじめ、「ボーナスの均等支給」「FRIENDSHIP手当」「幕張手当」「FRIENDSHIP DAY」の開催など、生産性やワークライフバランスの向上、社員同士の絆の活性化を目指した様々な人事制度・施策を導入していることで知られます。
一方、サイボウズでも「選択型人事制度」などを通じて社員の働きやすい環境づくりを推進。両社とも時代に合った「新しい働き方」の確立に注力している企業といえるでしょう。
スタートトゥデイ 想像戦略室室長の梅澤孝之氏および社長室室長の篠田ますみ氏と、サイボウズ 事業支援本部副本部長の中根弓佳が対談。「新しい働き方」の実現に向けたお互いの取り組みについて意見を交わします。
「人事」ではなく「人自」に込めた想い
まず、スタートトゥデイさんの事業の概要からうかがわせてください。御社の設立は1998年ですよね?
はい。もともとは輸入CD・レコードのカタログ通販事業からスタートしました。代表の前澤がバンドをやっていて、1995年くらいから個人輸入したCDやレコードをライブ会場で売っていたんです。当初はあくまで趣味でしたが、それが評判になり、ではカタログ化して売ろうと。その際に設立された会社がスタートトゥデイです。
現在、社員はどれくらいいらっしゃるのですか?平均年齢は?
従業員数は470人、平均年齢は28歳です。男女比はちょうど半々、女性が若干多いくらい。年々、女性の社員が増えていますね。今年4月には、これまでで最も多い75名の新卒が入社しますが、男女比も半々くらいです。
また平均年齢が若くなりますね(笑)。若い人が多いというのは、やはり皆さん、ファッションを扱っているという点に惹かれて入社されるのでしょうか?
それもあるでしょうが、一番魅力を感じてもらっているのは、「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」という企業理念だと思いますね。そこに共感して、「自分もスタートトゥデイで夢を叶えたい!」ということで入社してくる人が多いです。
梅澤さんは「想像戦略室」の室長ということですが、その部署名も、御社の理念と関係がありそうですね。
はい。もともと当社のファッション通販サイト「ZOZOTOWN」の「ZOZO」というのは、「想像」の「像」、創造の「造」を意味しているんですよ。「想像力」と「創造力」が事業の両輪ということで。「想像戦略室」は、主に採用・総務・労務といった業務を担当する「人自EFMブロック」があります。一方、「想像戦略室」とは別に「創造開発本部」という部署もあり、そちらはデザインやシステムなどのクリエイティブ業務を担っています。
「人自EFMブロック」は“人事”ではなく“人自”としているのですね。また、EFMとは何でしょう?
“人自”としているのは、「人事(ひとごと)ではなく自分の事、他人の事も自分の事のように考えられる職場環境をつくりたい」という思いからです。一方、EFMとは、Employee Friendship Managementの略で、簡単に言うと「従業員同士が親友のようになる」のを実現するための、様々な施策を立案・実施すること。「人自EFMブロック」のミッションは、その2つが組み合わさっています。
なるほど。私はサイボウズの事業支援本部という部署にいるのですが、この「事業支援」という名前も、いわゆる管理部門の「管理」という言い方がイヤでつけました。実は「ワクワク本部」にしようかという声もあったんですよ。新しい事業を始める時って、ワクワクする一方で、やはりリスクもあるのでドキドキもするじゃないですか?そのドキドキの部分であるリスクは事業支援本部でヘッジし、実行する人たちは安心して事業に専念しワクワクと取り組める、そんな環境を支援したい、という思いです。まあ、でも結局その名前にはしなかったのですが。
面白い!それはぜひワクワク本部にしてほしかったですね(笑)
自転車、ダーツ、ボルダリング、部活動で絆を深める
「従業員同士が親友のようになる」というのは、スタートトゥデイさんのユニークな人事施策の根本にある考え方ですよね。御社では、部活動が非常に盛んだとか。
そうなんですよ。野球やサッカー、バスケットボール、ボルダリング、ダーツ、自転車など、いろいろありますね。部をつくるのは非常に簡単で、原則3人以上のメンバーを集めればOK。EFMの目的に合致するものであれば、活動の種類や内容は問いません。会社から一定の活動費も出ます。
変わったところでは、私も所属していた「ハルラサン(韓国部)」なんていうのもありました。韓流アイドルなど韓国の文化に興味を持っているスタッフが多かったので、じゃあみんなで韓国文化や韓国語を学びましょうということでつくったんです。ちょっと活動が停滞してしまったため、いったん廃部にしたのですが、また機会があれば申請したいと思っています。
部活動を推進している理由はどういう点にあるのでしょう?
当社もアルバイトを含むとスタッフが1000名近くになって、拠点も2カ所になりました。そうなるとスタッフ間でお互い、「顔はなんとなく知っているけど、どういう人かよくわからない」というケースも増えてきた。そこで、仲間としての絆を、仕事を離れた共通の趣味などを通じて深め合ってほしいと考え、部活動を会社として奨励することにしたのです。昔から有志が集まって活動していた部もあったのですが、2011年6月から正式な制度にしています。いろいろな人がいるので、自由に楽しいことをしてほしいです。
実は当社も部活動が活発なんですよ。当社の場合も、内容は不問で、DS部やジェルネイル部なんていうのもあります。ジェルネイル部には男性も参加して一緒にネイルを塗ったりして(笑)。いろいろな部が立ち上がっていて、多くの人が兼部しているので、部活に所属している人の延べ人数は社員数より多いくらいです。 部活動を通して、部門や上下関係を越えたコミュニケーションが活発になりますよね。接点の少ない、他部署の部長等にも気軽に話しかけられます。
確かに。
部活動って継続させるのが大変ですよね?だから当社には、単発のイベントを行う「イベン10(イベントー)」という制度も創設しました。部門を跨って10人集まったら、どんなイベントでも会社が支援(金銭補助)する、というものです。活動報告はシェアしてもらっています。
それはいいですね!
もしあったら、かなり使っちゃいそうです。会社からの支援はないですが、スタッフ同士が集まって、キャンプや音楽フェス、スノボなどに行ったりもしていますね。年末にもスタッフが自発的にライブハウスみたいなところでイベントを開催して、バンド演奏やダンスパフォーマンスを披露したりしています。
スタートトゥデイさんと当社は似ている部分がありますね
社員同士でプレゼント交換。幕張住人には手当を支給。
御社にはほかにもいろいろな制度がありますよね。「FRIENDSHIP DAY」や「幕張手当」など。
ええ。「FRIENDSHIP DAY」は、毎月ランダムに選んだ20ペア40人のスタッフに、ZOZOTOWN内で使用できるポイントを「FRIENDSHIP手当」として支給し、選ばれた人同士が相手のためにプレゼントを用意。毎月20日に開かれる「FRIENDSHIP DAY」というイベントで交換しあうというものです。お互い全く知らない人同士のペアも多いのですが、「なぜこのプレゼントを選んだのか」などを話し合っているうちに打ち解け合って、仲良くなれます。
「幕張手当」は、本社の所在地である幕張近辺に住むスタッフに手当を支給するものです。全スタッフの約7割がこの手当を利用して幕張近辺に住んでいますね。これは、スタッフ同士が仲良くなるためというよりむしろ、「会社がある幕張を活性化したい!」という代表の想いから実現しました。
同僚の多くが近所に住んでいるということで、面倒だなと思うことはないのですか?
僕自身、手当をもらって幕張に住んでいて、同じマンションに5人くらい同僚がいますが、不都合なことは全くないですね。むしろ、お互いの家に気軽に遊びに行ったり、家族ぐるみで付き合えたりと、メリットのほうが大きいです。東日本大震災の際も、多くの人が会社の近くに住んでいて歩いて帰れるので、混乱が起きませんでした。これを機に、支給額も3万から5万に増え、利用する人も増えました。実家の人にも出ますよ。
私も幕張に住んでいますが、すっぴんで出歩きにくいなど、正直ちょっと困ることはありますね(笑)
ひと昔前の日本企業では、会社の運動会などに無理やり参加させられる、みたいなことがありましたが、今はそういう強制的なものとは違った、社員同士の自発的かつ緩やかなつながりが生まれているように感じます。また、「仕事の時間以外まで会社の人と顔を合わせたくない」といった風潮も社会的に一時あったように思いますが、それも変わってきているのかな、という気もします。
当社には、役職などに関係なくみんなが気軽に話せる風土があります。僕も一応、室長という立場ですが、みんな結構ラフというか、フランクに話しかけてくれますよ(笑)。これは代表がそういうフランクな人だからという影響が大きいと思いますね。いつもふらりとオフィスを歩き回って、スタッフに「元気?」「髪切った?」なんて話しかけていますから。
スタートトゥデイ社の友情を大事にする社風を感じました。次回は、1日6時間労働の実際の様子について伺います。後編もどうぞお楽しみに!
写真撮影 :本田 正浩
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執筆
荒濱 一
ライター・コピーライター。ビジネス、IT/デジタル機器、著名人インタビューなど幅広い分野で記事を執筆。著書に『結局「仕組み」を作った人が勝っている』『やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)。