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エンジニアに「資格試験」って意味あるの?
サイボウズ・ラボの西尾 泰和さんが「エンジニアの学び方」について探求していく連載の第10回(毎週火曜日に掲載、火曜日がお休みの場合は翌日、これまでの連載一覧)。
今回のテーマは「資格試験」です。
本連載は、「WEB+DB PRESS Vol.80」(2014年4月24日発売)に執筆した「エンジニアの学び方──効率的に知識を得て,成果に結び付ける」の続編です。(編集部)
「情報処理技術者試験(特に基本情報技術者)は、初心者がコンピュータサイエンスを学ぶ素材として適切かどうか知りたい」という質問がありました。筆者自身は資格試験を受けたことがないので、いろいろな人に意見を聞いてみることにしました。
まずは大手ITベンダーにお勤めのAさん(仮名)にお話を伺いました。
「基本情報処理試験とかは良いのか悪いのか」という質問があるのですが、僕自身は資格試験を受けようと思ったことがないので、受けた人に「どうして受けたのか」「よかったか」を聞きたいのです。
なるほど。僕は学部生のときに受けたのですけど、大学に入って初めて体系だってコンピュータを学んだので、自分の力試しをしたいというのが最初のモチベーションでしたね。
なるほど。
結構広い範囲を網羅してる試験なので、授業でやってない範囲も多く、丸暗記になったのも確かです。
受ける前にある程度は理解度に自信があって、それを確認するために受けてみることにしたのですか?
その通りです。学生で受ける人は、そういう人が多いと思います。あとは、授業の単位に認定される場合もありますね。就職前に、履歴書に書くために受ける友人もいました。
今から受けようかどうかなやんでいる人がいたら、どういう人ならオススメします?
その人のバックグラウンドによりますが、少なくともIT業界で働くなら知ってて損はない知識範囲の試験なので「受けとけ」と言うと思います。たとえ丸暗記になっても、用語やキーワードに1度触れることができるので。
たとえ丸暗記で凌ぐことになっても、広い範囲に一度目を通すことになるので有益、ということですか。
はい。僕はそう思ってます。
なるほどなるほど。
就職してからは、やはり1〜2年目の若手が、登竜門としてこの試験を受ける傾向にありました。もちろん会社によっては報奨金とかがあるんでしょうけど、特に、他分野からIT業界に来た人は、同期、先輩、上司などに言われて受ける人が多いです。
僕はすでにもっていたので、当時は会社の後輩や同期に基本情報技術者試験の勉強などを教えてましたが、業務に直接結びつかない勉強をする機会が少ない会社において、コンピュータの基礎を教えるいい機会として活用していました。特にキューやリストといったデータ構造や、アルゴリズム周りは徹底的に基礎から教えてました。
業務に直結するノウハウからトップダウンの話と、基本情報技術者試験のような基礎からボトムアップの話を組み合わせると、彼らの頭に残りやすいので。
なるほど、教える機会になった、と。でも新人研修は別途あったんですよね?
ありましたね。会社にもよると思いますが、うちの新人研修では、どちらかというと業務上必要な資格の試験勉強に近い内容と、Javaなどプログラミングの基礎を中心にやりました。あとは、擬似プロジェクトですね。ですのでいわゆる「基礎」を中心にやる時間が少なかったです。
新人研修では具体的なHowToが多くて「なぜそうなのか」という背景の知識にあまり触れられない?
たとえば「DBにインデックスがあるとなぜ速いのか」というテーマに関して「データ構造が……Bツリーが……」といった原理から説明するより「全体の○○%にデータにアクセスする際はインデックスが速い、過半数にアクセスするならフルスキャンが速い」という業務に結びつく説明が行われていました。こういった知識は現場では有益ですが、応用が利きにくい。ちょっと複雑なトラブルシューティングとかになると、とたんに対応できなくなる。そんな若手が非常に多かったですね。IPAの試験は良くも悪くもこの辺りを網羅しているので、教材としては扱いやすいと思いました。
なるほど。応用力をつけるために資格試験を通じて基礎を幅広く学ぶことが有益だったのですね。逆に「資格試験受けても役に立たない」のような反対派の人はいませんでした?
そういう人は、僕の観測範囲でも一定数いました。でも「資格を持っていること」に意味がないという人はいますが、受かるまでの勉強の過程に対して「役に立たない」と言っている人は、今のところいませんでした。僕自身も、基本情報技術者を持ってること自体にはあまり価値はないと思いますが、そこに至る過程には価値があると思っています。
特に、漠然と勉強するよりもデッドラインと達成目標があったほうが頑張りやすいですしね。
ですね。あとは、ネガティブな考え方ではありますが、日本社会には一定数、資格史上主義な人がいます。「基本情報技術者も持ってないなんてエンジニアとして使えない」といった考えをする人です。そういう人たちを黙らせるためにも、僕の周りでは、基本情報技術者といった資格を持っていることには意味が生まれました。
特にお客さんですね。お客さんの中には、「基本情報技術者も持ってないのか、じゃあいらん」という人も一定数います。自分で相手のスキルを評価できないから資格で判断するわけです。なので、内容の網羅性や、勉強につながるといった側面だけでなく、お客さんや周りを納得させる1つの材料として、資格は有益です。
基本情報技術者を持ってないことをダメ出しする人はいても、持っていることをダメ出しする人はさすがにほぼいないでしょうから。
「基本情報技術者を持っていること」ではなく、受けるために「幅広い分野を学ぶこと」に価値があるという主張でした。応用力を身につけるための「基礎」を学ぶ機会として有用だったとのことです。
Aさんは、資格試験に関してとても肯定的でした。バランスをとるためには否定的な意見にも耳を傾けてみる必要がありそうです。そこで次回は、アニメ制作会社システム管理者のおおつねまさふみさんに、資格試験のネガティブな側面についてお話を伺います。(つづく)
「これを知りたい!」や「これはどう思うか?」などのご質問、ご相談を受け付けています。筆者、または担当編集の風穴まで、お気軽にお寄せください。(編集部)
謝辞:
◎Web+DB Press編集部(技術評論社)のご厚意により、本連載のタイトルを「続・エンジニアの学び方」とさせていただきました。ありがとうございました。
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