ブロガーズ・コラム
仕事はルールとモラルの切り分けでうまくいく
【サイボウズ式編集部より】この「ブロガーズ・コラム」は、サイボウズの外部から招いたブロガーに、チームワークに関するコラムを執筆いただいています。今回ははせおやさいさんが考える「仕事でうまくいくルールとモラルの切り分け方」について。
こんにちは。はせおやさいです。仕事を依頼する際、「何度言っても納期や約束を守ってもらえない……どうやって管理すればいいの?」という困った場面に遭遇することがあります。そういった場面において、混同しがちな問題点があるのですが、それは「ルール」と「モラル」の違いです。
今日はそのことについて書いてみようと思います。
何度お願いしても約束を守ってくれない相手、どう対処すればいい?
「Aさんがいつも締め切りを守ってくれないんだけど、どうすればいいんだろう。みんな残業して、なんとか間に合わせようとしているのに……」と相談されたとき、あなたならどう答えますか?
この会話で相手が感じている問題点、実は2種類あります。それは「締め切りを守らない」という点と、「それを何とかしてカバーしようとしない」という点。
前者を守らせるには「ルール」が大切で、後者のマインドを持ってもらうためには「モラル」の育成が必要という、似ているようでまったく違う問題なのですが、どうしてもこの2つは混同されがちです。
「ルール」と「モラル」は別のもの、と考えよう
「ルール」と「モラル」の違いについて、前項の問題をもとに説明してみます。
「◯月◯日までにこれをお願いね」という仕事を依頼したとき、その締め切りを守るのは「ルール」です。「ルール」が定めるのは最低限守るべき「約束ごと」であり、必達事項です。あまりに続くようであれば、業務不履行としてしかるべきペナルティや訓告が発生しますし、そのことを両者が仕事を開始する前に、しっかり共通認識しておく必要があります。
一方、「できる範囲で締め切りに間に合わせる努力をする」のは「モラル」で、あくまで個人の判断であり、強制されるものではありません。個人的には、この中に「どう見積もっても締め切りに間に合わないかもしれないから、早めに相談をする」も含まれると思っています。ルールとは異なり、モラルに基づいて期待する行動は、相手がしてくれるのであればこちらは非常に助かりますが、あくまで相手の判断に委ねるもので、強制するものではありません。
基本的には、相手のモラルに依存しないでも予定が進行するような設計をするべきです。
「プロとして締め切りを守るべき」は「モラル」
「そんなこと言っても、締め切りを守るのはプロとして当然のことだろう」という気持ちも、よくわかります。わたしも同感です。でも、その価値観がすべての人に適用できると思わない前提で物事を進めるほうが安全です。誰もが自分と同じ価値観・モラルを持っていると思って仕事を進めるのは、とても危ない。こちらの常識と相手の常識が、必ずしもイコールとは限らないからです。
こちらが適正だと思って頼んだ仕事の締め切りが、相手にとっては無茶な日程かもしれませんし、無茶な日程だからそもそも守れるはずがないじゃん、と思われているかもしれません。そして、締め切りに間に合わないかもしれないことを、余裕をもって事前にこちらへ伝えるべきだと相手が思っていてくれるとは限りません。
頼んだ仕事の締め切りを破られて困るのは自分なので、自分が困らないよう、あらかじめ予防策を取っておこうと思うなら、相手の「モラル」には期待しないほうが安全です。(もちろん、自分はこうあるべきだと思う、というのを相手に伝え、相手が共感してくれるならそれに越したことはありませんが、根気と繰り返し伝えていく努力が必要になるので、あまりおすすめできません)
「◯日までに仕上がらなかったらペナルティ」が「ルール」
「モラル」の育成には根気と時間が必要になりますが、「ルール」は明確です。
相手がルールを守らなかったこと、今回でいうと納期を守らなかったことで起こりうる損害について、事前に防げるように両者が努力をする前提を約束した上で仕事をスタートさせるべきですし、防ぐための措置を取らなかったことの責任は、相手にもとってもらうべきではないかと思います。
ペナルティはすなわち金銭的なものとは限りませんが、相手の業務不履行でこちらがどのような損害を負う見込みか、実際に負ったのかは、数字とともに、きちんと説明できるようにしておいた上で、ルール違反として厳しく指摘するほうがよいかと思います。
新入社員のときにやらかした思い出
こういった「ルール」と「モラル」の違いについて考えるきっかけとなったのが、新入社員のころにしでかした大きな失敗でした。
新卒1年目、あるデザイン会社に勤めていて、某メーカーのノベルティ用に使うグッズを制作する仕事を請け負ったことがありました。かなり無理な納期だったこともあり、現場からは当初約束をしていた納期から1日ほど後ろ倒しできないか、という相談を受けていたのですが、納期の遅れについての認識が甘かったわたしは、その相談をギリギリまで取引先にできずにいました。正直、「1日くらい、大丈夫だろう」という甘えがありましたし、それまでも何度か納期を半日〜1日ほどずらしてもらったことがあったので、今回もまあいいだろうと勝手に思い込んでいたのかもしれません。
直前になって、実は……と納期変更の相談をしたとき、相手からは、烈火のごとく怒られました。
正直、当時の上司にも言われたことがないほどの厳しい口調で、なぜ今回のことがいけなかったのか、の理由を説明されました。それは、わたしが「まあいいか」と判断した1日の遅れのせいで、そのノベルティを封入するために確保していた数十人のパートさんの時間はどうなるのか、さらに、改めて同じだけの人数を集めなければいけない人の手間を考えたのか、その上で、こんな直前に「1日ほど後ろ倒ししてください」と言っているのなら、お前はプロ失格だということで、当時のわたしにとって、まったく想像もしていなかった理由でした。
自分のしている仕事の先にまた他の人たちがいて、わたし一人の勝手な判断で、その人達にも大きな迷惑がかかるということを、認識できていなかったんですね。納期を守れないのはルール違反でしたが、それで発生する問題を最小限にするためなるべく早く相手に相談しよう、というのはモラルの話で、当時のわたしはまだそういった常識を知らなかったのです。
相手と自分の「モラル」は違うと認識しよう
この強烈な思い出もあり、わたしにとって「プロは納期を死守するもの、それが難しい場合は、可能な限り早く相手に報告し、状況をリカバリすること」というモラルが深く根付いているのですが、社会に出ていろんな人と仕事をしてみると、そうでもない、という人たちが、思ったより多いです。
もちろん業界や社風によるのかもしれないのですが、以前はそのことを許すことができず、よく腹を立てていたのですが、よくよく考えてみたら、その苛立ちは自分が考える「これがプロだ」というモラルを相手に押し付け、押し付けた上で相手に勝手な期待をしていたことで起きていたのです。そんな身勝手なことをしていたら、うまくいかないのは当たり前ですよね。
相手と自分はそれぞれ違う価値観を持っていて、それでも予定のスケジュールを達成するために、何をどうしたらいいだろう、どんなルールを決めるほうがいいだろう、という前提で考える方が効率も上がり、クオリティも高くなる、ということに気付いてからは、仕事で腹を立てることがなくなりました。
もちろん、対価に対して期待する成果物は何かというルールは明確に設定する必要はありますが、わたしの価値観と相手の価値観がイコールなはずはなく、また、遅れたことで困るのは自分自身です。万が一、相手がゆるふわでもなんとかなる、という前提でスケジュールとルールを組めば、いちいち無駄に腹を立てる必要はなくなるんですね。
ということで、「相手は相手、自分は自分。お互いの常識やモラルがイコールだとは限らない」という前提のもと、相手のモラルに期待することなく、お互いが無駄なストレスを抱えずに仕事をするためにも、「ルール」と「モラル」の切り分けをしっかりしておくとよいのではないでしょうか、というお話でした。
今日はそんな感じです。チャオ!
イラスト:マツナガエイコ
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執筆
撮影・イラスト
松永 映子
イラストレーター、Webデザイナー。サイボウズ式ブロガーズコラム/長くはたらく、地方で(一部)挿絵担当。登山大好き。記事やコンテンツに合うイラストを提案していくスタイルが得意。