ブロガーズ・コラム
メールやチャットの文章に顔文字は必要か?
To:朽木誠一郎さん
納品遅れておりまして申し訳ございません。あと30分程お待ちいただけますか。
ライターさんとやりとりしているとよくあるのがこんな連絡だ。納期守れない派の僕としてはここでできるだけ穏便にコトを済ませ、よりよいクリエイティブを期待するべく返事をしなければならない。
To:ライターさん
承知いたしました。お待ちしております。
もしあなたがライターさんだったとして、上記のテキストメッセージを受信したら、どのような印象を持つだろうか。僕は怒っているのか、そうではないのか、図りかねるはずだ。
そんなとき、下記のように返信をするのはどうか。
To:ライターさん
承知でヤンス。お待ちするでヤンス。
決してふざけているわけではない。いや、ちょっとだけふざけてはいる。でも、おそらく僕が怒っていないことは相手に伝わっただろう。
実はこれは本当にあったやりとりで、最後ははまさかの展開に。
ライターさん
RE 朽木誠一郎さん
こちらでお願いするでゲス。
[ファイル]
テキストメッセージツールでビジネスシーンは変化している
テキストメッセージでやりとりするツールはビジネスシーンに多数存在し、僕自身、メール以外にもChatWork、Slack、サイボウズLiveを主に使用している。本来はビジネス用ではなかったFacebookメッセンジャーも、Web系の気軽さゆえか、グループチャットで毎日追い切れないほどのメッセージのやりとりが発生するようになった。
このようなチャットツールによって激変したのが、チーム内のコミュニケーションだ。みなさんもおそらく、テキストメッセージによるオンラインコミュニケーションの頻度が増えているのではないだろうか。
チャットツールによって、移動中の電車からでも、自宅にいても、チームメンバーへの報告や承認、簡単な打ち合わせができる。これはWebやスマートフォンの発達による新しい文化といえるだろう。働き方が多様化し、リモートワークやフリーアドレスなどの勤務形態が少しずつ広がりを見せる中で、チームワークの媒体となるものもまた移り変わっていくのかもしれない。
ライター・編集者という職業柄か、僕はテキストメッセージが相手に与える効果について、もう少しだけ踏み込んで考えてみたいと思う。
ビジネスシーンで顔文字のようなスラングを使用するのは失礼か
みなさんはテキストメッセージを作成するとき、顔文字のようなスラングを使用していますか?
というのも、イケイケのWeb系だった前職時代、できるだけ論理的に、わかりやすいテキストメッセージでやりとりしていたつもりが「無機質でコワイ」「なんか頭が良さそうでいけ好かない」と言われたことがある。たとえばプライバシーへの配慮で一部改変したのが下記のようなメールの文面である。
まず、こちらの記事ですが、タイトルが「ピンチをチャンスに変える究極の謝罪メソッド」となっていますが、本文中にはミスを「チャンスに変える」「究極の」と言えるほどのメソッドは含まれておらず、釣りのようなタイトルになっていると感じました。
また、全体的に、真面目なのかふざけているのかトーンが定まっておらず、この記事が誰に、何を目的に制作されたものなのかが一読してわかりませんでした。
こう見るとたしかにコワイかもしれないが、いけ好かないというのはちょっと待て、もはや人格の否定ではないかと悲しい気持ちになったものだ。しかし、たしかに入社の際のやりとりも「●日からとりあえず来てください^^」(だけ)みたいな企業文化だったので、郷に入りては郷に従えとばかりに「ヤンス」などと言うようになってしまった。
しかし現職では、編集・ライティングの大先輩のもと、仕事のやりとりはフラットな文体でおこなわれる。もちろん飲みに行く専用のチャットなどもあり、そこでのやりとりはくだけたものだが、業務に関連する内容についてはしっかりと一線が引かれている。
仕事とはかくあるべきとも思うが、相手の感情を読みにくいのはこのコミュニケーション手法の難点のひとつである。ビジネスパーソンはどのようにこの課題を解決しているのか、ブロガーズ・コラムのチームメンバーに聞いてみた。ハングアウトで。
ビジネスパーソンの頭を悩ませる「感嘆符多用し過ぎ問題」
わたしは無機質で冷たい感じを避けようと「!」を多用していたら、ドラゴンボールの悟空みたいなハイテンションのメールになってしまって、慌てて修正したことあります。
おっす!!! おらファーレンハイト!!! Webを愛するみんなが大好きだぜ!!!!!
やめてwww
やっべえ、自分「!」を使いまくるっす!
藤村さん、何かすいません、、
感嘆符は意欲を示しつつ、ややフランクな印象を相手に与えることのできる優等生だ。しかし、結果として感嘆符を多用しすぎてしまうと、某国民的人気アニメのような印象は否めないので、注意したい。
また、僕のレスポンスにある「w」は、インタビューなどで見かける「(笑い)」「笑」よりもより記号に近い印象であり、テキスト中に挟み込み、こちらが好意・あるいはユーモアを受け止めたことを示すことができて使い勝手がよい。しかし、これをどの程度親しい間柄から使用していいものかは頭の痛い問題だ。
「ごめんなさい」と言わずに「ごめんなさい」を伝える
僕はごめんなさいと思っているときに「、、」と読点を二回打ちます。
個人的には()に印象を柔らかくする文言を入れちゃいますね。
わたしはつい「#」で補足を入れてしまいますね……。
こちら側に落ち度や、相手に気兼ねする意識がある場合にも、さまざまな表現が考えられる。素直に謝罪すればいいとは思うが、それがビジネス上の都合でできないこともあるだろう。
ライター・編集者としてははせさんのように三点リーダー2回が正解だが、「・・・」のように中点3回の場合も、僕のように「、、」とする場合もしばしば見られる。(ここでは「すいません」と謝ってしまっているけれど)
広く印象をやわらげる際には「補足」が効果的だ。長らく「P.S.」のように補足をする文化があったが、最近は「こちらお願いできますでしょうか(申し訳ないです)」のように括弧書きで補足をしたり、アスタリスク(*)により補足をしたりする場合もある。
ひらがなと漢字の割合、みんな気にしてる?
ひらがなを多用するというのも学んだなあ。漢字だらけのぶんしょうよりも、やわらかさが増しでいいかんじに。
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あえてのひらがなはぼくもよくやります。
メール文をヒキで見て、漢字や文字が詰まってて「黒っぽいな……」と思ったら部分部分をひらがなにしたりしますね!
ライター・編集者の間でよく言われることだが、ひらがなと漢字の割合は読者の印象に直結する。プロであれば明確なひらがな/漢字のルールがあるのでその枠内で工夫をするわけだが、テキストメッセージであれば自分がひらがなにしたい漢字をひらがなにすればいいだろう。
上司からのテキストメッセージ、短くありません?
ちなみに、以前の職場では役職が上になるほどメールが短文になって、こっちは気を遣って長文で返信するのに、上司からは来るのはやっぱり1〜2行のメッセージで「なんだこの片思い……」みたいなモヤモヤをずっと感じていましたねw
偉い人ほど時間がないのと、返信するべきメッセージが大量にあるので当たり前なのですが。
わたしは逆に、短すぎるとそっけないかな……と思ってくだらない行を足したりしてしまいます……。
そういうのはリアルで会ったときとかに補足がほしいですよね。
テキストメッセージによりリアルタイムでやりとりできることは、おそらくチームの生産性を向上させたことだろう。だがやはり、直接顔と顔を合わせないやりとりには精神的コストがかかる。チームワークという観点で言えば、時々は対面で補わないとコミュニケーションロスがありそうだ。
ちなみにここまで日野瑛太郎さん不在。チャットは必要なときに適宜開始でき、速やかに反応が得られることもあるが、当然メンバーがそろいにくいという欠点もある。
結局は相手次第だからこそ、思いを伝える努力が必要なんじゃないか
ブロガーズ・コラムのメンバーでやりとりをしてみて、オンラインのテキストチャットをビジネスシーンで利用する際には、共通言語、そして信頼関係があることが条件だとわかってきた。
言葉というのは結局、相手がどう受け止めるか次第だ。伝えたい情報をロスなく、バイアスなく伝えるためには、これらの条件を意識する必要がある。
同時に、顔文字に代表されるようなスラングは、共通言語がない場合に補足をしたり、冒頭の事例でいえば、“承知いたしました。お待ちしております。”というように、フラットな返信ができるような信頼関係を構築したりするものだ。
そもそも、フラットな返信のほうが労力も少ない。それでも僕は、テキストのコミュニケーションにおいては、このような「遊び」が多少は必要になるのではないかと思う。ブレストに参加してくださったイラストレーター・マツナガエイコさんは、次のように言っていた。
フリーランスでも悩むことあるので興味深いですー。メールは比較的ちゃんとして指示書とかで手書きの落書き入れたりしてやわらかさを演出します( ´ ω ` 三 ´ ω ` )
「落書きを入れる」というのはイラストレーターならではのコミュニケーションだが、それにより相手は「(送信する側が)それだけのリソースをかけた」という事実と、その主たる理由である「相手と円滑にコミュニケーションがしたい」という意思を受け取るだろう。
もちろん、目上の立場への礼儀やオンライン空間におけるTPOは遵守するべきだが、相手と良好な関係性を築きたいという意思表示としてのテキストの「遊び」は、これからも文化として発展していってほしいと思う。
みなさんはテキストでのコミュニケーションにおいて、どのような「遊び」を取り入れているだろうか?
イラスト:マツナガエイコ
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執筆
朽木 誠一郎
地方の国立大学医学部を卒業後、新卒でメディア運営企業に入社。その後、編集プロダクション・有限会社ノオトで基礎からライティング・編集を学び直す。現在は報道機関に勤務しながら、フリーライターとしても執筆中。
撮影・イラスト
松永 映子
イラストレーター、Webデザイナー。サイボウズ式ブロガーズコラム/長くはたらく、地方で(一部)挿絵担当。登山大好き。記事やコンテンツに合うイラストを提案していくスタイルが得意。