ブロガーズ・コラム
新人の感じる「無力感」は「思い込み」。目の前にある仕事をひとつひとつこなそう
サイボウズ式編集部より:9月も中旬になりました。新卒で会社に入り、部署に配属され、ようやく仕事に慣れてきた方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。そんな中で、「自分はまだ何もチームに貢献できていない」と悩みを抱えている方は多いのでは?
著名ブロガーによるチームワークや働き方に関するコラム「ブロガーズ・コラム」。今回は、新人にありがちな「無力感に対する悩み」をあらためて考えてみようと思います。
ブロガーズ・コラム チーム4人でお届けします。第1回目ははせおやさいさんです。
こんにちは、はせおやさいです。
長年働いていると、後輩や若手世代から「自分が会社やチームに貢献できていなくて悔しい、無力だ」という相談を受けることがあります。
なるほど、それは強い責任感から出ている言葉なのでしょうし、その意気やよし!という感じでもありますが、その「りきみ」というのは、ともするとネガティブに作用してしまうこともあるのではないかな、と感じることがあります。
新人にありがちな「無力感」とは何か
「自分は無力だ」と悩む人たちの話を聞いていると、いくつかの共通点があります。
売上や数値など、もっと成果を出したい。
チームや仲間に対して、もっと役に立ちたい。
仕事をする上で目標を追うのは当然のことですし、関わる限り、なんらかの成果を出したい、というのは、当然の心境です。自分が与えられている目標はもちろんのこと、上司や先輩が与えられている任務に対していくばくかの貢献をしたい、という当事者意識が責任感をもたせ、結果スキルアップにつながる、という視点では、素晴らしい意気込みだと思います。
ですが、それはその理想に追いつくだけの実力が伴ってからの話、とも言えるのではないかと思います。上を見ることも大切ですが、上を見すぎて空回りをしてしまい、結果、無力感に打ちひしがれる。その差が大きければ大きいほど、落胆も深く、繰り返し落胆を味わうことで、自信を喪失していってしまうこともあります。
そんな人たちを多く見てきたので、「貢献したい」という熱い姿勢を見ていると、心から応援したいと思いつつも、いつかどこかで折れてしまうのではないかと、心配でなりません。
力み過ぎると、ろくなことがありません
ある若手の男の子と、同じチームになったときの話をします。
第二新卒として意気揚々と入社してきた彼は、最初に入った大企業のゆっくりとした体質に耐え切れず、スピード感をもって仕事がしたい、と転職してきた組。本もよく読んでいて、フレームワークなどの知識も豊富です。その意気込みを買われて、ある新規プロジェクトに投入されることになったので、わたしもサポート係として入ったのですが、当然ながら経験不足もあり、任されたタスクが1つ2つ、5つ6つとこぼれ始めていきました。
抱えきれなくなり始めたタスクを拾い、空回りしながら焦る彼の援護をしつつ、いよいよプロジェクトが山場を迎えようとしていたとき、彼があるトラブルを起こしてしまいます。外部パートナーとして一緒に事業を進めようとしていた会社の担当者と口論になり、うちはもうこの仕事から降ります!と言われてしまうほどにこじらせてしまったのです。
本来であれば、先輩として彼と一緒に対応策を考えつつ、本人に行き違いを収めさせるべきだとする議論もあったのですが、納期も迫っていたことから緊急措置として彼を担当から外し、事なきを得ました。
が、そのときの彼の意気消沈ぶりは見ていて本当に痛々しく、緊急措置としてでも担当を外したことは間違いだったのでは、と後悔すらしました。
ともあれ、なぜそこまで状況をこじらせてしまったのかのヒアリングをしたとき、我々は彼の焦りの強さがどれほどだったかということを知ったのです。
彼は彼なりにプロジェクトに貢献しようと日々奔走していたのですが、いかんせん、新規プロジェクトというのは海千山千(うみせんやません)の集団になることが多いです。不確定要素も多く、方向転換もよくあることです。二転三転する状況と、様々な経験を持って集まってきた猛者たちの中では、どれだけ優秀とはいえ、第二新卒が勝てるスキルは、なかなかありません。
そんな中で彼は自分の能力をアピールしなければ、優秀だと思ってもらわなければ、という焦りといら立ちが空回りし、外部パートナーに高圧的な態度を取ってしまった、というのが経緯のようでした。
自分にできることをしよう
そこで我々のチームが彼にお願いをしたのは、最も年齢が若い彼の体力を見込んで、ハードなスケジュールで全員の進行が乱れないよう、ペースメーカーとして振る舞ってほしい、ということでした。
毎日、同じ時間に出社し、徹夜することなく先に帰り、与えられた仕事をきちんとこなすこと。進捗会議のタイムキーパーとして、全員に目を配ること。プロジェクトというのは、どうしても各員の特性に応じて忙しさに波が出てしまいます。その波にのまれて一部の行動が乱れると、全体が総崩れになってしまう。彼には仕事の偏りが出るほど強い特性がまだなかったので、そのぶん「全員に目を配る」という俯瞰の視点を持ってもらうことにしたのです。
結果的に、これは功を奏しました。彼が進捗会議を設定し、全員に声をかけて進行することで各員が自分の作業に集中できるようになりました。言い換えれば、彼が雑用を引き受けてくれたおかげ、と言えるかもしれません。さらに納品直前、全員の集中力が切れかけたタイミングで彼のチェックによりミスが防げた、というファインプレーもありました。
プロジェクトが終わり、打ち上げの席についた彼からは焦燥感が消え、「雑用ではあったけれども、チームの一員としてしっかり貢献ができた」という自信が見て取れました。
無力感はなぜ起きるか
おそらく、彼の焦りやいら立ちの原因は「自分はもっとできるはず」「なのに、チームにまったく貢献できていない」という思い込みからくるものだったのではないかと思います。本もよく読み、学生時代は起業も考えていた、という意識の高さでしたし、実際に前職では優秀な新卒が入社してきた!と言われていたようで、その自負もあったのかもしれません。
個人的にも頭のよい子だと感じましたし、もし空回りすることをせず、自分の役割をきちんと果たしていれば、十分に優秀なビジネスマンだったと思います。
しかし、嫌な言い方をしてしまうと彼は自分を過大評価していて、さらにそれを周りに知らしめたい、というおごりもあった。この2つは、とても取り扱いが難しい感情です。過小評価しすぎて萎縮してもダメだし、周りにアピールしなさすぎても不利になる。そのバランスを取れるようになるまでは、ある程度の経験が必要です。今回の場合、彼は過大評価している自分と、実際の実力の差を受け入れられず、理由のない焦りや無力感を抱えてしまっていたようでした。
一方で、新人の彼が入ってくることによりチームには連帯感が生まれ、全員が彼に目を配りながらプロジェクトを遂行しよう、という意識がわきました。彼にこのプロジェクトでどんな経験を積ませるべきか、どんな景色を見せれば、彼の将来のキャリアの役に立つか。そこで我々が見せられる背中は、どんなものか。経験豊かなメンバーだけで組成されたチームだったら、それぞれがスタンドプレーを連発し、プロジェクトは難なく終えられたかもしれません。しかし、彼の存在があったことで「チーム全体の動きとバランスを見る」という視点を得ることができたのでした。
結果論かもしれませんが、新人の彼が入ってきたことにより、チームは活性化し、我々も新しい視野を得ることができました。また、彼自身も、「まずは与えられた仕事をきちんとこなすこと」というスタートラインに立ち戻ることができ、着実に、堅実な仕事のやりかたを覚えることができたのではないかと思います。
10人いるチームの10人が、全員同じ役割を担うわけではありません。
「今の自分にできることはなにか」「今の自分がすべきことはなにか」を謙虚に見据えて、自分にできることを遂行してそれぞれが成長する。それがひいてはチームや組織全体の成長につながるのではないか、と思っています。
「経験を積まなければ!」「スキルアップしなければ!」と焦る気持ちも分かります。もちろん、未来を見据えて、今なにをすべきかを考えることは非常に重要です。ただ、同時に「今、目の前にある仕事」をひとつひとつこなすことの大切さも心にとどめておいてください。
残念ながら、「自分のやりたいこと」が会社の「仕事」として用意されているとは限りません。ただ、「今やっていること」と地続きの場所にしか、自分の未来がないのも事実です。であれば、今自分に何ができるのか、与えられた仕事をどれだけの高さで遂行できるのか、に挑戦し、それを続けてみてください。そして、一見「自分のやりたいこと」とは関係がないように見える業務でも、その本質はなにか、その仕事が目指しているものは何かを常に観察し、考え続けてください。その繰り返しで得たものは、必ずあなたの未来にある「あなたのやりたいこと」の役に立つはずです。
自分には何もできない、と無力感に襲われそうになったとき、焦らず深呼吸をし、まずは足元を見つめ直してください。今のあなたにしかできないことが、必ずあるはず。焦りそうなときほど着実に。そんなふうにして仕事に取り組んでもらえればと思います。
今日はそんな感じです。
チャオ!
イラスト:マツナガエイコ
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執筆
撮影・イラスト
松永 映子
イラストレーター、Webデザイナー。サイボウズ式ブロガーズコラム/長くはたらく、地方で(一部)挿絵担当。登山大好き。記事やコンテンツに合うイラストを提案していくスタイルが得意。
編集
あかしゆか
1992年生まれ、京都出身、東京在住。 大学時代に本屋で働いた経験から、文章に関わる仕事がしたいと編集者を目指すように。2015年サイボウズへ新卒で入社。製品プロモーション、サイボウズ式編集部での経験を経て、2020年フリーランスへ。現在は、ウェブや紙など媒体を問わず、編集者・ライターとして活動をしている。