在宅医療に商品価値の発想を──ビジネス視点で福祉の未来を切り開く若き経営者の挑戦
障害のある方々の自宅に理学療法士や看護師を派遣する訪問看護。リハビリセンターでの遊びを通し障害児の発達を支える児童デイ。両方を展開する「青竹のふし」は、建設から福祉へ転身した株式会社関西が運営している。
家族、医師、看護師、療法士、行政からなるチームをクラウドで結び患者・家族に安心を提供している関西の青山敬三郎社長が、サイボウズ青野慶久社長と医療への民間参入や、会社経営について意見を交わした。
建設から福祉へ、異業種への挑戦
青山さんは、どういうきっかけで建設業から福祉業に入ったのですか?
親が創った関西は建設業で今とは全く別の会社でした。私が手伝い始めた頃は、バブル崩壊で建設が下火になり、やればやるほど悪くなる状況でした。悪化するのはお前のせいだと親に言われたこともあります。お客様の環境面を整備する点では福祉用具も共通だと思い扱うことにしました。
施設を作ってですか?
いえ。在宅が頭にありました。在宅での住みやすさを快適にしかったのです。家をズバッと変えられる人はごくわずかです。福祉用具でいける限界にきたら住宅の改修もということになります。
なるほど。
医療関係者と取引するうちに「もう少しうまくやれば退院もスムーズにいくのではないか」と感じるようになりました。医療法人のやり方は変えられないので「まずは自分達でやってみよう」と在宅リハビリや看護を手がけるようになりました。
在宅ケアは珍しいのですか?
病院の中でも在宅部門はありますが、取りこぼしが相当あります。病院は診療報酬が決まっており、点数が低い所はやらない傾向にあります。医師の売上を基準に大きな”ざる“ですくっているのです。その先に住宅改修や服飾など点数以外の市場があることを病院は見えていません。
ビジネスの角度を変えるわけですね。黒字が出るイメージは無いのですが、問題は無いですか?
問題はあります。「福祉で儲けてはダメでしょう」という感覚が根強いことです。
いいサービスをして皆がハッピーであればいいじゃないですか。
そうです。社会福祉も何年も進化せず同じ事を繰り返すのではなく、利益を出し、次の年はもっといいサービスを開発できれば利用者にメリットがありますよね。ですが、それを求めない風土があります。
その手の話をよく聞きます。保育園なんかも同じです。福祉は国が面倒を見てあげるべきという発想がありますよね。
規制と旧体質を打破したい
営業活動はどうされていますか?
営業活動はしていません。人が足りないのです。人を入れれば仕事は増えますが、数を増やして質を下げることはしたくありません。もっと違うものを目指しています。具体的には、働く人も、サービスを受ける人もハッピーになり、国も成長できる仕事の仕方を目指しています。
国が成長する仕事とはどういうことですか?
例えば株式会社が参入できない状況を打破することです。
すごいですね。この分野は、規制が多そうですが。
はい。規制と旧体質があります。地域と行政のつながりが太く、仮に株式会社参入がOKとなっても認可されそうもない土壌があります。だから規制に首をつっこんで負けるよりも、質の高いサービスをポーンと作って注目してもらったらいいのではないかなと。認可されているところより、いいものを作ることを目指しています。
なるほど。「こんなのをもっと増やそうぜ」という空気を作るのですね。そういう意味では、注目が集まっているのではないですか?
はい。行政でも支援をしている相談員レベルの方はすごく風当たりがよくなっています。「いい取り組みをしているよ」と患者の家族が口コミで広めてくれています。
病院経営にも民間参入を
医療もしくは介護業界の抱える「ここは変えなければ」と感じる問題点はありますか?
ハードに関しては、まず紙が多いことです。印鑑、サインとFAXを多用するため、すごく時間を取っています。ソフトの部分では、介護と医療では違うのですが、医療が手強く旧体質です。企業と比べて30年は遅れていると言われているぐらいです。
うわあ、そうですか! 大丈夫か? 日本の医療。
どうにもならないぐらい遅れていますね。大都市の上位の病院はかなり進んでいますが、それ以外は、院長が「うん」と言わないと何も始まらないところが多い。健全な競争が必要です。早く民間も参入できるようにしたらよいと思います。
訪問診療の何に参入が規制されているのですか?
全てです。医療法人でないと病院経営は基本的にはできません。
社員がイキイキと生活できることも社会福祉
逆に株式会社の問題もあると思います。株式会社はこうあるべきという見方の問題です。経営者を評価する時に売上や利益で見ますよね。「伸びました。いい経営者です」「下がりました。悪い経営者です」と。この一律的な価値基準は「本当か?」と。売上が伸びても社員が疲弊し離職率が上がっている企業はどうかと思います。 価値基準はもっと多様でいいのではないでしょうか。売上・利益を伸ばさないとダメという見方ではなく「うちの会社はこれを目指します」という基準です。「社員数を目指します」でもいいし「満足度を目指します」というものいい。「物を見てください。いい物を作るから。以上」という会社があってもいいと思うのです。
おっしゃるとおり、売上だけが伸びればいいとは思えません。儲けたお金で10億円寄付をしても、窮屈な顔の人やうつ病に苦しむ人が大勢いる企業はどうかと思います。 従業員は、会社から一番近い人間ですよね。その人達がニコニコと仕事をし、イキイキと生活ができることが何よりの社会福祉でしょう。それに価値が見いだせないなら、株式会社に人は集まってきません。
若者も気付き始めていますよね。
利益を残さず売上を社員に分配する会社
新しい税の仕組みも考えないといけませんが、それはできないので、まず会社の中で売上をどう分配すれば皆が喜ぶのかを考えています。
分配は悩みますね。「メガネ21」という広島のめがね屋さんが無茶苦茶なのですよ。何が無茶苦茶かというと毎年利益ほぼゼロなのです。意図的にやっています。儲かった分をボーナスでみんなに分配して終わるのです。 いわゆる利益剰余金が極端に少ないのです。次に出店するお金をどうするのかというと「うちの内部留保したお金はみんなの懐にある」と。実際にお店を出す時には社員が出資します。
どこに置くかという事ですね。
異常に社員を信頼していますよね。全社員が反乱を起こして「社長バイバイ」となった瞬間に何も無くなるのですから。
ヤバイですね。それは。 しかし社長としては心細いですが会社という枠組みでいえば問題が無いのかもしれないですね。チームということですね。
一緒に目指したいものがあって、そこに共感しているのだから、皆やるだろうということですね。
経営者は「品」の価値を見失ってはいけない
会社に属するかどうかは実は大した問題ではないと思います。先日、御社に登場いただいた事例動画を見て感じたのですが、サービスの提供者とお客様は、経済学的にはお金を貰う側と払う側となりますが、実は「子どもの幸せ」に共通のビジョンがあり、それについてお互いにどうやって関与するかの違いだけですよね。
アプローチの切り口が違うだけで、求めているのは今よりも良くなりたいということです。こちらはこちらのやり方でやり、お客様はお客様のやり方でやっていただいたら、相乗効果でもっと良くなるという考え方でやっています。
その考え方はいいですね。もともと株式会社は、そんな発想だったと思います。共通のビジョンがあって、それにどう関わるのかですよね。「お金を出す」「力を貸す」「頭を貸す」、いろいろな人が出せるものを持ち合わせるのです。
そうです。儲けようとするからおかしくなります。たぶんお客様に媚びへつらって頭を下げるという事は相当儲かっているということです。多くの経営者は売上を大事にしがちで、商いの「品」の価値を見失っています。
還って来るお金にばかり目がいくのですね。
「商い」ばかりになってしまう。
バリューは高いほどいい
お名刺は会社名でなく「青竹のふし」ですね。
「青竹のふし」は屋号です。株式会社関西だと怪しそうでしょう。親が関西一になりたかったからつけた社名です。なれませんでしたが。
今も十分、関西一の可能性がありますよ。何で計るかです。極端に言うと売上は、お客様から巻き上げたお金の金額の合計じゃないですか。なぜそれで競い合わないといけないのか。
おっしゃる通りです。効率という意味から考えると、少ない売上で価値を提供できるといいですね。
バリューが高ければ高いほどいいのです。太陽が提供しているバリューは異常に高い。誰にも真似できない質のサービスを世界中に提供しているわけですからね。ああいうものこそ目指すべきじゃないでしょうか。
働き方改革と品質向上
青山さんはどういう社会、世界を実現したいですか?
「日本ってすごいな」と言われたいです。福祉というとデンマークやスウェーデンがすごいイメージがありますが、世界的に見て日本の福祉もそれほど悪くはない。国と民間と利用者で作り上げていくシステムが、資本主義経済でありながら福祉を充実できるモデルになると思います。 人口は減っており駆け足で急がないといけない時期が絶対にきます。ITを導入しないと間に合いません。
目指していることとITがセットなのですね。
セットです。青野社長が取り組まれている働き方に我々も注目しています。ITを活用するのは子育て中のセラピストや看護師をもっと活用したいからです。我々が取り組む直行直帰の働き方もITを活用してすごく効率がよくなりました。
短時間でもかき集めてくればいいというのですね。
はい。離れていても、ITで社員が抱えている問題や改善についての取り組みを共有することで、助け合いの気持ちが醸成され、サービスの品質向上に役立っています。青野さんの今後の展開は?
クラウドの時代が見え始めています。テクノロジーとしてのサービスの完成度は今後も上がり続けます。その前に気になるのは、どれだけの人がチームで一体感を持って助け合って働きたいかということです。まずはチームワークについての価値観を広めていきます。 今回は、貴重なお話をどうもありがとうございました。
とんでもないです。楽しかったです。
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