シングルマザーをロールモデル人材に! 仕事も育児も当たり前にできる社会へ
シングルマザーを中心に女性の転職支援を行う株式会社ハーモニーレジデンス代表の福井真紀子さん。証券会社勤務や留学、出産、法律事務所勤務を経て2007年に起業。子育て中の女性を正社員や管理職人材として紹介する事業は、内閣府の「女性のチャレンジ賞特別賞」を受賞するなど評価されている。女性管理職人材の育成を目的に会員制倶楽部を発足するなど、活躍の幅を広げている福井さんに取り組みについて伺った。
シングルマザーを正社員・管理職人材に
―― ハーモニーレジデンスはどのような事業を行っていますか?
女性の正社員、管理職に特化した人材紹介の事業をしています。利用者はシングルマザーが8割です。キャリアアップを真剣に考えている女性であれば登録できます。大手人材会社と違って35歳以上の子育て中の女性の比率が非常に高いのが特徴 です。 これまで100名以上の内定実績があり1700名以上が登録しています。登録者には視野が広がるようにキャリアのコンサルティングをし、その方が望むところと可能なところとを現実的に折り合いをつけ、最終的に本人に決断をしてもらっています。シングルマザー専用のシェアハウスや多世代型のシェアハウスの紹介などライフ面での支援もしています。
――日本企業の女性管理職の比率は男性と比べるとかなり少ない状況ですが、どのようなニーズがありますか?
女性管理職へのニーズは全業種からあります。職種もさまざまです。これまで「女性は管理職になりたがらない」との議論がありましたが、今は「女性を活用せざるをえない」というステージにきています。カルビーなど女性の管理職比率を高め業績を上げている企業も出ています。政府が「2020年までに指導的地位にある女性を30%にする」という数値目標を掲げたことも追い風です。 当社には中途採用の多い外資系企業や中小企業からの求人が多いですが、「上場企業は少なくとも役員に女性1人を登用すること」という目標が掲げられこともあり、最近は大企業からの管理職人材のニーズが増加しています。大手ではCHO、CFO、CMOといったトップ管理職の女性候補人材が不足しています。グローバル展開を図っている日本企業では、外資系企業経験者の管理職レベルのスキルが求められ、外資から日系への紹介も増えています。
―― 企業からの反応はいかがですか?
シングルマザーは精神的にタフでモチベーションも高いと企業からの評価も高いです。1度人材を紹介した企業から再び「シングルマザーを採用したい」と要望をいただくことも少なくありません。
求められるリーダーシップスキル
――出産を機に6割の女性が退職している現実がありますが、ブランクについてはどのようにお考えですか?
キャリアを中断していない人と同じというわけにはいきません。しかし、厳しいけれど不可能ではありません。何を目指したいのかを明確にして、必要なスキルがつく仕事を地道にやっていくしかありません。ベンチャーや中小企業では実質的に仕事のスキルをつけることができます。
――具体的にどういうスキルを身につけると次のステップにいけますか?
一般的な事務職などはアウトソーシング化が進んでいます。高めるべきは対外交渉能力とマネジメント能力です。40歳を過ぎている人に会社が期待するのは、部下を育成してチームをマネジメントできる力です。企業では、単に知識があるだけではなく、周りを説得して人を動かし、結果を出すリーダーシップが必要とされています。グローバルな視点があれば、なおよいですね。 リーダーシップは、日常でもいろいろなところで経験が積めます。保護者会やボランティア、自治会など小さな組織でもいいので責任あるポジションで人を束ねる経験を意識して持ってください。自発的に取り組むことで視野が広がります。多角的にものごとを見て可能性を見出すスキルが身につけられます。
当社では、採用が決まった方にはリーダーシップ研修を無料で受けられる制度を用意しています。研修会社の講師はイギリス人ですが、「日本人女性は自分をすごく過少評価している。もう少し自分には可能性があって自分の評価をあげる作業が必要だ」といっています。「できるのだ」とまず信じることですね。最初は不安でも取り組みながらうまくできるようになります。
働く女性のロールモデルを増やしたい!
―― 福井さんが女性向けの人材紹介事業を始めようと思ったきっかけは何ですか?
わたしは、新卒で証券会社の総合職に就職しましたが、当時は、キャリアも育児も両立している素敵な女性ロールモデルは周囲にはいませんでした。キャリアを追求するか、結婚・出産するかの二者択一の人生選択が一般的で、この会社で両方追求することは困難だと思い退社しました。 夫の駐在のために渡米し妊娠中はニューヨーク大学で学びましたが、生活を夫に依存している状態はすごく不安でした。夫の会社や夫の都合を優先し、自分では大事なことを決められないということに不自由さを感じました。出産後、駐在員の妻としては異例でしたが、現地の法律事務所に就職しフルタイムで仕事をしました。 そんな時、9.11の事件が起きました。駐在員の方も大勢亡くなり、駐在員の妻でシングルマザーになった方もいました。非常に考えさせられる経験でした。帰国してからは、外資系法律事務所に勤務し資金を貯め、起業しました。 わたしは、幼少期をアメリカで過ごし、高校時代はオーストラリアに留学していたので、キャリアと子育てを両立している女性から学ぶ機会に恵まれていました。日本でも女性のロールモデルを増やし「仕事か育児か」という二者択一ではなく、当たり前に両立できる社会にしたいのです。そのため本気で仕事をするシングルマザーを中心に、優秀な人材を紹介する事業を始めました。
――仕事と家事・育児の両立についてはどのようにお考えですか?
仕事と家事・育児はどれも重責です。すべて女性がやるというのは無理があります。 体力的にも時間的にも難しいのです。1人で抱え込まないためには方法があります。ひとつはパートナーが“イクメン”になり家事・育児を分担する方法です。しかし夫婦ともに疲弊して共倒れになる可能性があります。イクメン政策は国がやっていますが、それだけでは切り抜けないのではと思います。 外国人労働者をナニー(育児の専門知識を持って子どもの面倒をみる人)として雇用するという案もありますが、文化の問題がありハードルが高いですね。わたしがおすすめしたいのは高齢者に家事・育児を委託することです。高齢者に特化した家事代行サービスもあります。高齢者にとって働く場と生きがいの創出にもつながります。また学童保育拡充も急務です。
可能性を探れば道は開ける
―― 福井さんご自身が仕事と子育てを両立する中で印象に残っている経験はありますか?
わたしが帰国して仕事を始める際、保育園の空きがなかったので幼稚園に預けることにしました。幼稚園は早く終わりますが、迎えにいく人がいれば仕事はできます。幼稚園の子どもの迎えは、両方の両親とヘルパーさんの6名のチーム体制としました。幼稚園には、行きと帰りで違ったバス停を使わせてもらえるか相談し、認めてもらいました。ほかのママたちもその手があったかと思ったようで働く女性も増えていきました。 時代は着々と変わります。常識の範囲を自分で制限するのはもったいないです。過去がどうだったかでなく、これからです。あきらめずに考えればできることはあるはずです。
――制約の中であきらめていたらもったいないですね。
できないというのは「本当ですか?」と。事情は違うけれど似たようなことができている人はいるはずです。みんなでそういうケースをシェアすればもっと開けてくると思います。
――最後にメッセージをお願いします。
世の中にお願いしたいのは、仕事でも子育てでも、チャレンジして頑張っている女性の足を引っ張らないでくださいということです。企業で昇進したい女性もいれば、専業主婦になりたい女性もいます。ひとり1人状況も目標も異なって良いのです。 育児をしながらキャリアも頑張っている女性自身は、子育てが十分できていないという罪悪感など持つことはまったくないのです。むしろ社会全体でこのようなチャレンジをしている女性を応援してください。 両立は必ずできます。常識にとらわれず、固定概念を捨て、一歩踏み出せば必ず道は開けます。
写真撮影:橋本直己、取材協力:清水美奈
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