一般化した「おめでた婚」、急増する「マルニ婚」は少子化打開の鍵?──永田夏来(社会学者)×伊藤綾(『ゼクシィ』編集長)
「おめでた婚」のカップルは追加出産意欲が高い――。そんな結果が2013年経済社会総合研究所(内閣府)の「少子化と夫婦の生活環境に関する意識調査」で明らかになった。
結婚と出産をめぐる価値観は、どのように変化してきたのか?「おめでた婚」「ダブルハッピーウエディング」などポジティブな言葉を発信し、カップルをサポートしている結婚情報誌『ゼクシィ』の伊藤綾編集長と、若者の結婚観、家族観について家族社会学の視点から調査研究している兵庫教育大学大学院助教の永田夏来先生が語り合った。
ここ10年で一般化した「おめでた婚」
私は若者を対象に家族研究をやっています。そこで感じるのは、世のカップルの多くは、結婚の進め方を『ゼクシィ』で勉強しているのだなということです。
それは編集者として責任重大ですね。
『ゼクシィ』の知名度と影響は強いです。世の中の女子にとって、「かけがえのない相手と永遠の愛を誓う」という「結婚」は他のことでは代替できない“ビッグドリーム”で、「いつか実現させなきゃ」という強いあこがれがあります。そのシンボルの一つが『ゼクシィ』なんでしょうね。私としてはなんとかしてそれを“いろんな形のドリーム”に持っていきたいなという気持ちがあります。
結婚観が時代とともに変わってきているんですよね。今、カップルは「良い旦那さんを見つけて寿退社」という時代ではなくなっていると分かっていますし、皆が同じような人生を歩むわけではないんですね。
結婚という夢を叶えた後も「結婚できてよかったけれど、どうなったら幸せといえるのか」とか「この人でよかったけど子供はどうするのか」など、いろんな不安が出てきます。結婚は“大海に小舟でこぎ出す”感覚なのかもしれません。
そこで、結婚のあり方のダイバーシティについて伺いたいと思います。ゼクシィでは大きく「おめでた婚」を取り上げていますが、やはりニーズがあるからですか?
そうです。「おめでた婚」ではまず、「どうやって結婚の報告をするか」という悩みが出てきます。続いて「結婚式をできるかできないか」「できるとしたら最適な時期はいつか」「結婚準備をいかにストレスなくやるか」「お腹に合わせたドレスの選び方は?」などの問題もあります。こういった問題を解決したいというニーズがあると思っています。
「おめでた婚」という言葉が使われるようになって、どのくらいでしょうか?
一般化したのはこの10年くらいですね。
私がこれまでおこなってきた調査でも、 10年くらい前は「結婚前の妊娠は親に言いづらい」という答えが多かったです。しかし最近は、「親もおめでた婚だから言いづらくはない」という回答もみられるようになってきました。そういう時間の経過も、「おめでた婚」のメジャー化を後押しする背景のひとつにある感じですね。
結婚式は家族のスタート!
結婚式に求めるものが変わってきているという背景もあります。少なくとも80~90年代の結婚式は“披露宴”であり、式の意義は“両家の結婚を披露する”ことだったわけです。
それが2000年代、細かく言うと2008年くらいから、結婚式の意義は「ありがとう」という感謝や「これからよろしくね」という今後に向けた気持ちを伝えることに変わってきました。結婚式は「大変な時代に、皆と一緒にここまでこられたことが嬉しい。これからも皆と一緒に生きていきます。どうぞよろしく」と絆を結び直す場であり、コミュニティーをつなぐ場になっています。
確かに。
つまり、カップルの方々にとっては結婚式が恋愛のゴールではなく家族のスタートなんですよね。だから「私たちは新しい命を授かりました。今後もよろしく」と気持ちを伝え合うのが、非常に合致するわけです。「それはよかった!こちらこそこれからよろしく」となるので、順番が違う、といった空気もほとんど感じられないのが今の結婚式ですね。
次に出てきているのが子連れの結婚式、いわゆる“パパママ婚”です。
それは子どもを連れた再婚、いわゆるステップ・ファミリーのことでしょうか?
それもありますが、初婚であっても「式を挙げられなかったけれど、子供がある程度大きくなったので挙げます」というパターンですね。10年前だったら「なぜ今になって?」という感じでしたが、今の結婚式は“家族のスタート”なので、例えば「ここで改めて、皆の前で家族3人頑張ります!」と宣言します。
結婚観が変化し、結婚式を挙げる意味も変わりました。その先にあるのが「おめでた婚」や「パパママ婚」です。それは『ゼクシィ』が考えたというより、生活者が自然とこういった結婚式を求めるようになり、兆しが生まれたことから始まっています。
なるほど。「おめでた婚」のおもしろいところは、プロポーズをして結婚、妊娠、出産という、従来は非常に重視されていた「順番」という価値を無効化していながら、「家族」の意味づけは揺らがないところなんです。結婚前後の若いカップルだけではなくて、子どもを持っている夫婦にも同じ考え方が適用できるということなのでしょうね。
なぜ結婚がドリームになったのか?
今のカップルは、夫婦や家族の在り方のバリエーションをあまり知らない、と思っているように感じます。だから結婚に対してリアリティを持てず、不安になっている人も多いように思います。自分の親世代の家族像が最も身近なロールモデルになっている。こうした中、「おめでた婚」は新しいスタイルとして生まれた感がありますよね。
社会全体を見渡してみると、たしかに「おめでた婚」は根付いてきましたね。しかし細かく調べてみると、「おめでた婚」については、既婚者の方が「良いじゃない」と答え、若い子たちは「どうかな」という反応を示しています。なぜ賛否の差が生じるのか。それは結婚が「かけがえのない相手と永遠の愛を誓う」というドリームという要素を持つからだと思うのです。
結婚がドリームであるという認識は、何によって醸成されたものですか?
ドリームというのは、具体的には、恋人に対する最大限の愛情や責任の表現は「結婚」に他ならないという価値のことです。それがあればすべてがうまくいくけど、なければ悲惨であると信じられているので、ドリームと私は呼んでいる訳ですね。
それは小説などによって醸成されてきました。 運命的な相手と出会い、結婚して幸せになるという概念は「ロマンチックラブ・イデオロギー」と呼ばれていて、18世紀ごろの西欧を中心に流行っていった価値観です。
なぜそのような価値観になったかというと、産業構造の転換が大きく影響しています。近代化以前の結婚や妊娠出産は土地固有の風習や宗教文化を基に、主に家族が管理していました。
しかし、工業化が進み、人々が都市に集まるようになるとメディアや資本主義的な考え方が発達していきます。その結果、従来の風習や伝統から離れ、自由意思に基づいて結婚し、新しいステージに進むということが理想とされるようになったのです。
恋愛至上主義や恋愛結婚などでしょうか。
そうですね。日本の場合は、恋愛結婚は戦後の象徴であり、自由の象徴でした。それまでの「イエ」制度から離れ、自分の好きな相手と結婚して子どもを持つ訳ですから。「恋愛結婚は素晴らしい」「子供はかわいい」という価値観は、戦後の日本で世代を超えて共感できる、一般性の強い価値観です。
それ自体はあってもいいのですが、「恋愛結婚じゃないと負けている気がする」とか「物足りない気がする」という声もあります。それを聞いていると、もう少し世の中を変えていきたいなと思いますね。
なるほど。
おめでた婚は追加出産意欲が高い
私が「おめでた婚」をプッシュするのには、理由があります。20代、30代女性の「追加出産欲」のデータを見ると、「現在/理想の子ども数」は通常の結婚より「おめでた婚(妊娠先行型結婚)」のほうが高いのです。「現実にはこれぐらい持てるのではと予想する子ども数」も同じ傾向にあります。
本当だ! どうしてですか?
「おめでた婚」のカップルの多くは、「子供を育てながらみんなで暮らす」という幸せを実現しているからだと思います。
なるほどねぇ。
「おめでた婚」でない家族には、年に数回の旅行やレジャーを楽しむライフスタイルが多く見られます。一方、「おめでた婚」の場合はレジャーの代わりに、毎日のようにみんなでスーパーへ買い物に行ったり、一緒に晩ご飯を食べたりしています。
これが何を意味するか。婚活のような条件を整える結婚と比べれば見切り発車かもしれませんが、「おめでた婚」には彼らなりの幸せの形があるということです。
子供がいるところからスタートするから必然的にそうなったのか、もともと条件で相手を選ぶ発想がなくてそうなったのか、どちらなのかという話もありますが、この違いの理由としてひとつ言えるのは、結婚を決めた理由に「配偶者が、子育てや育児に対して積極的な態度を示したから」を挙げている人が「おめでた婚」に多いという点があると思います。
そこを乗り越えた二人だから、腹を括って結婚に臨めるわけですね。
結婚した夫婦が出産を経て親になる時期は移行期と呼ばれていて、トラブルが出現しやすいのですが、結婚前に夫婦によるすり合わせができているんですよね。「自分たちはどんな人生を歩んでいきたいか」とか「家族を持つことに対するイメージはどのようなものか」を話し合える。だからこそ、一見ハードルが高く見える「子供をたくさん持つ」ことに対しても、ポジティブに考えられるのではないでしょうか。
こういった調査結果もあるので、ドリームを壊すわけではなく、補強したり修正したりできる客観的な情報で「結婚や子どもを持つことは怖くない」といったことをメディアには伝えていってほしいです。
「バツイチ」から「マルニ」へ
今『ゼクシィ』で注目しているのは再婚です。再婚はドリーミーから少し離れているという意味では、「おめでた婚」に通じる部分があるかもしれませんね。今は4組に1組が再婚です。平均年齢が男性42歳、女性39歳で、私たち団塊ジュニア世代のボリュームが大きいです。再婚といっても、どちらかは初婚というのも含む数字です。
おもしろいですね。
団塊世代は、たいてい20代前半で結婚して一年以内に子どもを産み、4年くらいで2人目を産むというパターンでした。だけど、我々団塊ジュニア世代は離婚率の高い社会に生きていて、結婚しても仕事を持つのが当たり前になっています。前例がないから、どういう人生を歩んでいくかというイメージが持ちにくい。
当事者としては「自分は変わったことをしているのではないか」とか不安に思ってしまいがちですが、データで俯瞰してみると同じような選択をしている人が実はたくさんいるという状況が見えてきます。
ゲイをはじめとした、LGBT(※)の人たちも結婚したいとか家族を持ちたいと思いますよね。
(※) LGBT :L=レズビアン(女性同性愛者)、G=ゲイ(男性同性愛者)、B=バイセクシュアル(両性愛者)、T=トランスジェンダー(心と体の性が一致しない人)の総称
そう思っている人はたくさんいるでしょうね。『ゼクシィ』でもムックの『ゼクシィPremier(プレミア)』で同性婚を紹介しています。あえて同性婚というカテゴライズをせずに、読者の実例として取り上げています。いつもとても反響がありますよ。
運命的な恋愛、結婚、子どもを持つという3点セットの他にもいろんな結婚や家族のありかたがあると思います。その事実をメディアが積極的に示し、世に問うことで、世の中が変わっていくと思います。
「できちゃった婚」と言われた時代から、「おめでた婚」や「ダブルハッピーウエディング」、「授かり婚」と言われる時代になって、カップルの気持ちがポジティブになった感覚があります。そういう意味で、再婚のことを「マルニ」と呼んだりしています。再々婚は「サンジュウマル」です。
いいですね!一緒に広めましょう。
次回は、伊藤編集長のワークスタイルやヒット連発の秘訣に迫ります。
写真撮影:橋本直己、執筆:野本纏花、企画編集:渡辺清美
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執筆
撮影・イラスト
編集
渡辺 清美
PR会社を経てサイボウズには2001年に入社。マーケティング部で広告宣伝、営業部で顧客対応、経営管理部門で、広報IRを担当後、育児休暇を取得。復帰後は、企業広報やブランディング、NPO支援を担当。サイボウズ式では主にワークスタイル関連の記事やイベント企画を担当している。