指導者の役割は指導だけではない──"口数少ない"プロサッカー監督のチーム養成術
「ベストチームメソッド」では、単なる精神論にとどまらないチームの作り方を考えます。プロサッカーチームのセレッソ大阪は「育成部門」を配置し、選手の育成に力を注いでいます。チームワーク形成の手法は、論理的思考の積み上げ。体の育成や精神論の伝達といった既存の育成手法とは一線を画しています。セレッソ大阪に学べるチーム作りのポイントとは?
ボールを持つ1人が優秀であればいい、という考え方はダメ
そもそもプロ選手になれる子は、チームでも実力を出せるという点をクリアできているんです。(一般社団法人セレッソ大阪スポーツクラブ代表理事 宮本功さん)
プレイのあらゆる要素の中に判断があり、それが個人だけでなく、グループ、そしてチームとして判断できるようにならなければならない。そういうトレーニングをずっと積んでいくのです。したがって、練習のための練習はしません。試合に即した環境を絶えずつくり込んで、判断を混ぜたトレーニングをさせる。(宮本功さん)
11人で競技するサッカーにおいて、1人がボールを持っている時、ほかの10人はどうするべきか?──セレッソ大阪の育成部門の指導者が焦点を当てて指導をするポイントです。ボールを持っている1人が優秀であれば良いわけではなく、ほかの10人がどう考えて自分で動くか、チームとして助け合うかを考える必要があります。個の能力とチームの力をともに育てていく必要があります。
常に選手自身が考え、判断し、動ける環境を作るためには、練習で「常に実践を意識する」ことが大事です。これにより、選手自身が個人ではなくチームで、練習ではなく実践の視点でプレーできます。チームワークの形成には、「個」と「全体」をバランスを意識したトレーニングが不可欠です。
指導に必要なのは、サイクル、持続性、それらを作る指導者そのものだ。
常に上を目指せるような環境づくり、意識づくりをするようにしています。そういった競争環境を作り上げることが強い組織をつくっていくとも思います。(セレッソ大阪アカデミーダイレクター兼U-18監督 大熊裕司さん)
ノウハウの継承、つまり自分自身がいなくなっても同じものが残っていくことが、大事なことだと言っています。それが難しいことだからこそ、ベースになるものを今しっかりと築いていく。築いたものをしっかり伝え続けていくことが大事だと思っています。(大熊さん)
指導といえば、「指導者がどうやって教えるか?」という方法論を考えることに焦点をあてがちです。しかし、セレッソ大阪では「指導者自身がどうするべきか?」という視点で考えます。選手を育てるには環境が必要であり、その環境を作るのは指導者です。指導者の役割こそ重要という認識を持ち、「指導者の指導者」という役割も配置しています。
このように育成された指導者によって、チームが向かうべき目標をそろえつつも、選手個人にも焦点を当てた指導ができるようになります。究極的には「指導の結果として、ノウハウが蓄積されていく」サイクルを作り、指導の「質」と「持続性」を高めていきます。
チームに一番必要なのは、みんなが同じところを見ているかどうか
「いつも自分たちは支えてもらっている、応援してもらっている」ことがわかってくれば、選手もスポンサーやスタッフに感謝するようになります。(宮本さん)
選手、指導者、それぞれの役割での価値を発揮した上で組織としての目標を達成する、これこそがチームだと思っています。(大熊さん)
セレッソ大阪はチーム運営において、「お互いに意見を言い合える環境」が必要と考えています。チームで目指す方向が明確になり、一人ではできないことを全員で補うチームワークが生まれるからです。意見を言い合うことで、メンバー同士の強み、弱みを理解し、助け合える環境ができます。選手同士のチーム内での役割が明確になり、チームワークが向上していきます。
これは選手だけではなく指導者も同じです。立場、年齢、価値観が異なる中でどれだけ意見を言い合えるか。チームとして向かっていくべき方向を定めるとても大事なものです。
最後に
チーム作りでは、部下や選手、メンバーの指導に目が行きがちです。セレッソ大阪は一方的な指導だけで完結させるようなやり方ではありません。指導、指導、指導……と、選手が疲弊する体制ではなく、指導者自らも指導を受けるという体制を整えたことで、選手、指導者で相互理解が深まりました。既存の指導の常識を疑い、妥協なき体制を構築することで、選手、指導者を問わず尊重し合える環境が生まれ、それがチームワーク向上につながっています。
また、最長9年間同じチームでプレイし続けることを前提としたノウハウは世代を超えて蓄積されます。「個人戦術→グループ戦術→チーム戦術」という順番で構成された指導ノウハウは、現在のチームメンバーだけでなく海外に移籍して戻って来た選手とも練習ができるような「共通言語」として蓄積されます。だからこそ、セレッソは「家族のように仲が良い」チームとして活動ができます。
世界基準を追い続ける、セレッソ大阪のチームワーク。その詳細はベストチーム・オブ・ザ・イヤーの「世界基準で「チーム」を考えるーセレッソ大阪がトッププレイヤーを生み出し続ける理由」で取り上げています。
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