「男性が大黒柱じゃないと」は幻想──介護離職ゼロも出生率1.8も「主夫」化がカギ
政府が“2020年に女性管理職3割”を目標として掲げるならば、これに対応して“男性の3割を主夫”にしようではないか! そんな野望を抱く「秘密結社 主夫の友」(NPO法人ファザーリング・ジャパン)が、男性の家事育児参画に貢献した人に授与する「主夫の友アワード」を創設。 記念すべき初回受賞者は、放送作家の鈴木おさむさん(著名人部門)、エッセイスト&タレントの小島慶子さん(女性部門)LIONソフランCM「主夫、はじめました。」(広告部門)、サイボウズ・青野慶久社長(企業人部門)の4方に決定しました。 2015年10月に行われた授賞式では、受賞者の青野社長、「秘密結社 主夫の友」総統・村上誠さん、同結社の顧問を務める白河桃子さん(ジャーナリスト)が、これからの社会における「主夫」の重要性について、熱く語り合いました。
子どもが半減=「市場が半減する」ということ!
今、「主夫ブーム」が来ています! 最近、いろんなメディアで「主夫」の話題がにぎわっていますね。
多様なライフスタイルが広がってきた証ですね。
青野さんは、会社を経営される側として、「主夫をやりたい」っていう社員が出てきたらどうですか?
大歓迎です。けっこう、やりたい人はいるんじゃないですかね。
青野さんの会社は、すごく柔軟な働き方を採用されているんですよね。社員が働き方を選ぶことができる。「子どもが生まれたから、ワーク重視からライフ重視に変更する」といったことも可能なんですよね?
可能です。最長で1年半、育児休暇をとった男性社員もいますよ。わたし自身も育休をとっていますし、今年の1月には第3子が生まれたので、半年間ほど時短勤務で16時に退社していました。上の子2人の保育園の送り迎えがあったので。
社長がそんなふうだと、社員の人も育休や時短をとりやすいでしょうね。
ですね。それまでは時短勤務の女性って、申し訳なさそう~に帰っていたんです。「みんなに迷惑かけて、すいません!」みたいな感じで。 でもいまは社長がこうですから、「あ、あれでいいんだ」っていうふうになりました(笑)。
でも、青野さん、最初からこういうふうではいらっしゃらなかったとか。お1人目の育休のときは、辛かったんですって?
辛かったですよ! こんな、いま偉そうに前でしゃべっていますけれど、僕の頭の中、無茶苦茶「昭和」ですからね。30分もかけて子どもに離乳食を食べさせながら、「なんでオレ、こんなことやってるんだろう?」と思いましたから。 同時に、「あぁ、これは女性1人に押し付けるものじゃないだろう」とも思った。子育ては、子どもの命がかかってますからね。どっちが重要な仕事かっていったら、そりゃこっちだろう、と。
少子化についても、思うところがおありだったとか?
第2次ベビーブームだった僕らの世代と比べると、今って子どもの数が半分近く減っているわけですよ。そうしたら当然のこと、これから市場も半分になるということです。 いま、経営者が一番考えないといけないのは、「ちゃんと市場を維持していくこと」なんです。つまり、子どもを育てていく人を支援すること。これをしないと、経営なんて言ってる場合じゃないよ、と気付きました。
なるほど。今回、少子化大綱に初めて、「企業にいる男の人の働き方が変わらなければいけない」という文言が入ったんですけれど、やはり政府のなかでもそういった理解が進んできたのでしょうね。
笑いをとるつもりだった、動画「パパにしかできないこと」
今回「広告部門」で受賞したソフランCM「主夫はじめました。」です。これじつは、現在放映しているのがシリーズ第3弾で、もう3年も続いているんです。そんなに前から「主夫」に目をつけていたライオンさんは、先見の明がありました。 このCM、わたしもずっと見ているんですが、西島さん扮する主夫がだんだん成長しているんです。最初はなかなかママ友の輪に入れなかったり、洗濯の仕方がわからなかったりしていたのが、いまはもう、がっつり家事をやる存在になっている。
そしてこちらは、2014年末にサイボウズがつくった「大丈夫」という、働くママに寄り添う動画です。これは本当に、大評判だったんですよね。「ママの気持ちがわかる!」って共感して泣くお母さんが続出しました。
この動画は今まで130万回以上再生されています。その後、これに字幕がつけられた台湾版も人気になったそうで、それも台湾で100万回以上再生されています。いまはアメリカで話題になっていて、かなり大きな広告賞もいただきました。アメリカでも、30万回以上再生されています。
ところが、第2弾は……。
こちらは、なぜ炎上しちゃったんですか?(笑)
第1弾がすごくワーキングマザーのみなさんの共感を得るものだったので、第2弾は「あれを超えるものが出る!」と期待が高まっていたんですね。そうしたら今度は、ナメた男(同僚)が出てきたもんだから、「ごぅらぁ~」と怒りを買ったと(笑)。 第2弾をつくっていたのは第1弾が公開される前で、あんなにヒットするなんて思ってもみませんでした。
こちらの動画では、ママが一生懸命に、働きながら子育てをするんですよね。夜、子どもが泣いているのを起きてあやしたり、ミルクをあげたり、仕事から帰って急いでご飯をつくったりする。そこに「これはママにしかできないことなの」っていうナレーションが入ったのが、怒りを買ったポイントではないかと?
そう、これを見ていくと、「ママにしかできないこと」なんて一個もないんですよ。こちらとしては、そこで「全部、パパにもできるやんけ!」と笑ってほしかったんですけど。ところが、「どれもパパでできるわ、ボケ!!」という怒りの方向にいってしまった(苦笑)。
なるほど、笑いながらつっこまれるはずだったのが、そうではなく、本気で怒りながらつっこまれる結果になってしまったと……。それにしても、「子育ては父親にもできるよ、授乳以外ならなんでもできるよ」っていう声が、世の中でこれだけ大きなものになってきたことに、僕はけっこう感慨がありました。
みんなもっと「主夫」を名乗ろう
ところで、「働くママ」って当たり前に「ワーキングマザー」とか「兼業主婦」って呼ばれますよね。でも一方で、働きながら家事育児をやっているお父さんのことを「ワーキングファザー」とか「兼業主夫」という呼び方をすることは、まずありません。 でも時代はいま、共働きが増え、お父さんもお母さんも、育児・家事をシェアする方向になっているわけです。そうしたらもっと、「兼業主夫」を名乗るお父さんが増えてもいいんじゃないですかね。「ぼくは“兼業主夫”だよ」と、みんながふつうにいえる社会になったらいいんじゃないかなと。
「秘密結社 主夫の友」の中でも、いろんなタイプの主夫の方がいらっしゃるんですよね。自分の主夫度を「30%くらい」とおっしゃる方もいれば、「100%です!」という方までいる。でも度合いは関係なくて、「名乗ったときが主夫」なんですよね。自覚があれば誰でも「主夫」という。 ちなみに、村上さんが主夫を楽しんでいる秘訣ってなんですか?
「自分がどうみられるか」を気にするのではなく、子どもといっしょに過ごしたり、パートナーのためにご飯をつくったりしている時間を喜びと感じられる、というところでしょうか。そういうのって、家族のなかで、男女関係なくあると思うんですよね。
時代は今まさに「主夫」を求めている
今回、著名人部門で受賞した鈴木おさむさんですが、なぜ彼が育休をとったかというと、奥さん(お笑いトリオ「森三中」の大島美幸さん)が出産でお仕事を休んでいる状態なので、復帰するときに、夫である自分がアシストできるといいなと思った、とコメントされていました。 これって「内助の功」の逆バージョンですよね。昔の話ではよく、夫の立身出世のためにバックアップするいい妻=「内助の功」ってありましたけれど、これと同じかなと。
逆・内助の功ですね(笑)。
それから今ちょうど「一億総活躍社会」といって、女性の活躍推進ということを国がやっていますが、やっぱり女性がばりばり働くためには、支える人もいないとやってけないんじゃないかと。つまり、男性の家事育児参画がないと、女性が子育てや家事をやりながら、さらに働く、ということになってしまうわけで、それはもう無理だと思うわけです。
そこは、両輪で進んでいかないと難しいですよね。
だから、そのためにもやっぱり、主夫を増やさなくちゃいけないなと。また、先ほどの動画「パパにしかできないこと」にもありましたけれど、妻を輝かせること、妻をエンパワーメントすることって、やっぱり夫にしかできないんじゃないかと思うんですよ。妻がバリバリ働けるように、家で癒して、また送り出す。そういう側に、夫がなることが、女性活躍にもつながるのではないかと。
わたしが以前インタビューした主夫の方の奥さんは、「うちに帰ったら5秒で癒される」っておっしゃっていました。いい台詞ですよね(笑)。ぜひ、みなさんもそういうふうに、なっていただければなと。
最後にひとこと、青野さんからコメントをいただけますか。
「主夫」って、じつはいま、日本の問題を解決する大きなキーだと思っています。 今回、安倍総理が、「新3本の矢」という方針を打ち出しました。1つめは「GDP600兆円」。まぁ気持ちはわかる(笑)。2つめが「出生率を1.8倍に戻します」、これもうまさに、主夫を広げられるかどうかですよね。そしてもう1つが、「介護離職をゼロにしよう」ということ。これも「主夫」の考え方が広がらない限り、難しいです。「男性が大黒柱じゃないといけない」っていう幻想にとらわれている限り、実現し得ないことです。 つまり、この「主夫」という考え方が、いま国レベルで求められている、ということだと思います。
ありがとうございます。おっしゃっていただいたように、いままさに、主夫の時代が来ようとしています。わたしたち「秘密結社 主夫の友」は、これからもいろんなアクションを起こしてまいりますので、これからもどうかご期待ください!
【サイボウズ式編集部より】記事中で話題となった「大丈夫」「パパにしかできないこと」に続き、2015年12月7日(月)より田中圭さん、オダギリジョーさん出演のパパを主人公にしたサイボウズ ワークスタイルドラマ「声」が始まります。現在、予告編を公開しています。
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執筆
大塚 玲子
いろんな形の家族や、PTAなど学校周りを主なテーマとして活動。 著書は『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』(太郎次郎社エディタス)。ほか。