ご遺族の前でパソコンを使う抵抗感。京都の葬儀社が挑んだ「ぬくもり」を守るDX

昨今、日本ではさまざまな業種で人手不足が叫ばれています。サービス業も、そのひとつです。
限られた人員で事業を継続していくためには、ITで業務を効率化することが求められます。しかしサービス業では、たとえ非効率でも、人と人の関わりで得られる「ぬくもり」や「つながり」が、お客さまとの信頼関係やサービスの質に大きく寄与することもあります。
人によるぬくもりか、デジタルによる効率化か──。その狭間で揺らぎ、なかなかIT化が進みづらい企業もあるかもしれません。
そんななか、京都の葬儀社・おのえメモリアル株式会社は、サービス業としての「ぬくもり」を守りながら、積極的にデジタル化を進めています。
「なぜ、ぬくもりを大切にしながら、ITによる効率化も実現できたのか?」そんな問いを、おのえメモリアル株式会社業務部課長の森垣譲夫さんに尋ねてみました。
※取材はオンラインで行いました。
「ぬくもり」を守りながらIT化した葬儀社のDX



森垣 譲夫(もりがき・のりお)。1973年生まれ。高校卒業後、大阪に就職するが長男のため1998年に帰郷。おのえメモリアルに就職をする。2020年までは葬儀の仕事のみに携わっていたが、kintone導入と同時に葬儀の業務をしながらkintone担当者となる。

葬儀社は、人の手の「ぬくもり」が重視される業界だと思います。そのなかで「IT化」という、「ぬくもり」とは対極にも感じられる取り組みをどう両立させたのか、ぜひお話を伺わせてください。

人手が足りなくても、お葬式の準備は1日で済ませる


亡くなってから2〜3日の間にお通夜とお葬式を行うので、24時間ですべての準備をととのえなければいけません。
家族葬にするのか、一般葬にするのか、宗教者さんのスケジュール調整、生花やお供え物の手配など、とにかく時間が足りません。



葬儀は突然発生するので、働き方が変則的になりがちです。5〜6年前まで、弊社の年間休日は72日しかありませんでした。
でもIT化をすすめたことで、いまは年間休日96日まで改善しました。将来的には、3桁を目指しています。


サービス業として守りたい「ぬくもり」と「効率化」のバランス


ただ、傍から見ていた社長は「このままでは行き詰まってしまう」と考えていたようで、2020年からIT化をすすめました。



これまでは、ご遺族とお話しした内容を従業員が紙にメモして、確認事項があれば事務所に持ち帰って、もう一回ご遺族に電話して……と、タイムロスが大きかったんです。


でも、決して順調にすすんだわけではありません。


「ご遺族との会話がおろそかになってしまうので、前のやり方に戻したい」という声が上がりました。
社内のIT化についても、「自分たちの業務はラクになっても、ご遺族に寄り添えているのだろうか?」と問われましたね。
IT化を導いたのは、パソコンが苦手な52歳のベテラン社員









たとえば、故人さまのお名前の漢字は、口頭や手書きだと間違ってしまう恐れがありますが、パソコンならそういったミスもなくせます。


業務を効率化したことで生まれた時間で、もっと故人さまやご遺族にできることを考えたい。
この想いがあれば、「ぬくもり」を守りながらIT化できると思います。
効率化した「時間」で、遺族の心残りを残さぬように



そこで葬儀当日、誕生日ケーキを用意して「最後にみなさんでお祝いしてあげてください」とお声がけしたら、とても喜んでくださって。



そのためには、ただの「打ち合わせ」ではなく、故人さまとの思い出を振り返ったり、ご遺族の願いを聞いたりする必要があります。
わたしたちがIT化で生み出したかったのは、こうした「手がかり」を見つける「時間」だったんです。


効率化だけでなく、新たなアイデアを生み出す手段になる





それで、AIに相談したら「こんなサプライズはどうですか?」と提案してもらえるんじゃないかと。そんな仕組みを考えているんです。


もし、社内のIT化をすすめていなかったら、AIに挑戦しようなんて、到底思えなかったはずです。
葬儀でサプライズをしたり、AIでサービスの質を高めたり、こうした動きが弊社の色になっていけたらいいなと思います。

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執筆

深水麻初
2021年にサイボウズへ新卒入社。マーケティング本部ブランディング部所属。大学では社会学を専攻。女性向けコンテンツを中心に、サイボウズ式の企画・編集を担当。趣味はサウナ。
撮影・イラスト
