tech
PTA広報紙の無駄を洗い出す──コデラ総研 家庭部(45)
テクニカルライター/コラムニストの小寺信良さんによる「techな人が家事、子育てをすると」というテーマの連載(ほぼ隔週木曜日)の第45回(これまでの連載一覧)。今回のお題は「PTA広報紙の無駄を洗い出す」。
文・写真:小寺 信良
学校単位のPTAを見ていると、会長や本部役員は2〜3年歴任する人が多い。自薦や他薦により、子供に貢献したいという気持ちが強い人がなるので、それはそうだろう。一方で各クラスから選出される委員のほうは、数年やるという人は少ない。ほとんどの人は1年やっただけで、疲弊してしまう。
この差はなんなのか。昨年1年間広報委員長というのをやって感じたのは、各委員会組織の決定権のなさである。各委員会は、実質的に本部の下働きでしかない。委員会の裁量で決定できることはわずかで、最終的には本部の承認がなければ何も決められないのである。
だから委員になった保護者は、多くの制約の中で「昨年通りのノルマ」をこなすだけになってしまう。それが非効率なやり方でも、変えられないまま何年も継承されることになる。
広報委員会とは、年3回PTA広報紙を発行するのが仕事である。うちの小学校の場合は、前期はA4サイズモノクロで8ページ、後期は6ページ、5月に号外としてA3サイズ1枚を発行する。筆者のように自分で取材して写真も撮り、毎日5000字から7000字の原稿を書いている者からすれば、2〜3日、取材から入れても1週間あればやれてしまえる程度の仕事量である。
これを広報委員会でやると、4カ月かかる。なぜこれほどまでに時間がかかるのか。前年までのワークフローを丹念に調べていると、そのほとんどが「待ち時間」で消費されていたことが分かった。
時間を整理する
これは学校によっていろいろなやり方があると思うが、うちの小学校では原稿を書いたあとは、近隣の出版社にDTPと印刷を依頼する形になっていた。従って広報紙のワークフローは、だいたい以下のようになる。
- 取材
- 原稿執筆、ページ割り付け
- 委員会で全体チェック
- PTA本部、学校側の内容チェック
- 出版社に入稿、DTP-初校見本刷
- 初校を委員会、PTA本部、学校でチェック
- 修正箇所を出版社に入稿、修正-再校見本刷
- 再校を委員会、PTA本部、学校でチェック
- 修正があれば出版社に連絡、見本刷
- 見本刷確認、印刷依頼
- 出版社で印刷
- 印刷物が学校に納品される
出版をやったことがない方にはよく分からないかもしれないが、プロセスとしては本を出版する際の手順とあまり変わらない。
ここで待ち時間が長くなる原因は、2つあった。本校の広報紙では、執筆者が内容をチェックするのではなく、委員会とPTA本部、学校側の3者でチェックする。
第1の待ち時間は、この3回のチェックで発生していた。1回に付き2週間、3回合計で1カ月半かかっている。なぜそんなにかかるかというと、見本刷をまずはPTA本部に回し、そこで1週間。次に学校に回して、そこでまた1週間かかるのである。
専門ではないことを依頼するのだから、1週間ぐらいかかることはやむを得ない。だが1箇所ずつチェックを回していくのは非効率だ。どちら側の修正依頼か分かるように、PTA本部は青で、学校は緑の色鉛筆で、などと変なところが細かく決まっているのもバカバカしい。
筆者が委員長になって、このプロセスを止めた。どうするかというと、コピーを取って、PTA本部と学校に対して同時にチェックに出すのである。赤が入って戻ってきた原稿は、委員会で1本化して出版社に戻せば済む話である。これで時間が半分に短縮できる。両方に渡した原稿は見分けが付くので、わざわざ色鉛筆で色分けする必要もない。
出版社の問題を整理する
第2の待ち時間は、出版社側で起きていた。最初に入稿して初校ができあがるまで、3週間もかかっている。雑誌経験者からすれば、たかだか8ページや6ページで3週間はかかりすぎだ。再校、念校が出るのもそれぞれ2週間ぐらいかかる。出版社にとっては、学校の広報紙など年額で20万円にも満たない仕事など営業的にもどうでもいい数字なのだろうが、「暇なときにやります」ではこちらの予定が立たない。そのしわ寄せは、取材時間や執筆時間の制約として現われてくるのだ。
また見本刷を出版社の営業が学校に届けに来るのだが、それも1週間ぐらいかかっている。なぜならば、学校の近所に納品などの用事があるついででしか立ち寄ってくれないので、いつ届くのか分からないのである。こうして内容チェックのタイミングが、どんどん後ろに押していく。
扱いとしてはかなりヒドいと言わざるを得ない。だが広報委員会としては、格安で本業の出版社にやってもらっているという負い目があるのか、改善を要求したことはないという。
もう1点、うちの広報紙には課題があった。現在多くの学校の広報紙はカラー刷が当たり前になっており、今どきモノクロの広報誌のほうが珍しい。本校もカラーにしたいという要望は、数年前から検討課題として上がっていた。問題は予算である。出版社にカラー化した場合の見積もりを取ってみたが、現在の3倍となって返ってきた。今のPTA予算では、到底無理な話である。
ただ、筆者もモノカキの端くれである。元々原稿の写真などはカラーで入稿しているのに、印刷をカラー化するだけで3倍になるわけがない。何かおかしいと、知り合いの出版関係者に相談してみたが、相場としてその値段はないという。
結局中小の出版社にとって、小口の学校PTA広報紙など、お荷物でしかないのだ。そこにしがみついていく必要性は感じない。そもそも刷部数も、こちらは予備も入れて650部で十分と言っているのに、値段は変わらないからと、800部納品されていることも分かった。150部も違って、値段が変わらないはずはない。要するに、紙を押しつけられているわけである。
これまではそれで済んだかもしれないが、筆者は素人ではない。決戦のときは、来た。(つづく)
本連載では、読者の皆さんからの、ご意見、ご質問、とりあげて欲しいトピックなどを、広く募集しています。編集部、または担当編集の風穴まで、お気軽にお寄せください。(編集部)
変更履歴:
2015年07月30日:「このプロセスを辞めた。」を「このプロセスを止めた。」に、「3倍となって帰ってきた。」を「3倍となって返ってきた。」に修正しました。
SNSシェア