「働く」ばかりが偉いわけじゃない──「働きがいのある会社」経営者たちの「仕事と人生」論
Great Place to Work Institute Japanが毎年発表している「働きがいのある会社」ランキング(従業員100〜999人の部)で2015年、1位に選ばれたVOYAGE GROUPの宇佐美進典社長と3位に選ばれたサイボウズの青野慶久社長の対談後編をお届けします。「働きがいのある会社」をつくるためにどんなことをしてきたのかを中心に意見を交わし合った前編に続き、後編では、そもそもお互いにとって「働きがい」とは何か? ということや、結婚・子育てを学生時代に経験した宇佐美社長と、乳幼児の子育て真っ最中の青野社長のワークライフバランス観が語られます。
社員のみならず内定者も含めて誰でもプランを提案できる
VOYAGE GROUPさんは子会社もたくさん増えていて驚いたんですが、新規事業の立ち上げはどのようにしているんですか?
基本的にはボトムアップとトップダウン両方ですね。ボトムアップについては、半年に1回、「新規事業コンテスト」を開催しています。社員のみならず内定者も含めて誰でもプランを提案できるようになっていて、毎回30〜40個は出てきますね。
すごい数ですね!
トップダウンでは、年に1回、役員がチームを作り、会社の経営課題について考える合宿を行っていて、そこから生まれるものもあります。お台場などのホテルに1泊して行うことが多いです。
合宿の効果はありますか?
あると思いますね。会社にいたら、いろんな人がいたり、電話がかかってきたりして、日常から思考を切り離せないですよね。その点、まったく違うところに場所を移して、気持ちを切り替えることで、中長期的な課題にしっかり向き合うことができます。
宇佐美さんは昔から合宿をやっていましたね。サイボウズでもそれを真似して始めたんです。最近は僕も子供ができて泊まりがけはキツイということで、2日連続で朝から16時まで会議室で行う、というパターンが多いんですが。それはそれでウケがいいんですよ。16時には必ず解放されるので(笑)。
「働く」ことばかりが尊重されすぎてきたのではないか
サイボウズでは、ワークライフバランスに関する制度の導入にも力を入れています。VOYAGE GROUPさんではそのあたりはいかがですか? ニーズも増えていると思いますが。
産休・育休などの制度はもちろん設けていて、戻ってくる人も多いですが、そんなに強く打ち出してはいないですね。特に強く打ち出さなくても、結果として自然体でできていればいいかなと思っています。
サイボウズとはエッジを効かせる場所が違うんですね。
おっしゃるとおりです。
すごく根本的な質問ですが、宇佐美さんにとって「働きがい」ってなんですか?
個人としても成長できて、かつ、自分たちがやっていることが世の中のためになっていると思えることが働きがいになると考えています。そのあたりに社員が満足してくれていることが、「働きがいのある会社調査」の結果にもつながっているのだと思います。 逆に、青野さんにとっての「働きがい」ってなんですか?
それ以前に、あまりウチの社員には聞かれたくないんですが、僕は「働く」とか、そういうのをあまり強調するのはもういいんじゃないかな? と考えているんです。
ははは。もういい、というのはどういう意味ですか?
日本ではこれまで、「働く」ことばかりが尊重されすぎてきたのではないかと。だから「働く」のが偉い、「働かない」のはダメ、となってしまう。 人間ですから、「働く」の前に、生活して、子供を作って、育てる、ということがあるべきだと思うんです。じゃないと人類は消滅してしまいますよ。 働く、働く、とばかり前面に打ち出さないような場所を作ってみたいと思っているんです。「働く」の前にまず「生きる」がある、「生きる」の後に「働く」があるんじゃないか。今はそういう思いです。 こんなこと、僕も昔は考えていなかったんですけどね。かなり変わりました。
そういう意味で僕が考えているのは、会社員なら多くの人は、なんだかんだ言っても起きている時間の大半を会社で働いて過ごしているわけですよね? 人生のかなりの時間を割いている。その時間が自分にとってマイナスであったり、嫌な時間だったりしたら、お互いにとって不幸だろうと。だからこそ、そこにいる時間が自分にとっても、社会にとってもプラスになる会社にしたいと思っています。
宇佐美さんはそういう組織を作るのが上手いですよね。サイボウズには社員を感動させることをミッションとして様々な仕掛けやイベントを企画する「感動課」という部署があるのですが、原点は宇佐美さんにあるんです。 会社の中に、感動や充実を感じられる仕組みが入っていれば、みんなが有意義に過ごせる。そうじゃないと、イヤイヤ働いて、それを我慢する代わりにできるだけいっぱいおカネをもらって、仕事以外の場で埋められなかったものを埋める、みたいな話になるじゃないですか? それでは不健全だなと。 映画を観て感動するのと同じように、働く間にも感動があればいい。働いている時間に、いかにおカネ以外のものを手に入れてもらうか。それは心を許せる同僚かもしれないし、お客様から「ありがとう」と言ってもらうことかもしれないし、最新の技術に触れられることかもしれないし、自分の企画を進められることかもしれない。僕はそんなふうに考えています。 人生の中で、働く時間は、何時間ぐらいあるのでしょうね?
1日8時間20年働いても、約40000時間ぐらいですよね。
長いですね。そこにまさに働きがいがあるかないかで人生の充実度もほぼ決まってしまいますよね。
人生全体の中でワークとライフのバランスがとれればいい
宇佐美さんは、大学時代に学生結婚をされて、お子さんも生まれたそうですね。大変だったんじゃないかと思うんですが、どのように子育てをされてきたんですか?
子供が3歳になるまでは大学生だったので、保育園に送って行ったり、迎えに行ったりしていました。卒業して社会人になってからは、正直、子育てにはそんなに時間を取れませんでした。専業主婦になった妻に任せっぱなしでしたね。
大学を出たらもう奥さんも子供もいて、ということでプレッシャーを感じたりはしませんでしたか?
それはなかったですね。むしろ、学生時代は、子育てをしながら、学校に行き、アルバイトもして、その上、友達とも遊びたかったりして。全てが中途半端で、ある意味、不完全燃焼が続いていたんです。けれども社会人になってからは、妻が専業主婦になったこともあり、初めて時間を忘れられて、「仕事に没頭できるって、なんて楽しいんだ!」と思っていました(笑)
へええ(笑)学生時代は時間に制限がない人も多いですが、宇佐美さんは逆なんですね。
僕は、ワークライフバランスについては、人生全体の中でワークとライフのバランスがとれればいいと思っているんです。若い時はどうしてもワークに偏りがちですが、今は子供も大学生になって手を離れ、昔に比べると妻との時間をちゃんと作ったりするようになりました。それでいいんじゃないかと。
もちろん。ワークライフバランスは、家族ごとに答えがあると思います。夫婦が100あれば、100通りの答えがあっていいですよね。
そういう意味で、多様性はあってしかるべきだと思います。会社でも、僕の考え方を押し付けようとは思わない。多様性を受け入れる組織でありたいと考えています。
広げてきたフェーズから、磨いていくフェーズへ
今後さらにこんなことをやっていきたい、ということはありますか?
「360°スゴイ」をソウルに掲げているわけですが、現状の事業が、胸を張ってそう言えるレベルかというと、まだまだだと思っているんです。小さな事業が寄せ集まっているような段階で。これからは1つひとつの事業をブラッシュアップして、本当に「スゴイよね」と言ってもらえるようにする必要があります。広げてきたフェーズから、磨いていくフェーズに入ってきたなと。 それがあって、初めて組織や制度もうまく回ると思うんです。理念とかけ離れたことをやっていると、社員からも「それは違うだろう」という不満が出てくるでしょうから。
理念を掲げたからにはやらなくてはいけない、ということですよね。そうじゃないと、社員も信じてついて来られず、働きがいを感じられなくなってしまいますもんね。 今日はまた、学べることがたくさんありました。ありがとうございました!
こちらこそ久々にお目にかかれて楽しかったです。ありがとうございました!
文:荒濱 一 撮影:内田 明人 編集:渡辺 清美
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執筆
荒濱 一
ライター・コピーライター。ビジネス、IT/デジタル機器、著名人インタビューなど幅広い分野で記事を執筆。著書に『結局「仕組み」を作った人が勝っている』『やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)。