PTA会長は狂言師!──「イクメン」で「イキメン」な和泉元彌氏が挑む雰囲気のいいチーム運営の秘訣とは?
ここ最近、運動会や授業参観などの学校行事に姿を見せるお父さんは増えてきたものの、PTA活動に参加しているとなるとまだまだ少数派でしょう。そんな中、狂言師で2人のお子さんを持つ父でもある和泉元彌さんは、お子さんが通う小学校のPTA会長に就任。地域活動を頑張る「イキメン」としても活躍しています。その和泉さんとPTA副会長としてタッグを組んでいたのが、たまたまお子さん同士が同じ小学校に通っていたサイボウズの山田理副社長。PTA活動を通じてすっかり意気投合した2人が、PTAというチームの運営や工夫について語り合います。(後編:もっとオヤジ同士のつながりを!──狂言師の和泉元彌氏が語るいまどきのPTAと父子の絆)
なぜPTAの役員に?
そもそも元彌さんは、何がきっかけでPTA活動を始められたんでしたっけ?
よく学校で見かけるから、ということで声がかかったんでしょう。僕は毎朝、子供を学校に送っているんです。
えっ、そうだったんですか。
そのうち「来ないで」と言われるだろうから、それまでは送ろうと(笑)。実は僕も、小学生の頃、毎朝両親に学校まで送ってもらっていたんです。通学するのに1時間ぐらいかかる場所だったので。どんなに前日、帰りが遅くても送ってくれて、車の中でいろいろ話もできた。それがとてもうれしかったので、僕もやっています。今、上の娘が小学校5年生なんですけど、幸いまだ「来ないで」と言われないから続けていて。そんなことがきっかけで、PTAをやってみないかと誘っていただいたんです。
最初から会長ではないですよね?
ええ、最初は副会長を。翌年は相談役で、その後、会長を引き受けて、今は2年目です。僕が会長になった年に、山田さんが副会長をやってくださったんですよね。山田さんはなぜPTA役員に入ろうと思ったんですか?
副会長は3人いるんですけど、その中に男性が1人は必要だということで。会長・副会長は、地域のPTAの対外的な集まりに出なくてはいけないこともあるんですが、それは夜に開かれることが多い。元彌さんは、夜は公演や稽古で忙しいし、女性もなかなか夜、出られない。そこで誰か男性でやってくれる人がいないかということでなぜか僕に白羽の矢が立ち「夜だけ出てくれればいいから」ということで引きずり込まれたんです(笑)
ああ、そうでしたね。でも、昼間の会合にもいらしてましたよね。昼休みに会社を抜けて自転車でいらしたり(笑)
最初は本当に夜しか出てなかったんですよ。でもそのうちにやはり、「なんであの人は夜しか来ないの?」みたいになって。「いったん引き受けたからにはちゃんとやろう」と思い、昼もできる限り出ることにしました。会社のほうにも「これからはPTAに出ることにする」と宣言し、会合のある日はグループウエアのスケジュールにも書き込んできちんとブロックするようにしたんです。そのあたりから、本格的に皆さんの仲間に入れてもらえるようになった感じですね。
PTAは不思議な団体
僕の場合、平日は学校公演以外の公演や稽古は、夕方がほとんどなので昼の時間の都合がつきますが、一般社会人の方が日中抜けるのは大変だったと思います。それ以外にも、PTAに参加してみて、とまどったり、不思議に思ったりしたことがあったのではないですか?
PTAは独特な世界ですからね(笑)。なにより、ボランティアという点が難しいんですよ。誰かものすごい権限を持っている人がいるわけではないし、評価があるわけでもない。その中で皆さん一生懸命やっているわけで、あまり強く出て失礼になってもいけないし、「過去からずっとこうしている」ということを変えていいのかもわからない。最初はどういうスタンスで取り組めばいいのか、確かにとまどいましたね。
PTAは不思議な団体ですよね。毎年必ず、メンバーが入れ替わっていきます。これは変えていいのか、ということについては迷いますよね。
それと、もうひとつ難しさを感じたのは、当たり前ですが“子供がくっついている”こと。会社だったら社内の人間と何が起きてもまあ、自分だけの問題ですが、PTAの場合、親同士の人間関係が子供に影響してくる可能性がある。そうなるとやはり、発言やほかの親御さんとの接し方も慎重になりますよね。
関係づくりには気を使わなくてならないですよね。ビジネスライクに接する、というわけにはいかないですから。基本、みんな、自分より大事な子供が過ごす環境を良くするために、という思いで集まっているわけですが、1人ひとりいろいろな考え方があります。「PTAという器があるから誰かが絶対やらなくちゃいけない」という考え方では苦役になってしまいます。理由がわからずにやっていると、自主性も生まれづらいです。「今年もやるべきことなのか、改善点があるのか」も「子どものために」という点で考えています。おかげさまで僕は、とてもいい雰囲気で活動させてもらえているな、と思っています。
雰囲気のいい「チーム」をいかにつくるか
PTAの役員もひとつの「チーム」ですよね。雰囲気のいいチームをつくるために、前期よりも今期、元彌さんが気をつけていることってあるんですか?
無理をする人が出ないように、みんながきちんと話し合える環境をつくりたいと思っています。PTAだけではないと思いますが、人が集まるとどうしても、言える人は言いたいことを言って、言えない人はじっと我慢するというようになりがちじゃないですか? 大きな人の声ばかりが通るというか。そうした不公平感が生じないよう、みんなに「これで大丈夫ですか?」としっかり聞くようにしています。その上での努力や苦労なら…。「無理をしない」ことでいうと、これまでPTAの実行委員会には、「各委員会の長が必ず出なくてはダメ」となっていたのですが、それを「委員の誰かが出ればいい」というふうに変えました。そうすれば長の人にばかり負担がかからないし、長以外の人にも会議の様子がわかるようになりますから。また今期は、期初にスローガンを決め方針や考え方をみんなで共有しました。行事から入っていってバタバタ仕事をこなすのではなく、まず「今期はこういう方針でやっていきましょう」とみんなで話し合った上で活動を開始しました。
どんなスローガンですか?
「チャレンジ、カスタマイズ、カラフル」です。頭文字をとって「3C」と呼んでいます。1つめの「チャレンジ」。これについては先ほど、PTA活動では長く続いていることを変えていいのか判断が難しい、という話が出ましたが、それに関連することです。僕は伝統の世界に生きているので、伝統を受け継ぐことに抵抗はないのですが、でもPTA活動では変えたほうがいいのでは、と思うこともある。そういうことについて、受け継ぐことも変えることもチャレンジとして、一緒に考えていきましょうという意味です。次が「カスタマイズ」。PTAのメンバーは毎年変わるので、それによってできることも変わってくる。その年で集まったメンバーで何ができるかを考え、自分たちに合った活動をしていこうと。最後は「カラフル」。単なる手数として、自分の色を消してその場にいるのではなく、1人ひとりが個性を発揮しながら活動していきましょう、ということです。「親の介護があるのでこの時間は無理」といったことも1つの個性として尊重しあう。能力も環境も違う、色とりどりの人が集まっていることを活かしたい、という意味を込めています。
こうした基本的な方針をみんなで共有し、スタートしたことが、雰囲気のいいチームをつくる上で役だったのですね。
PTAに会社員経験を活かす
1年間、副会長として活動する中で、山田さんもいろいろな提案をしてくださいましたよね。
僕はPTA活動をやったことがなかったので、最初は何もわからなくて。「何をしたらいいでしょうか?」とほかのお母さん方に聞く、御用聞きみたいなことから始めたんです。そのうちにやはり「これはちょっとどうなんだろう?」ということが出てきたので、そこからはいろいろ提案させてもらいました。まず疑問を感じたのは、意志決定のプロセスですね。PTAの場合、企業のように議論を吸い上げて決めるべき人が決める、とはならず、どうしても多数決になるんですよ。その多数決も、「あのお母さんは経験が長いから、あの人のいうとおりにしておけばいいか」みたいな感じになってしまいがち。そうなると責任の所在がわかりづらくなるんですよ。その意味で、会長の役割や実行委員会のあり方について、もっと整理したほうがいいのではないか、と意見しました。実行委員会にしても、単に活動報告をするだけになっていて、活動の中でどんな問題があるのかかが出てこない。報告の場でなく、困っていることを相談したり、議論したりする場にしたほうがいいのではと提案しました。あとは情報共有のあり方ですよね。「決めたことをなんでみんなに伝えないのか?」と思ったりもしたので、グループウエアを使って情報共有することを勧めました。
山田さんにはグループウエアを早い段階で提案いただいていましたが、役員の中でもITに対する足並みは揃っていなかったので、すぐには導入しませんでした。しかし、年度末の引き継ぎの際に、「これまでの紙の書類や、ホワイトボードを手帳に書き写すといった方法よりも、Web上でプロセスも含めて共有するほうが便利ではないだろうか? 」ということに気がつきました。今期は、グループウエアを三役(会長・副会長・会計・書記)で使っています。特に書類はグループウエア上にアップするようにしたので、何かあったらすぐに見返せるようになりました。山田さんのような一般の会社でバリバリ働いている方と接することで、僕自身、刺激を受けることがたくさんありましたね。
少しでも役に立てたならとてもうれしいですね。
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執筆
荒濱 一
ライター・コピーライター。ビジネス、IT/デジタル機器、著名人インタビューなど幅広い分野で記事を執筆。著書に『結局「仕組み」を作った人が勝っている』『やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)。
撮影・イラスト
編集
渡辺 清美
PR会社を経てサイボウズには2001年に入社。マーケティング部で広告宣伝、営業部で顧客対応、経営管理部門で、広報IRを担当後、育児休暇を取得。復帰後は、企業広報やブランディング、NPO支援を担当。サイボウズ式では主にワークスタイル関連の記事やイベント企画を担当している。