ブロガーズ・コラム
初めてできた後輩を潰した話
わたしは後輩や部下を持つのが苦手です。苦手だからといって逃げるわけにはいかないので、なんとかやっているのですが、タイトルに書いたように、初めてできた後輩をうまく指導できず、そのことを今でも後悔しているからです。ここではその失敗談と、振り返って今、どう思っているかについて書きたいと思います。
おっとりした後輩がやってきた
20代後半の頃、わたしの下に新卒で入社した男の子が配属されました。仮にAくんとしますね。Aくんは穏やかな話し方とおっとりした雰囲気が特徴的な、ムーミンみたいな男の子でした。わたし自身、プロジェクト単位ではなく、「社員」として面倒をみるよう指示されたのが初めての経験でした。わたしは、ちょっと誇らしくて、うれしくて、そしてちゃんと面倒を見てあげなきゃ! と張り切っていました。
しかし、Aくんはつい最近までは学生で、何なら就活が終わって卒業旅行の余韻もまだあるようなホンワカさ。こっちは鉄火場みたいに毎日ピリピリしながら激務をこなしているわけで、スピード感に致命的な違いがありました。
自分の仕事を渡して、新しい仕事にも少しずつ参加させ、上がってきたものにダメ出しをして戻し、もちろん自分の仕事も高スピードでこなさなければいけない。「何かを改善すれば、どうにかなるはず」と思って試行錯誤をしながら、思ったように活躍してくれないAくんに苛立ちを感じ始めていました。きつい言い方で理解していないことを責めたりもしました。
後輩が休みはじめた
そんな状態で数週間を過ごしたあと、Aくんから電話ではなく、メールで「体調不良のため午前休します」とだけ報告がありました。大丈夫かな、と思いながらも、同時に心にあったのは「これで自分のためにだけ時間が使える」という気持ちでした。
Aくんはそのまま午後になっても出社せず、全休。そのまま翌日も欠勤、そして3日目からは無断で欠勤するようになりました。当時の会社ではストレスで身体を壊したり無断欠勤をする人が珍しくなかったので、「またか」というムードのなか、1週間ほど無断欠勤が続きました。
管理部が腰を上げ、自宅に訪問したところ不在。これはと実家に連絡を入れてもらって初めて、Aくんが東北にある実家に帰ってしまっていたことが分かりました。
叩かれるのを覚悟で当時の気持ちを正直に書くと、「ふざけるな」と思いました。わたしだって辛くて苦しくて逃げたいし、あなたが放り出した仕事まで抱えているのに、自分だけ逃げて、ふざけるな、と。
しかし、Aくんはそのあと1週間たっても2週間たっても、1ヶ月たっても帰ってきませんでした。その帰ってこない時間の中で、「ふざけるな」は、「そこまで辛かったんだろうか」という思いに変わっていきました。
「ふざけるな」とわたしが思ってしまったのは、どこかで「この程度の仕事で!」と思ったからでしょう。でも、彼にとっては「この程度の仕事」ではなかったのだろうし、もしかしたら「そこまで(残業や徹夜をしてまで)やりたいと思わない仕事」だったのかもしれません。わたしはそれを理解してあげることができなかったから、押し付けてしまった。
Aくんは入社半年を待たずに休職。復帰後は管理部系のゆるい部署に配属され、ほどなくして転職していきました。
あのときわたしができていなかったこと
この件はわたしの中でいつまでも飲み込めない塊のように喉の奥に残っていて、今でも思い出すと嫌な気持ちになります。
Aくんに対してではなく、自分の価値観を疑わず、相手の状況も踏まえず、ひたすらに押し付け続けた自分の浅はかさを恥じているから。
当時のわたしがすべきだったのは、彼に成長してもらおうと気負うことではなく、目先の作業を少しずつ渡してあげて、ひとつずつ達成していく様子を焦らず見守ること。そして、誰もが自分と同じ価値観ではないということに気付くことでした。
今でも、誰かに仕事を任せるのは緊張します。自分のやり方や価値観を押し付けていないか、強要していないか、近視眼的になっていないだろうか、いつも怖いと思います。
わたしがしたい働き方と、チームメンバーがしたい働き方は必ずしも同じではないと意識すること。同じであればもちろん幸せなことなのかもしれないのですが、同じでないからといって否定したり、合わせようと強要しても結局仕事は進みません。
違う相手でも、期待する成果を出せるように仕事の流れを設計し、相手のレベルやスキルを正確に把握し、適切な業務量を割り振ること。そして、万が一、相手に割り振った仕事を投げ出されたとしても困らないように、迷惑をかける範囲を最小限に抑えられるように備えておくことです。
今日はそんな感じです!
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執筆
撮影・イラスト
松永 映子
イラストレーター、Webデザイナー。サイボウズ式ブロガーズコラム/長くはたらく、地方で(一部)挿絵担当。登山大好き。記事やコンテンツに合うイラストを提案していくスタイルが得意。