日本企業で社内ソーシャルが必要とされない理由とは?
グローバル競争に勝つポイントはハイブリッドな組織能力
先日、慶応大学の高木晴夫教授が今年の4月に出された「組織能力のハイブリッド戦略」を読みました。
「日本企業がグローバル競争の中で勝ち残るには何が必要なのか?」というテーマについて、3年間におよぶプロジェクトで163社への調査や個別企業ヒアリングを行い研究した成果がまとめられた本です。
高木教授は、環境変化を敏感に感じ取りながら、トップが打ち出した戦略に従って現場がPDCAをいかに素早く回し自律的に対応していけるかが、新しい時代の競争を勝ち抜くために必要な組織能力であると書いています。
これを、マネジメントが打ち出した戦略をスピーディーに実行する力を「タテ方向」、現場チームが連携して自律的に問題に対処していく力を「ヨコ方向」と分解して表現するならば、どちらか一方だけが優れているのではなく、タテとヨコの両方の力、すなわち「ハイブリッド」化した組織能力を持つ企業こそがグローバル競争を勝ち抜ける、というのが高木教授の見解です。
このハイブリッドな組織能力が日本企業にはどれほど備わっているのか?ということについて、グローバル競争で成功例が多い米国企業との組織の比較から考察しています。
米国企業は「仕事」、日本企業は「人」がベースの組織
高木教授によると、組織とは「大きな仕事を分業する仕組み」であり、「企業のなかで「仕事」がいかに定義されるか、そして、仕事をする「人」がどのように組織内に取り込まれるか」の2点に注目すると組織構造の特徴を理解しやすいそうです。
米国企業の場合は、
・トップダウンで仕事を定義
・その仕事ごとに人を採用
一方、日本企業の場合は、
・ミドルマネジメントによる現場からのボトムアップでの積み上げで仕事を定義
・組織に採用された人がその成長に伴って、仕事の範囲を広げ、仕事を創り出していく
といった違いがあるそうです。この比較から高木教授は、米国企業は「仕事ベース」で組織が作られており、日本企業は「人ベース」で組織が作られていると表現します。両国の企業はある時代まで、この単一方向の組織能力で成果を上げ成長していきました。
「人ベース」の組織能力を手に入れて強くなった米国企業
ところが米国では90年代に不況がおとずれ、企業では生き残りのため組織の中間層のリストラを実行しました。組織の階層が減らされてフラット化し、現場はチーム編成の組織に変貌を遂げました。この結果、1人のマネージャーの下に多くの部下が直接ぶら下がることになり、多大な負荷がかかって現場は多忙になりました。
そこで、業務を効率的に進めるためのIT化を含めた業務改革や部下への大幅な権限委譲を進め、従来のトップダウン中心の硬直化しやすい分業体制から、フラットで「マネージャーが細かいところまで指示しなくても、現場のメンバーが自律的に判断して動ける組織」へと進化したのです。これはまさに日本企業が得意としてきた「ヨコ方向」の力が優れた、「人ベース」組織の特徴です。
トップダウンと自律チームの2つをうまく両立させた構造、すなわち「ハイブリッド」化された組織と言えるでしょう。こうして米国企業はグローバル競争を勝ち抜ける組織へと変化を遂げたのだそうです。
一方の日本企業も米国に遅れること10年の2000年頃、不況の影響から中間管理層のリストラが行われました。そのため業務効率の改善が求められましたが、残念なことに先に見てきた組織構造の違いを考慮できず、組織改革で先行する米国企業を単に手本としたかのような「組織のフラット化・チーム化」が行われてしまったのです。
これまで見てきたとおり、グローバル競争で強みを発揮するには組織能力のハイブリッド化が欠かせません。
「人ベース」の組織である日本企業に必要なのは「タテ方向」の改革、つまり「トップダウンで仕事をマネジメントする力の強化」でした。しかし実際は「タテ方向」の強化は行われず、企業によってはむしろ「ヨコ方向」の再強化に向かってしまったと高木教授は論じます。
日本企業の調査からは、
・部門横断的なジョブローテーション
・生え抜き社員の登用
・自分の担当範囲を超えて、周囲を巻き込み調整しながら仕事を進めること
といった、既に「人ベース」の組織が持っている特徴を再強化している様子がうかがえたそうです。
では、「仕事ベース」を取り入れて成功している日本企業はないのか?今後日本企業の組織はどうあるべきなのか?という点について調査やヒアリングに基づいた高木教授の考察が続くわけですが、それはぜひ本書をお読み頂ければと思います。
社内ソーシャルは米国企業のためのもの?
この本を読んでふと思ったこと。
TwitterやFacebookといったソーシャルメディアの普及を受けて、「社内ソーシャル」という言葉を様々なメディアで見かけるようになりました。組織内での仕事にも同じような仕組みのツールを導入し、組織の壁を越えて社員個人個人がつながり、情報を共有し、業務効率を高めようというコンセプトです。
私は、このコンセプトは日本企業にはそれほど根付かないのではないかと感じていましたが、明確な答えがわからずにいました。
その答えを、この本で見つけたような気がします。
「社内ソーシャル」を実現するシステムの多くは米国のIT企業が作り上げたものです。
裏を返せば「米国企業が必要としたシステム」と考えることができるのではないでしょうか。
これまで見てきたように、「仕事ベース」でタテ方向の組織運営を行ってきた米国企業が、さらなる進化を遂げるために取り入れた「ヨコ方向での社員同士のつながり」を生み出す仕組み、それが「社内ソーシャル」です。
一方、もともとヨコ方向のつながりがベースでトップダウンが弱く、ミドルマネジメントによるアップ&ダウンマネジメントが特徴的な日本企業では、「社内ソーシャル」は仕組みに頼らなくても既に実現できており、重要性が低いのではないでしょうか。
ハイブリッド化しグローバル市場で戦える強さを手に入れるためには、日本企業は逆に「仕事ベース」を実現する仕組みが求められているのではないかという仮説が私の中で生まれました。
この考えが妥当かどうか、高木教授にお会いしてお話しを伺ってみたいと思います。
■続きはこちら
日本企業に求められる「社内ソーシャル」とは? 慶應ビジネススクール 高木教授インタビュー
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