ビジネスSNSに期待される6つの役割――日本で普及の可能性は?
「ビジネスSNS」と聞くと何を思い浮かべますか?
海外では、キャリアアップや人脈形成を目的に定着している感があります。代表格の「LinkedIn」には、1億7500万人ものビジネスプロフェッショナルが集まっているとか。特に米国の多くの大企業では採用に活用するなど、存在感が高まっています。
では、日本ではどうでしょうか? LinkedInは2011年10月に日本語対応し、登録者数は増えているものの、日本企業で活発に活用されているという声はあまり聞こえてきません。「本命のビジネスSNSは?」と聞かれると答えに窮する感じがします。
ビジネスSNSという言葉が現れて数年が経つ中、サイボウズ式では、改めて「仕事で使えるソーシャルネットワーク」について考えてみることにしました。今回は、企業内でのソーシャルウェアについて研究・開発を進めてきたサイボウズの丹野瑞紀に話を聞きます。
”勝手R&D”で社内SNSを研究・開発し続けてきた男
まず、丹野さんと「仕事で使えるソーシャルネットワーク」のこれまでのかかわりについて教えてください。
2005年ごろ、コールセンターなどCRM(顧客関係管理)を専門とするベンチャー企業でソフトウェアの企画・開発を担当していました。そこで、SNSとブログを企業内で使うとどうなるかを研究したのがきっかけでしたね。
その後、サイボウズに?
社内SNSの研究成果をグループウェアに生かしてみたいと思って、転職しました。サイボウズでは最初、“勝手R&D”として、Twitter風の社内ブログや社内ソーシャルブックマークを開発したりしていました。
日本でビジネスSNSがブレークしない最大の理由
そんな丹野さんに聞いてみたいのが、「仕事で使えるソーシャルネットワーク」についてです。海外ではビジネスSNSが浸透しているイメージですが、国内はどうでしょうか?
日本では過去に何度もさまざまなビジネスSNSが登場していますが、大きく成功した例はまだないですね。これからもチャレンジが続く領域だと思います。最近だとサイバーエージェントさんが、ビジネスパーソン向けSNS「intely」をローンチしています。
Facebookが日本でも定着した感がありますけど、最近では中高年層による活用が進んでいて、”おじさんSNS化”しているんじゃないかな。仕事関係者とFacebookで積極的につながる人も多くて、ある意味FacebookがビジネスSNSのように使われている状況だと思います。
おじさんSNSですか(笑)。ビジネスに特化したソーシャルネットワークって、国内では受け入れられにくいんでしょうか。
LinkedInも日本でサービス展開していますが、まだブームと呼べる段階ではないですね。その背景にあるのは、日本とアメリカの間にある雇用の流動性の極端な差だと思います。
日本とアメリカだと勤続年数に3倍以上の差があります。日本と比べて雇用が安定していないアメリカでは、ビジネスパーソン個人がLinkedInのようなサービスを使って自己防衛する必要があります。ただ、日本でもキャリアアップに意欲的な意識の高い層を中心に、徐々に普及していくかもしれませんね。
そうすると、やはり日本でビジネスSNSは成功しないんでしょうか。
提供者側がビジネスSNSに期待するのは、「ソーシャル」というものの爆発力です。 Facebookやmixiは、ユーザーが中毒的に利用して友達を招待してつながり合い、どんどん盛り上がっていきます。サービス提供者としては、そういう展開を期待したいのだと思います。
でもSNSに限らずどんなネットサービスも、提供者側の思惑だけではうまくいかないんですよね。いかにユーザー登録をしてもらうか、継続的にアクセスしてもらうかなど。いかに「使う必然性」をユーザーに持たせられるかが重要です。
ビジネスSNSだったら、ビジネスパーソンが使う必然性をどう持たせるのかが問題です。転職やキャリアを軸にしたサービスの場合、日本ではなかなか差し迫った必然性を持たせられないのです。
ビジネスSNSに期待される6つの役割
では、どうやって継続的な利用の必然性を持たせればいいのでしょう。
難しい質問ですね。僕も知りたいです(笑)。 コミュニティ系サービスは人が集まっていないと、「場」に対する魅力が薄れます。サービスのコンセプトに共感して登録しても、継続的にアクセスする動機を持てないことが多いですね。ユーザーが増えないから場の魅力も増えない。まさに「鶏が先か卵が先か」の問題になります。「Facebookやmixiのビジネス版を作りました」というかけ声だけでは、ビジネスパーソンは集まってくれません。
ビジネスパーソンにとって、何が「使う必然性」になるでしょうか?
それを考える上では、「そもそもビジネスSNSとは何か」をもう少しブレークダウンして考えた方が良いと思います。ビジネスSNSって定期的に話題になるんですけど、結局のところ定義があいまいで、みなさん色々なものをビジネスSNSに期待してるんですよね。「ビジネスSNS」と聞いたときに、多くの人が期待する機能は、次の6つじゃないでしょうか。
- 採用・転職の支援
- プロフェッショナル同士のディスカッションやQ&A
- ネットワーキング(新しいビジネスパートナーの発見)
- 情報収集・スキルアップの支援
- 名刺の代替
- メールの代替(ビジネス上の連絡・コラボレーション)
この6つはどれも、ビジネスパーソンが解決したい課題だと思います。この中からユーザーの母数に依存せずに便利と思わせられるものを選んで、ビジネスSNSの軸にすれば良いんじゃないでしょうか。
ビジネスSNSの課題を克服? 続々と生まれる新たなサービス
丹野さんだったらどういうビジネスSNSを作りますか?
うーん、身もふたもない回答になりますけど、利用者はビジネスSNSに解を求めてないんじゃないですかね。
ビジネスSNSは幻想で必要ない、と?
そうは言っていませんよ。ただビジネスパーソンは課題の解決を求めているのであって、ビジネスSNSを求めているのではないと思います。マーケティング的な意図で「ビジネスSNS」という看板を掲げるのは良いと思います。
本質的には「ビジネスSNSを作ろう」という発想ではなく「ビジネスパーソンの課題を解決しよう」という発想をすべきだと思いますね。実際、先ほど挙げたようなビジネスパーソンの課題を解決してくれるサービスが、たくさん出てきています。
提供者視点で「ソーシャルの爆発力」を求めるのではなく、ユーザー視点で考えるということですね。ビジネスパーソンの課題を解決してくれるサービスは、具体的にどんなものがありますか?
いくつか例を挙げてみますね。採用を支援するサービスとしては「Wantedly」が注目されています。 Facebook上のつながりを使って、社員の知人に自社への入社の動機を与えることを目的にしたサービスです。転職考えているビジネスパーソンではなく、採用担当者をターゲットにしたサービスですね。
新しい出会い(ネットワーキング)を支援するサービスとしては、「CoffeeMeeting」や「ソーシャルランチ」がおもしろいですね。 いわゆる「出会い系」的なものではなく、同じ領域に関心をもつ人同士が健全に出会える機会を、オフラインの場で提供しようとしています。
名刺の代替だと「Eight」がおもしろいですね。 名刺をスキャンして取り込んでスマホなどで管理できるサービスですが、名刺交換した人同士がリンクすることができて、連絡先情報のアップデートが共有されます。Eight上だけで連絡先情報を交換できるのが特徴です。
「Gunosy(グノシー)」はFacebookやはてなブックマークなどの利用情報から、お勧めの記事をレコメンドしてくれるサービスです。分析の元になるFacebookなどの使い方によるとは思いますが、自分の専門分野の情報収集に便利ですね。
わたしがプロダクトマネージャーをやっている「サイボウズLive」は、企業間のメールを代替することを目的にした無料グループウェアサービスです。プロフィール共有やステータスアップデートの機能を持たせることで、名刺の代替も狙っています。
これらのサービスに共通項はありますか?
おもしろいのはどのサービスもFacebookと連携できて、Facebookの人間関係(ソーシャルグラフ)を利用した機能を提供しているところです。「ビジネス版Facebook」を作ろうとするのではなく、Facebookを基盤にして「Facebookではできないこと、やりにくいこと」を補強するサービスになっていると思います。
ありがとうございました。今回の話を通じて、ビジネスSNSの現状を整理できました。最後に、丹野さんがビジネスSNSについてお話を聞いてみたい方はいらっしゃいますか?
お、誰でもいいですか? intelyのディレクターをされているサイバーエージェントの渡邊大介さんの話を聞いてみたいですね。あとはやっぱりLinkedIn創業者のリード・ホフマンさん、LinkedIn日本版をバックアップされている伊藤穣一さんもぜひ。
了解です! ビジネスSNSの今後について、取材を続けます。
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