ブロガーズ・コラム
強いチームは理論と実践をバランスよく学ぶ
【サイボウズ式編集部より】この「ブロガーズ・コラム」は、著名ブロガーをサイボウズの外部から招いて、チームワークに関するコラムを執筆いただいています。今回は、日野瑛太郎さんによる「チームの環境変化に柔軟に適応するための学習」について。
チームを巡る環境は時々刻々と変化します。プロジェクト開始時に重要だと思われていたことが、3ヶ月後にはまったく重要でなくなっていることも少なくありません。これは、プロジェクト開始時に設定した課題解決のためのスキルセットが、時間の経過によって役に立たなくなってしまう可能性があることを意味します。
メンバーが高度なスキルを持っていることは、強いチームをつくる上でたしかに大切ですが、それ以上に大切なのは、チームが環境変化に適応できるだけの柔軟さを身につけていることです。メンバーがどんなに高度なスキルを保有していても、環境の変化に適応することを拒み続けていては、そのチームは結果を出すことはできません。
チームを取り巻く環境変化に柔軟に適応するためのキーとなるのは「学習」です。その時点で保有しているスキルや考え方に拘泥せずに、環境変化に応じて新しいスキルや考え方をメンバーが学習していけるかどうかでチームの強さが決まります。今回は、そんな強いチームをつくるために必要な学習戦略について考えてみたいと思います。
「学習」には二段階ある
「学習」と一言で言っても、その内容・粒度は多岐にわたります。ここでは便宜的に、学習の段階を(1)プロジェクトに固有でない学習をする段階、(2)プロジェクトに固有な学習をする段階、の2つに分けて考えます。
(1)は、たとえば本などを読むことで手に入る一般的な知識の学習をする段階です。プログラミング言語やツールの使い方を覚えたり、マーケティング戦略のフレームワークを学んだりすることがこちらにあてはまります。(1)の学習によって得た知識は、ひとつのプロジェクト・チームに限らず広範にあてはめることが可能です。しかし一方で、これらの知識は一般化されているため、具体的な現実のケースにそのままあてはめようとするとうまくはまらないことも少なくありません。実際に仕事で使うためには「現実のケースにフィットさせる」必要があります。
その「現実のケースにフィットさせる」ための学習の段階が(2)です。たとえば、アジャイルの本などを何冊か読んで、一般的なアジャイルの方法論を理解したとします。では、学んだことを実際に自分のチームでやってみようとした場合、すんなり導入できることは稀です。たいていは、本を読んだだけでは想定できなかった困難に直面します。本に書いてあるとおりにミーティングを設置したらミーティングだらけで仕事がサッパリまわらなくなってしまったり、朝会を毎日やろうと言ったのにエンジニアが昼にならないと出社してこなかったり、自分たちのプロジェクトに固有な問題点が少しずつわかってきます。これらの問題を乗り越えて、知識としてのスキルや方法論を現実にチームに適応させるプロセスが(2)の学習です。
いくら本を読んで(1)の学習しても、それを実際のプロジェクトに適応させるための(2)の学習を行わなければチームをよい状態に導くことはできません。一方で、(2)の学習を意味のあるものにするためには、(1)の学習によってある程度は一般論を知っておく必要があります。(1)の学習と(2)の学習は両輪であり、どちらが欠けてもいけません。
「理論」と「実践」のバランス
(1)プロジェクトに固有でない学習と(2)プロジェクトに固有な学習の間にある関係は、「理論」と「実践」の関係に近いと言えるかもしれません。理論だけでは頭でっかちで具体的な成果はほとんどでませんし、実践だけでは近視眼的になり局所解に陥る危険があります。
理論か実践か、たいていの人は大体どちらかに寄っています。これは性格の問題でもあるのである程度は仕方がないのかもしれませんが、明らかにどちらかに寄りすぎているのであれば、意識的にバランスを取ることを心がけたほうがよいでしょう。僕の経験でも、この理論と実践のバランスが取れている人は、チームをどんどんよい方向に導いていくことができていました。
理論と実践のバランスがよい風土をチームの中につくることができれば、環境変化に応じて臨機応変に学習できる強いチームができあがります。
知識をシェアする文化をつくる
理論と実践をバランスよく学ぶチームをつくるひとつの方法は、「知識をシェアする文化」をチーム内に根付かせることです。週末に本を読んで仕入れた知識や、勉強会に参加して得た知識は、自分だけのものにしてしまわずにチームに積極的に展開するようにします。
その際には、「シェアだけして終わり」にしてはいけません。それではただ理論を紹介しただけになってしまいます。大切なのは、そうやってメンバーからシェアされた新しい知識について、「自分たちのチームで使うのであればどうすればよいか」を具体的に議論することです。そして実際に使えそうなら、積極的にチームで使ってみることも重要です。このように「理論を仕入れて実践してみる」というサイクルをチームの中で定常的にまわすことができれば、チームはつねに成長しつづけることができます。
これは、チームだけでなくシェアする個人にとってもメリットの大きい話です。本で読んだり勉強会で聞いたりしただけでは知識は十分に深まったとは言えません。具体的なシチュエーションを考え、実際に試してみることで知識は深化します。これをチーム全体の力を借りてできるようになれば、自分だけでいろいろと試す場合よりも飛躍的に学習効率が高まると言えるでしょう。
メンバーの多様性を強みにする
チーム内で知識をシェアする場合には、メンバーが各々違った観点から知識をシェアできると、多様な知見がチームに集まりやすくなります。理想を言えば、メンバー一人ひとりが違った得意分野を持ち、相互補完ができるようになるとよいでしょう。そのためにも、チーム編成をする際にはある分野のスペシャリストを限定して集めるよりは、多様なバックグラウンドを持ったメンバーを集めたほうが変化に柔軟に対応するという点では有利です。
どんなに高度なスキルを保有しているメンバーを集めても、チーム内で有機的な学習プロセスが回らなければ、チームは環境変化に対応できずにいずれ結果を出せなくなります。今後は「多様性を武器に学習しつづけることができる」ことが、強いチームの条件になっていくことでしょう。
イラスト:マツナガエイコ
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撮影・イラスト
松永 映子
イラストレーター、Webデザイナー。サイボウズ式ブロガーズコラム/長くはたらく、地方で(一部)挿絵担当。登山大好き。記事やコンテンツに合うイラストを提案していくスタイルが得意。