できない理由を探す簡単さ、できる方法に目を向ける難しさ──宇宙開発 HAKUTOに学ぶ
「ベストチーム・メソッド」では、きずなや協調性といった精神的なつながりではない新しいチームワークの在り方を探ります。株式会社ispaceのチーム「HAKUTO」は、Googleがスポンサーとなって開催する民間初の宇宙開発レース「Google Lunar XPRIZE」に挑戦する“日本唯一”のチームです。「ゆるいつながりを生み出すチームワーク」を代表取締役の袴田武史さんに聞きます。
「二足のわらじ」状態のメンバーがなぜ共通の目的に向かえるか?
週2日HAKUTOのプロジェクトに関わるという「二足のわらじ」状態でした。
基本的には「人が自然に集まってくる」ケースが多かったと思います。メンバーが知り合いを連れてくることもあります。
「月面にローバー(探査車)を送り込み、500m以上移動させて動画を撮影し、地球に送信できたチームに、優勝賞金として20億円が贈られる」という今回のレース。このプロジェクトを進める上で必要なのが「メンバー」です。
ある日袴田さんは、2025年の働き方を書いた『ワーク・シフト』を読み、メンバーに求める働き方を考えたそうです。それは、「3つの人的ネットワークを持つこと」。具体的には、世界規模のオンラインコミュニティ「ビッグアイデア・クラウド」、同じ志を持つ仲間「ポッセ」、精神面での安らぎを得る「自己再生のコミュニティ」です。これをヒントに、「ゆるいつながり」を持つチームを作っていきます。
はっきりした目標なきチームは前進しない
ビジネスを始める上で何もなければ誰も挑戦しようとはしません。僕たち挑戦者にとって、賞金はあくまで「ニンジン」的なものなのです。
僕たちにとって何よりもラッキーなのは、方向性がはっきりした明確で大きな目標があることです。だからこそ、全員がアメーバ的に自身の役割を見つけて、チームに貢献する形ができていると思っています。
バックグランドが違う人たちが“本業と兼務”という制約の中でどのように働いていくか──袴田さんがチームの舵取りをする上で明確にしていること、それは「手段と目的を明確化すること」「メンバーに役割をはっきりと分担すること」。制約があるからこそ、メンバーの自発性を最大限引き出せると考えています。
例えば、誰かに仕事をお願いしたいときには「こういう仕事があるんだけど、誰かできる人はいない?」というやり方でコミュニケーションを取る。そうすると、できる人が自発的に動き、その人自身が役割を認識していくのです。
「できない理由」を探す簡単さ、「できる方法」に目を向ける難しさ
この活動に対して「人生をかけて取り組んでいる」と常に伝えているので、賛同してついてきてくれるメンバーは多いのでしょう。最近では効率性を突き詰めなくてもいいかなと思うようになりました。
「できない理由」を探すことは簡単。僕たちは「できる方法」を考えながら、GLXPのプロジェクトをひとつのきっかけとして、民間の宇宙開発を進めていけたらと思っています。
細かい手段よりも、大きな目的。チーム全体が1つの「目的に突き進んでいる」という実感が湧けばわくほど、細かい手段にこだわる必要性は薄くなっていきます。むしろ、目的さえ明確になっていればあとは自然とメンバーが動いてくれるといいます。
袴田さんが大切にしていることは、さまざまな障壁ではなく「できる方法」に目を向ける姿勢をチーム全体に浸透させること。チームのリーダーとして共有したい価値観はあいまいにせず、しっかりと伝えていくことで、共感してくれる人が増えていきます。
「どうすればできるか?」を探求し続ける
宇宙開発と聞くと、どうしても「限られた優秀な人にしか成し得ない最先端の難しい研究開発」と思いがちです。しかし「実際には少人数で人工衛星を打ち上げることも可能になった現代において、民間で宇宙開発を行うことは夢ではなく現実になってきた」と袴田さんは言います。だからこそ、未知のチャレンジに挑戦するビジョンを作り、メンバーを集めることが、成功へのステップになります。
HAKUTOのチャレンジは、常に「どうすればできるか?」という可能性と方法を探し続けることです。目標が明確だからこそ、「ゆるいつながり」でもチームができあがり、メンバーにチャレンジ精神が浸透しています。HAKUTOのプロジェクトの育て方からは、チーム作りについて学べることが多いです。
前人未到の挑戦、その詳細はベストチーム・オブ・ザ・イヤーの「Googleの宇宙レースで世界初の民間月面探査に――「HAKUTO」の成功を支えたのは「宇宙好きのゆるいつながり」?
」で取り上げています。
SNSシェア