「外で遊ぼう」「人との対話が大事」なんて子どもにとって余計なお世話──実践子どもIT教育
子どもへのIT教育が関心を集める中、Webアナリストの清水誠さんの教育法は特殊といえるかもしれない。日本最大級のセキュリティコンテスト「SECCON」などに出場し、「天才ホワイトハッカー」として次代を切り開く清水さんの息子さん。その教育の秘訣を聞くと「好きなことを止めずにやらせていたら、自然とこうなった感じです」とあっけらかんだ。本当のところはどうなのか? 清水さんに聞いてみた。
後編「子どもにこそ上位機種のMacを与える、親はお古で良い」に続きます
自分も、子ども扱いされるのが嫌だった
「天才ホワイトハッカー」として世間に注目される息子さんですが、何年生まれですか?
2000年です。15歳、中学3年生です。
普段はどんな感じですか? 学校は楽しそうですか?
部活もやっているけれど、あまり学校に入り浸らずに、外にどんどん出ている感じかな。週末は都内や地方で開催されるITや情報セキュリティ系のカンファレンス、イベントに出ることが多いです。この前は福井に、今週は新潟に行っています。
さすが、普通の15歳では考えられない行動範囲の広さです(笑)。清水さんは、息子さんが誕生された時に父親としてこうしてやりたい、こんなことを伝えたいなどの子育てのビジョンをお持ちだったのですか?
あまりなかったです。導きすぎず、好きにさせるというポリシーです。自分が小さかったころ、周りの大人に「どうせ分かっていないだろう」と子ども扱いされているのをわかっていて、嫌だった記憶があって。自分は子どもを子ども扱いせずに、やりたいことをやらせようと。なので、別にIT系に育てたわけではなく、好きなことを止めずにやらせていたら、自然とこうなった感じです。
私はずっと子育て界隈で細々と物書きをしてきたのですが、近年は「スマホやデジタルガジェットを子どもに触らせていいのか、あるいは子どもの目の前で親がスマホを触っていてもいいのか」が、大きなトピックになっています。実際、親もSNSなどで多少はスマホ依存やPC依存めいて、使用時間が非常に長いわけですよね。でも、子どもが親のしていることに興味を持つのは当然の帰結でもある。清水さんは、息子さんのその興味を止めなかったということですか?
止めなかったですね。息子は幼稚園のころから親のガラケーをいじってひらがなを入力してみたり、パソコンを壊したり遊んだりしてました。幼稚園のころは「オンラインは1時間だけ」と決めて、自動的に接続を切るソフトを入れていたんですよね。でも幼稚園のころからネットゲームを始めて、どんどんゲームが進行して難しくなると、長時間取り組むことが必要になる。課金も、お手伝いのご褒美など、お小づかい代わりに許可していました。
最初は心配だったので、ネットゲームに一緒にログインして一緒について行ったり、大人のチャット相手に「実は幼稚園児なんです」とフォローしたりしてました。「えーパパさんですか」といつも驚かれました(笑)。最低限の介入で、友達として一緒に遊んでいるくらいの位置付けであって、親として上から目線で教えることはしていません。
とはいえ、実際は心配でハラハラしてました。大人とアイテムをトレードしようとして、だまされて泣いたりとか、延々と忍耐系のクエスト、ちょっとでもずれたらやり直しのゲームを半日かけてやったのに、最後にミスで落ちてしまって「時間がむだになったー」と泣いたり。
でもだまされない方法を覚えたり、忍耐系クエストは時間の無駄なのでやらないようにしたりと、自分で学んでいったんですよ。失敗から学んでいく。これはもう、制限するよりも失敗させたほうがいいなと考えて、フィルタリングソフトもやめて、時間制限も撤廃して、完全フリーにしましたね。それが幼稚園のころです。
「もっと外で遊べ」「人との直接対話が大事」とか、余計なお世話
ほんの1、2年くらいの経験をご覧になって、一切の制限をそこで取り払ったというのは、普通の親にはない判断、英断だと思うんですよね。そこで一層、「危ないし無駄だから、もう止めよう」と離してしまう選択肢もあったし、当時の風潮の中では向かい風も吹いていたでしょうし。子どもとデジタルの関係について、親としてアレルギーはありませんでしたか?
なかったです。僕はIT系ですし、僕の奥さんも、両親もパソコンを活用しているので、もう仕方ないなと。制限をかけたところで親はすごく使っているので、子どもはどうしたって真似します。それで、開き直って、IT環境に恵まれているなら、そっちに突き進めてしまえと思いました。
そこがすごい(笑)。ご親戚やご近所の方、同じ幼稚園の友だちのお父さんお母さん、先生なんかもいろんなコメントをされたと思うんですけど。
もっと外で遊べ、人との直接対話が大事だとか、余計なお世話的なコメントもありました。それは時代によって変わるものだし、ITスキルは身につけて損するものではないし、逆に武器にすれば多少の話し下手であってもカバーできる。
スキルとして確立させてしまえと。
IT系に無理に進めたわけではなく、自然とそっちに流れるのを止めずに、自由にやらせていた感じです。
もし、例えば息子さんがデジタル寄りではなくサッカーに! みたいになっていたらサッカーを、空手だったら空手をやらせていた?
そうですね。途中までサッカーはがんばってましたしねぇ。
大人の「子どもはどうせわからない」は思い込み
好きなことに取り組む子どもの姿を見て、障壁をただ撤廃してみた結果こうなったと。面白いなーとか、こうやらせてみたらどういう風に反応するかな、とかを観察していらっしゃる。
「こどもIA日記」にいろんなネタを書いています。2歳の時くらいから12年分くらい。子どもは成長が早いので、いつ頃どんなだったか、すぐ分からなくなるんです。それで、忘れないうちにメモっておこうと。
2歳でガラケーの次が、いきなりWindowsのPCですよね。一緒に触りながら教えたんですか?
いえ、教えていないのに、勝手にログインし始めたんです。どうやって覚えたのか、未だにわかんないですけど。で、ログインした後は、あちこちいじって、次第に入力も覚えだしました。子どもっていろんな石を集めたり、紙を切って分類するとか、収集が好きでしょう。それと同じ感覚で打ったら出てきた文字を図鑑のように集めたり、画像をWebからとってきて保存したりとか。デジタルでもリアルと同じことをするんだっておもしろかった。行動パターンは普遍的。
文字を書くよりも先に入力し始めたというところにびっくりしたんですけど、読めれば打てると書いていらっしゃって、そういうことなんだなって。
大人は「子どもはどうせわからない」って思ってしまいがちだけど、子どもはしゃべって伝えられないだけで、周りの話を聞いていろいろ分かっているんですよ。手では文字を書けないころからガラケーで数字を連打してひらがなを入力できるようになるって、すごいパラダイムシフトですよね。子どもってこんな風に考えていたんだっていうことがガラケーのおかげでわかるようになったんです。
息子さんがWindowsを触るようになった後は、幼稚園時代にいきなりネトゲなんですよね。私の素人思考では、初めにまずパッケージゲームを与えて、みたいに考えて、ネットデビューにはちゅうちょする。でも、清水家はいきなりネトゲ?
いきなりです。パッケージは完全スルーです。とはいえ、ポケモンだいすきクラブやディズニーのような、コミュニケーション機能のないWebゲームから始めました。でもだんだん飽きて、FLASHゲームをググったりとかして。そうしているうちに、3Dゲームの「ロボで対戦だ!」なんて書いてあるバナー広告をクリックして、オンラインゲームを知ってしまったんですよね。帰宅したら、子どもが「これやりたいからインストールして」って頼んできて、入れてあげたのが最初。年中さんの時です。
私、もうとにかくそこにびっくりしました。というのも、いきなりオンラインゲーム上にポンと乗っかるっていうのは、私みたいな一般の親の感覚からすると、次元が上がる大変化なんですよね。二元が三次元、三次元が四次元みたいな。コミュニケーションの不確実性が格段に上がるわけじゃないですか。何があるかわからない、リスク管理ができない。
最初は不安でしたよ。一緒にログインして、相手としゃべっている内容を全部チェックして、一人でやらせないようにしていました。守るというよりも、周りに迷惑かけないように気を使っていました。タイプが遅いとか、変なこと言っちゃうとか。向こうは大人と会話していると思って聞いているから、幼稚園児が変なタイミングで変なことを言ってくるので、怒っちゃうことがあるんです。そこで「すいません、実は幼稚園児なんです」って僕が後で介入するわけ。
ただ、息子はそれ以後すごくタイプが早くなったんです。タイプも教えてないんですけど、バシバシとかな入力するようになりました。大人ってローマ字で打つじゃないですか。かな入力はローマ字の半分で済むので、めっちゃ早いんです。
で、言い方もだんだんうまくなって、これならもう大丈夫だなと、一人でやらせるようになった。いろんなことがスムーズに行きましたね。何かガツンというすごい瞬間があったわけではなく、自然と一人で自走し始めた。
ただ心配するよりも、じつはすごくフォローして回っていたという清水さんの行動は忍耐強いと思います。フォローの時期があったからこそむしろ自走することが簡単になったということでしょうか。
子どもはすごいですよね。そのすごさを伝えたくてブログを書いていたようなものです。
「ゲームなんて時間の無駄だ!」プレイヤーから開発側へ
世間ではプレイヤーで終わってしまう子どもがほとんどだと思うんです。それはそもそも、親が障壁を作って守って、要らぬお節介をしているが故なのかもしれないんですが。息子さんは小4くらいの早い段階でプレイヤーからいきなり開発側の方に意識をシフトしていきましたね。
それも段階的で、小学校低学年の時に「つくろうアドベンチャー」っていう、スクリプトを書くとRPGが作れるっていうのがあって、それをやりたいと言うので一緒に始めたんです。そのあとDreamweaverでサイトを作ったりゲームの攻略wikiを更新したり、Wordで絵本を作ったりと、クリエイティブ系に一時ハマりました。
開発を始めたのはちょっと遅めです。中学受験があったので、4年生くらいから忙しくなってあまり遊べなくなったのと、iPhoneやiPadを使いだしたので、デスクトップから離れた。ただ、小学校後半、4年か5年ころからマインクラフトにハマりました。特定の組み合わせでアイテムをつなげると装置ができたり、ボタンを押すと何かが起きるとか、プログラミングっぽいフォーミュラがあって、それで多分、開発心に火がついたんだと思います。
本格的になったのは、小学校の後半のころなんですね。
それからええ。開発に一気にハマって、「ゲームなんて時間の無駄だ!」と言って一切やらなくなりました。すごい勢いでProcessingという言語をマスターして、そのノウハウをブログに書き始めました。でも、初心者向けのシンプルな言語だったので、すぐに飽きてしまって、次はJavaやRuby、PHPに手を出し始めて、Javaを1年弱でマスターしていました。そして「Javaなんてレガシーだ!」と言って、こういう構文にすると効率よくかけるとか、プログラミング言語を自作したりしていたのが、中一の時です。最新のScalaに惚れ込み、ソースコードにコミットするようにもなりました。
すごいの一言です。
(執筆:河崎環、写真:橋本直己)
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