お堅いPTAもフラットで柔軟な組織に変えられる!──委員会制を廃止し、手上げ方式を実現した父親たち
委員会制をやめ、すべての活動を「手上げ方式(完全ボランティア制)」にするなど、PTAを改革したことで知られる東京都大田区立嶺町小学校PTO。2012~2014年度まで団長を務めた山本浩資(こうすけ)さんこと「こうちゃん」と、2015年度から団長を引き継いだ玉川広志さんこと「たまちゃん」が、PTAについて語り合いました。聞き手は編集&ライター・大塚玲子(『PTAをけっこうラクにたのしくする本』著者)。前編は主に、改革に至るまでの道筋を掘り下げます。
「前例の壁」を突破すれば、次はいける
僕らがやってきたこの数年間で、組織がものすごく変わったよね。PTAって一般的に「権威」みたいな位置づけなんだけれど、それをなくして、フラットになるようにしてきました。
「PTA」というネーミングをやめて、「PTO(学校応援団)」に変えたんでしたね。
あとは「会長」が「団長」、「役員会(本部)」が「ボランティアセンター(ボラセン)」、「PTA便り」が「FUN+FAN(ファンファン)」になりました。
情報発信の仕方も、ずいぶん変えました。PTAが出すお手紙を口語体にしたり、ムービー(動画)を使ったり。
チラシもインパクトを狙ってね。これはPTOで「逃走中」のイベントをやったときのチラシですけれど、みんな黒いグラサンをかけている(笑)。
でもこのチラシ、1回目のときは、学校から許可が下りなかったんだよね(笑)。サングラスはコワイからって。2回目はOKだったんだけど。
学校とかって、なんでも「前例」重視ですよね。前例が通れば、次はけっこう通してもらえます。最初の壁を突破するところが大変。だから、僕らはここまで全部大変だった(笑)。
PTOのホームページを立ち上げるときも、説得するのに半年か1年くらいかかったね。
メルマガを送るのもそう。今は当たり前にやっていることが、最初は全部大変でしたよ。
PTAから大変さを取り除いたら、楽しいはず
僕が最初にたまちゃんと会ったのは、会長になった1年目。2012年かな。たまちゃんはそのとき校外活動委員長だったから、地域でやる子ども向けのイベントとかで、よく顔を合わせていました。
イベントのあと、みんなでよく飲みに行ったんです。2時、3時くらいまで残るのは、だいたい僕と、こうちゃんと、前任のPTA会長経験者の2人。最初、 山本さんはいつもクダを巻いてたんですよ(笑)。PTAで、うまくいかないことについて。
夏休みのお祭りの後だね。初めて「アンケートをやろう」と提案して、みんなに反対にされていた頃です(笑)。
玉川さんが「こうちゃん、来年は一緒にやるよ」と言ってくれて、先輩会長の女性が「もう、あなた1人じゃないよ」と言ってくれた。それから勇気が出てきましたね。
玉川さんは、どうしていっしょにやろうと?
PTAが確実に変わり始めているのを感じていたんです。例えば、運営委員会のやり方。当初はすごくカタイ会だったんです。司会が議事進行を務めます、みたいな。
たまちゃん、最初の頃、よく寝ていたね(笑)。
だってホントつまんないんですよ(笑)。紙で配ったことをひたすら読み上げる会だったので、「なんで、こんなのやってるんだろう?」って思うじゃないですか。
そうしたら2回目くらいから、山本さんが自分でマイクを持ってやり始めて。そういうのを見て「同じ感覚だ」と思った。やろうとしていることが一緒だったんですよ。
みんな、いろんなことをわざわざ大変にしているけれど、それを取り除いて行ったらもっと楽しいことになるはずだと、僕も思っていたから。
みんな「前年通りにやらねばならない」と思っているから、なかなか「大変」な部分をやめられないんですよね。
山本さんと飲みながらそんな話をして、「だよね!」とか言って盛り上がっているうちに、「一緒にやってもいいだろうな」と思いました。
とはいえ、「本当にできるのかな?」という気持ちもありました。「入ったはいいけれど、結局変えられなかった」となったら時間がもったいないな、と思ってしまい。それで一度山本さんに時間をとってもらって、近所の喫茶店で話をしたんだよね。
コーヒーだけで3時間(笑)。
お父さんの青春か……。
それで「こういうことができるね、こういうことやりたいんだけど」っていろいろ話したら、「全部、たまちゃんの思うようにできるよ」と言われて。「それなら、やる」と言いました。
言葉だけより効果的、笑顔いっぱいのムービーが心を動かす
それからすぐ「具体的に何をしよう」という話を始めたんです。「まずは最初が肝心だから、臨時総会でメッセージムービーを流そう」と言ったら山本さんが共感してくれて、一緒に作ったんだよね。
そうそう。一番最初のムービーは、酒も飲まずに夜中のガストで作りました(笑)。今までの活動を、写真のスライドショーで「こんなことやってます」というふうに、音楽にのせて見せるものなんですけれど。
その時に初めて、「そうだ、学校に行こう。子どもたちに笑顔を、大人たちに感動を」という、いまも使っているPTOのキャッチフレーズを入れたんです。その発想も、すごく斬新だった。
完成したムービーは、僕が2年目(2013年)の4月の総会で流しました。あのときはまだ委員会があって、総会の後に委員長を決めることになっていたから、委員さんがみんな集まっていたんです。
動画は、とにかく楽しい雰囲気にしたんですね。シャレをきかせて。「PTAでは、こんなに楽しいことができるよ」というメッセージを伝えたかった。
そのムービーを流したら、みんなの表情が変わったんです。そのあと委員長を決めるのも早くて、くじ引きにまでならなかった記憶があります。だからやっぱり、雰囲気づくりみたいなことってすごく大事だなと思いました。
重要ですね、PTAはとにかくイメージが悪すぎるので。
今はそれを入学式でやるんです。式が終わったあと、以前は口頭でPTAの説明をしていたんですけれど、代わりに大画面でムービーを流して、PTOがどういうものかということを見せている。
そうすると「それを見て心が動いたから、PTOに参加してみようと思った」という人が、ボラセンに入ってきたりして。やっぱり言葉よりも、映像はすごく効果的ですよね。
よく、入学式の後、体育館に保護者がそのまま残されて、「委員が決まらないとお子さんの教室に行けませんよ」と言われる学校がありますよね(苦笑)。そういうやり方よりも、「PTAでは、こんなことができる」というのを、スライドショーと音楽で伝えるほうがいいです。
そのムービーには、子どもたちの笑顔がいっぱい出てくるわけですよ。そうすると何というか、みんな感覚的に落ちるんですよね。「あぁ、こういうものか」と伝わる。
「やらされる場」ではなく「やりたいことを実現できる場」
僕が1年目に一番苦労したのは、コミニュケーションの取り方だったんです。PTA活動を長く経験しているお母さんたちの中に飛び込んで「これは何なんですか? おかしくないですか?」とただ言っても、話が進まなかったので。
だから翌年、僕が入ったときは、スタートの段階でチームビルディングをやることに、すごくこだわっていたんですよね。ビジョンに共感してもらうこととか。
それで最初にやったのが「ポストイットセッション」です。2013年の3月、次年度の役員が初回顔合わせをしたときに、「PTA活動の中でこんなことをしてみたい、あんなことをしてみたい」という夢をポストイットに書きだしてもらったんです。それについて、玉川さんが司会をやりながら、みんなでいろいろ話したんですよね。
そうすると「この人はこういう人なんだ」とか「この人はこれが得意なんだ」といったことが、短時間でよくわかってくる。
あとは当時、PTAって「委員会が、毎年決まっていることをただやる」場だったんです。でも本当はPTAって「子どもたちに対して何かやりたいという思いを実現できる場」じゃないですか。そういう場として認識してもらうために、みんなで夢を出したというのもあります。「やらされる場」ではなくなるように。
「手上げ方式」での“6割”参加をどう捉えるか?
僕たちは、委員会の代わりに全部「手上げ方式」にするという改革をしてきたんですが、よく言われたのは、「本当にそれで人が集まるのか?」ということと、「もし集まったとしても、やる人が同じ人になるんじゃないか?」ということでした。
でも実際、何とか回ってきました。ラクラク集まらず、ギリギリまで苦労したものも、なかにはありますけれど。
先日(12月)また、PTO活動に関するアンケートを取ったんですよ。そうしたら、そのうち「約6割」が、PTO関係の何らかの活動に参加している、と答えたんです(回収率81%)。
うちのホームページを見てもらうと、結果も載っています。
この「6割」という数字をどう捉えるか、ということなんですけれど。僕としては「6割も参加してくれた」という感覚なんですね。半分以上の人が参加しているので、同じ人ばかりとは言えないですよね。
でも、ボラセンのみんなのなかでは、「残りが4割もいる」という方向に、なんとなくいったわけです。
ふ~ん。それは、「4割もやらない人がいるのは、ズルい」ということですか?
というよりも、「残りの4割に対して、参加するきっかけを奪っているんじゃないか」という考えです。今までの委員会制なら、ある意味背中を強制的に押して参加していたところ、その機会を奪ってしまったため、参加しづらくなった人がいるんじゃないか、という見方です。
そこから「1人1ボランティアがいいんじゃないか」という話も出てきました。今のボラセンの悩みは、やっぱり活動内容によっては人が集まらないというところなんですが、「1人1ボランティア」の形にすれば、人がゆうゆう集まって、悩みが解消されるよね、ということで。
「人が集まらない活動はやめる」という選択肢がないのであれば、そうなりますね……。
だけど、それってボランティアの意図とは全く変わってきちゃうんですよね。ボランティアって「主体性」が一番の要件なので。だからやっぱり「1人1ボランティア」はやめよう、という方向になったんですけれど。
ネガティブな声に引きずられすぎないコツ
僕の受け止め方はまた違っていて。この6割には、いやいや参加している人がいないんですよ。自ら参加したいと思って参加した人が6割いる、これはすごいこと。
一般にPTAは、いやいややるのが定番ですからね……。それを思うと、すごい数です。
でもなぜかみんな、ネガティブな意見に引っ張られやすいんですね。「参加する機会を奪っている」というけれど、冷静に考えると、機会は用意しているんですよ。みんなにちゃんとお知らせもして、「参加する・しないの判断を委ねた」というだけなので。
強制を止めただけですよね(笑)。
それにね、委員会制をやめたことについては、圧倒的に感謝の声のほうが多いんですよ。だけど、日本人だからなのかわからないけれど、どうしてもそのネガティブな声のほうを、みんな見ちゃう。だからそこは、良い意味で鈍感になっていかないといけないところもあるよね(笑)。
わかります……。わたしも取材でさんざんそういう話を聞いてきたのに、いざ自分がPTAでその立場になると、やっぱり一部の批判的な声ばかり気になってしまって(笑)。これは、どう乗り越えたらいいんですかね?
やっぱり、「ポジティブな仲間と一緒にいる」ということがすごく大事ですよ。同じ考え方に賛同して、一緒に活動してくれている仲間の存在は支えだよね。
アンケートをとると、必ず一定の割合でネガティブな声もあるわけじゃないですか。なかには結構きつい意見もあるけれど、冗談を言いながらみんなで読むんだよね。それを、1人で自分のことのように読んだらものすごく辛い(笑)。
ネガティブな意見も、それはそれとして受け止めつつ、「でも自分たちは、こういうことをやりたいんだよね」というふうに、みんなで話をもっていくんです。それをしないで、ただそのまま受け止めちゃダメ(笑)。
ボラセンに入るとどうしても、いろんな立場の人の声が聞こえてくるんですよ。保護者のなかの賛成の声、反対の声、学校側の声、地域の声。だから視野が非常に広くなるんですけれど、そこには当然ネガティブな声も含まれている。そこをどう咀嚼していくか、いうのがポイントですよね。
後編に続く
文:大塚玲子 / 撮影:内田昭人 / 編集:渡辺清美
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執筆
大塚 玲子
いろんな形の家族や、PTAなど学校周りを主なテーマとして活動。 著書は『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』(太郎次郎社エディタス)。ほか。