憲法の重要性を教える中学校のPTAが違憲状態なのはおかしくないか──正面突破のコデラ式改革
老舗コラム「コデラ総研」でおなじみ、テクニカルライター&コラムニストの小寺信良さん。これまでもコデラ総研で、PTAや子ども会での経験を綴っておいでです。シングルパパでもある小寺さんは、なぜPTAや子ども会に飛び込み、どんなふうに改善に取り組んできたのか? PTAジャーナリストの大塚玲子が、お話を聞かせてもらいました。
広報誌のカラー化で値段が3倍? 編集者にDTPを頼み、同予算で実現
小寺さんは、おととしPTAの広報委員長だったそうですね。どんなことをされていたんですか?
僕が入ったとき、広報紙はモノクロ印刷だったんです。それを「カラーにしたいね」という話が前から出ていたので、見積もりをとってみたら、それまでの3倍近い金額が出たんですよ。1色が4色になるだけで、その金額はないですよね。
たしかに3倍というのは解せませんね……。
調べてみたところ、印刷だけなら、ネットの業者を使うと2万~3万円で済むんですね。そこで、これまで業者に一括で頼んでいたDTP(文字や図版を組む作業)を別に頼めば、これまでと同じ金額でカラー化できるんじゃないかな、と思いついたんです。
いま、ネットのプリント業者はかなり安いところが多いですからね。
では「DTPを誰がやるのか?」ということなんですが、たまたまDTPをできるフリーの編集さんが近所にいるのを思い出してお願いしてみたら、快諾してもらえたんです。それからは、広報委員が作った原稿や撮った写真を彼に送り、彼がDTPをやって、ネットのプリント業者に入稿して、完成した広報紙が学校に届く、というワークフローができました。
それはよかったですね。たまたま委員さんのなかにDTPをできる人がいたからやってもらったものの、「その人がいなくなってから、誰もできなくてもとに戻った」という話はときどき聞きます。でも外部の業者ならずっと続けてもらえますものね。
翌年(昨年度)も今年も、同じ形で続いていますよ。 ちなみに、うちの隣の小学校では、DTPなど印刷物の作成ができる保護者が集まって「広報部」を作り、広報紙を発行しているそうです。卒業しても、みなさんずっとやっているんですって。
予算を変えずにカラー化、年度末に評価が180°変わった!
カラー化にあたって、つまずいたことはなかったですか?
最初、本部ではモメたらしいです。「これまで長く付き合っていた業者さんを切って大丈夫なの?」とか、「そのやり方でこれからも本当に続くの?」とか。 予算もすでに決まっているので、「来年度からスタートしたほうがいい」という話もあったそうなんですけれど、じゃあ「来年、誰がカラー化をやるんだよ?」という話です。ぼくが来年も広報委員長をやるとは限らないですからね。
「そのためにもう1年やってくれ」と言われても、できない可能性もあるし、困りますよね。
結局、PTA会長さんと広報担当の本部役員さんがすごくがんばってくれたので、なんとか実現できましたけれど、反対はすごく残りました。 でも結果的には、予算を変えずにカラー化できたし、しかも市の広報コンクールで入賞したので、年度が終わるころには180度評価が変わって、えらくほめられました(笑)。
「結果オーライ」とは、このことですね!
スマホを何年生から持たせたか? 保護者に聞いてみたいことを広報誌に
広報紙の内容もおもしろいですね。「携帯やスマートフォンを何年生から持たせたか」とか「持たせた理由・持たせない理由」「PCやゲーム機をネットにつないでいるか」とか、わたしも周りの保護者に聞いてみたいことばかりです。
全家庭にアンケートをとって調べたんですよ。それまで広報紙って、「PTA活動の草むしりの様子」みたいな内容だったので、こういうのは初の試みでした。 次のページは、「子どもたちがみんなどこで遊んでいるか」ということを調べてまとめた記事です。この地域は公園がすごく少ないので、みんなどうしているのか知りたいね、という声があったので。
それはまさに、PTAの広報紙にピッタリな内容ですね。
「校庭は何時から何時まで使えますよ」とか、「身体を動かしたければ、こういう団体が、どこでいつ活動していますよ」みたいな情報も載せて。そういうのを書いたお手紙って、学校からバラバラに配られるから、入ろうと思ったときには紙をなくしているんですよ(笑)。それを、いっぺんにまとめて載せました。
比較検討もできるし、実用的ですね。これは、みんなに喜ばれたのでは?
そうですね、評判はすごくよかったです。
「説明不足」を徹底的になくし、子ども会役員の9割が立候補に
子ども会の活動もされていたそうですね?
ええ、おととしは広報委員長をやって、去年は子ども会の会長をやりました。うちの子ども会は、会員(児童)が240人くらいいる大所帯なんです。 子ども会って「何のためにあるのか、よくわからない」「PTAと何が違うの?」とよく言われるんですけれど、うちの辺りでは、子ども会は見守りとか登校班とか、学校の外のことをやるんです。PTAは学校の中のことをやる。PTAで見守りをやるケースも多いですが、うちの辺りはそういう区分けです。
子ども会もよく「役員が決まらなくて大変」という声が多いですけれど、どうでしたか?
前の年まではそうでした。だからいつも、いやいや抽選で当たっちゃった人たちが、わけも分からないまま、自治体の人に怒られながら1年間やる修行の場、みたいになっていた(笑)。 でも僕が会長をやって次年度の役員を募集するときは、「何のためにある組織なのか」「各役職の仕事内容」「どんな人に向いているか」ということを最初にきちんと説明したので、役員10人のうち9人が立候補で決まりました。これも前代未聞です。
それはスゴイです! 子ども会もPTAと同様に、説明不足を補うだけで、ずいぶん改善されるんですね。具体的には、どんな情報を出したんですか?
「書記は何をするので、この時期はいそがしいです、誰かひとりはパソコンが使えたほうがいいですよ」とか、「副会長は通学班を担当します、やるんだったら毎日メールで連絡を取れる方がいいですよ」とか、そういうことですね。
会則に同意して入るのがスジではないのか
子ども会や中学のPTAで「入会申込書」をとるようにしたそうですね。とてもまっとうなことだと思うんですが、どうして、それをやろうと思ったんですか?
PTAや子ども会って、強制なの? という問題があるんですよ。「くじ引きやジャンケンで当たったら、必ず役員をしなきゃいけない」みたいなのって、やっぱりおかしいですよね。任意加入団体なのに、強制力があるなんて。 僕は「インターネットユーザー協会」という一般社団法人を立ち上げた経験があるんですが、その経験からすると、やはり入会に同意がないのは、おかしい。 会則がきちんとある割には、それに同意をするチャンスがないというのも、変な話です。会則を見て「これなら趣旨に賛同して入ります、活動します」というのが、スジじゃないですか。
あ、そうですね。賛同不要の会則って、改めて考えるとコワイです。
憲法第21条「結社の自由」にも反しますからね。「結社の自由」というのは、結社する自由もあれば、望まない団体に強制的に加入させられない自由もあるので、それに反しているわけですよ。これはやはりスジ論として、ちゃんと入会をしていただく必要があるだろうと。
学校の名簿を子ども会やPTAに流用している点も、個人情報保護法上アウトですしね。
幸い、うちの小学校のPTAではだいぶ前から入会同意書をとっていたんですね。だから、子ども会でもとろうと思ったんですが、僕が会長になった年は間に合わなかった。それで今年度、次の代の人たちに、僕らが「今年は入会同意書を取りたいんです」ということでお願いして、フォーマットも全部作って、配る段取りも付けてあげて、それで配ったんです。
役員の任期が1年だと、それまでのやり方を変えるのがとても難しいんですけれど、そんなふうに次年度の人と連携して、お膳立てもしてあげられるといいですね。
そうしないと、役員になったばかりの人は何も分からないから、変えられませんよね。
中学PTAでも「入会同意書」配布、一般会員の発言でも変えられる
今年の春は、中学校のPTAでも、「入会同意書」の配布にこぎつけたそうですね。一体どうやって?
3月の入学説明会の時に手を挙げて、「入会同意書を取らないのは、おかしいんじゃないか」という話をしたんです。そのときは、「今年は無理です」と言われて断られたんですけれど、4月の入学式のときに「やっぱり配ることになりました」という話があり、僕も驚きました。
見事な正面突破ですね! 一般会員の発言で、よくぞ変えられたなと思うんですけれど。
入学説明会のあと、会長さんと2人で話をして、「〇〇小PTAでも同意書をとっているし、△△子ども会も今年から同意書を取るようになったんです。この地域の任意加入団体で入会同意書がないのは、この中学のPTAだけですよ」というふうに話をしたんです。
外堀から埋めていったと(笑)。
そうです、その時は明確なご返答はいただけなかったんですが。会長は裏でいろいろ苦労されたんじゃないかな。 市のPTAの集まりでも「入会同意書を整備しないとマズイ」という話は、前々から出ていたんですって。具体的にどういう同意書をつくるか、という話までは至っていなかったようですけれど。
「きっかけがあれば整備しよう」くらいの段階だったんですね。
暗黙の了解で続いてきたやり方を変える。記録が残る形で発言しないとダメ
入学説明会で発言されたとき、いかがでしたか? 大勢の保護者のなか、違憲とはいえ、これまで暗黙の了解で続いてきたやり方をひっくり返す発言をするというのは、なかなか勇気がいることと思いますが。
中学の入学説明会は、小学校と違って大半が知らない保護者でしたから、やっぱり手足が震えましたよね(笑)。だけどやっぱり今ここで聞かないと、らちが明かないと思って。
そうなんですよ! 大勢がいる場で話さないと、発言自体なかったことになりがちです。
「こういう要望があって、断るならなぜ断ったのか」ということがきちんと記録に残らなければ、話が先に進まないですからね。入学説明会は総会と違って議事録は残りませんけれど、少なくとも校長先生はその場にいたので、ここで行くっきゃねえ、と。
そのとき、ほかの保護者の反応は……?
水を打ったように、静かになりました(笑)。それまでガヤガヤしていたのに。「何を言っているの?」「そんな話は聞いたことがない」みたいな。 でも、会長からお断りをされた後に、僕はもう一回マイクをもらって、「中学校では憲法の重要性も教えるのに、その学校にあるPTAが違憲状態というのは、おかしくないですか? この先々問題になると思うので、前向きにご検討お願いします」と言って、質問を終わりました。
誰かが勇気を出して正論を言うことも重要ですね。お疲れさまでした。私もじつはこの春、卒業した小学校のPTA総会で入会申込書を配布するよう要望したんですが、「検討します」でおしまいでした……。
PTAはメリットしかなかった、男性は「長」をやってみるといい
わたしもひとり親なんですが、小寺さんもそうですよね。シングルファザーにとってのPTAは、いかがですか?
僕にとっては、メリットしかないです。子どものことに関して、お母さん方の知恵や力を拝借できるというメリットは、やっぱり大きいですよ。うちは女の子なので、たとえば「ブラジャーってどうやって買うんだ」とか、「生理用品はどれを買って、どうやって処理すりゃいいんだ」とか、そういう話も相談できる。 あとは僕が仕事で夜遅くなるときには「うちで子どもを預かってもいいよ」と言ってくださるお母さんが2、3人出てきたりとか。実際にお願いしたことはないんですけれど。 デメリットって、僕はないですね。集まりは平日日中ですけれど、僕は自営なので問題ないですし。
お母さんたちのなかに入っていくのは、得意なほうですか?
僕は大丈夫ですが、苦手な人もいるでしょうね。PTAはグループワークが多いので、男性だとそのなかにうまく入れない、ということはあります。だから僕は、男性は「長」をやったほうがいいと思うんですよ。委員長とか会長とかのポジションなら問題ないので。 それに、意外と「長」のほうが楽なんですよね、スケジュールとか、いろんなことを自分で決められるので。
みんなそれは言いますね。だからわたしは母親にも「長」をおすすめしています(笑)。
あと、これまでのやり方を変えるようなことって、男性じゃないとできないと思います。女性がそれをやろうとすると、やっぱり「なに、あの女?」ってなるんでしょう。
女性もできますよ。ただPTAは女社会だから、男性のほうが言いやすいというのはあるでしょうね。公務員の世界に民間出身のリーダーが入るのと同じで、うまくいくこともあれば、いかないこともあります(笑)。
おっさんだと、ママ友の中に入れなくても別に構わないので、ガンガン言えるわけじゃないですか。
なるほどです(笑)。
文:大塚 玲子/写真:尾木 司
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