こねこフィルムは「おもしろい」だけじゃない。「働く女性」を取り巻く無意識の偏見をサイボウズと描いた3つのストーリー

「飲み会に女性がいると華やかになるね」
「育児で忙しいだろうから、このプロジェクトは別の人にお願いすることになったよ」
悪意があるわけではないけど、「え?」と戸惑ってしまう何気ないやりとり。サイボウズはそんな「言葉にしづらい違和感」や「無意識の偏見」に向き合うため、ショートドラマを制作しました。
タイアップしたのは、日常にひそむ違和感をユーモアとリアリティで描く「こねこフィルム」。SNSでも人気を集める独特な世界観にサイボウズの問題意識を重ね、今回の企画を形にしました。動画を観た方のなかには、「あるある!」と共感する方もいれば「それって気にしすぎじゃない?」と感じる方もいるかもしれません。でも私たちは、その「受け取り方の違い」こそが、対話のきっかけになると信じています。
今回の記事では、サイボウズがなぜショートドラマという手法を選び、どんな想いを込めて制作したのか。こねこフィルムの三野龍一監督、そして社内の企画メンバーへのインタビューを通して、その舞台裏をお届けします。
働く女性を取り巻く「なんとなくの違和感」を、ショートドラマで問いかけた理由

今日は、撮影の裏側や企画の背景についてお聞きしたいと思います。はじめに「こねこフィルム」について、簡単にご紹介いただけますか?


三野 龍一(みの りゅういち)。1988年・香川県三豊市出身。京都芸術大学(旧京都造形芸術大学)映画学科を卒業後、助監督として映画制作の現場で経験を積む。実弟である三野和比古さんを誘い、映画制作チーム「MINO Bros.(みのブラザーズ)」結成。初の長編監督作品「老人ファーム」は「カナザワ映画祭2018」にて観客賞を受賞。続く「鬼が笑う(2022年)」、「近江商人、走る!(2023年)」も国内外で高い評価を受けた。2023年6月には、映画やドラマの現場で経験を積んだクリエイターたちが集まったチーム「こねこフィルム」を設立。


自分としては数字より大事なものがあるだろ! と思うのですが、でも数字は避けて通れない。それなら作品を通じて、演技力の高い俳優さんのファンになってもらう。そうして知名度が上がれば誰も文句を言わないだろう、という作戦です。


でもビジネスシーンでは、男女間の賃金格差など、多様な個性が十分に重視されていないと感じる現状がありますよね。職場にいまだ残る男女格差や無意識の偏見によって、女性が 「どうして?」 と感じながら働かざるを得ない現状を変えたいと考えた時に、働く女性本人や周囲の人々の視点に立つコンテンツを発信したいなと思いました。


サイボウズの企業理念は存在意義(Purpose)と、存在意義の基盤となる5つの文化(Culture)で構成されています。参考:サイボウズ公式サイト


今回の取り組みは、サイボウズでもあまり前例がないものです。「サイボウズって、こんな一面もあるんだ」と驚いてもらえるような、新しいチャレンジをしたい思いもありました。どのような反響があるのかを見ながら、今後の表現の幅を広げていく実験的な意味合いも込められています。

神保 麻希(じんぼ・まき)。サイボウズ株式会社 マーケティング本部所属。2023年より、サイボウズ式の編集長に就任。マーケティング本部にてサイボウズのブランディング、メディアコンテンツの制作を担当。

さらに、「そうだよね」と共感してくださる方だけでなく「これのどこがいけないの?」と感じる方にも見ていただきたくて。さまざまな感想を持ってもらうという点では、こねこフィルムさんの議論を起こす作風や、心の機微を描く俳優さんの演技力などがマッチすると考えました。
「正しい」だけでは届かないし「おもしろい」だけでは薄っぺらい


僕たちの主戦場であるSNSは誰でも無料で見られる場だからこそ、本当に素晴らしいと思える作品を出したいんです。たとえ賛否が分かれる作品でも出す。その自由さがいい。こちらとしてもすごくチャレンジングだったけど、取り組んでいて面白かったです。

ショートドラマの内容を入念に話し合う三野監督とサイボウズ社員


単に「おもしろい」とか「バズる」だけではダメで、サイボウズの理念が反映されていて、説明可能な作品であることが大事。でもその「説明可能」な側面が強く出すぎると、今度は作品として理屈っぽくて面白くなくなるというジレンマもありました。そこは本当にトレードオフでしたね。

高橋団(たかはし・だん)。サイボウズ式副編集長。2019年新卒入社。大学では学生記者をしながら、スポーツとチームワークに関心を持つ。複業ではフォトグラファーとして活動。今回のショートドラマ企画の発案者。


そうなると「これは問題だ」と理屈で理解してもらうのではなく、まずは何かしら心を動かす瞬間をつくる必要があるなと思いました。三野監督がおっしゃっていたように、「なんか腹立つ」「ちょっと引っかかる」といった感情の動きがないと、そもそも立ち止まって考えるきっかけにもならない。その「ちょうどいい引っかかり」をサイボウズだけで見つけるのは難しかったので、こねこフィルムさんにご一緒いただけて本当によかったです。
正解のないテーマだからこそ、みんなで話して一緒に作る


でも、こねこフィルムとしては「クライアントと一緒に作品を作る」という姿勢を大事にしています。一緒に悩んで、一緒に面白がってつくっていく。そうすると、結果的にいいものができると思うんです。
今回もサイボウズさんには、そういう「一緒に作る」プロセスを楽しんでもらいたいという思いがありました。もちろん、これはこねこフィルムとしてある程度結果が出ている今だから言えることかもしれませんが、それが、自分たちのスタイルであり、こだわりでもあります。

サイボウズからのコメントに耳を傾ける俳優の皆さま






そういう意味でも、単に作品を「依頼する/作る」という関係ではなく、一緒に作り上げていくパートナーとしてご一緒できたのがありがたかったです。
「わかりやすい正解」や「笑い」に逃げず、難しいテーマと向き合った


「最強の女」シリーズは、こねこフィルムの作品の中でも人気作品。

サイボウズさんが言いたいのは、「女性のほうが正しい」と押しつけることではなくて、「あなたはどう思う?」という問いを投げかけることですよね。実際、1話の中にもそういうセリフを入れていて、見た人が自分の中にある偏りに気づくきっかけになればと思っていました。なので今回は「最強の女」シリーズに組み込むよりも、単体として成立させようと判断しました。

第1話には、社長役・赤間麻里子さんの「自分の頭で考えよう!」というセリフがある。



正直、そういうテーマを扱うのは大変なんですけど、だからこそ、そこに目を向けてちゃんと考えている姿勢を伝えることに意味があると思いました。

今回の作品は「笑いに逃げない」と決めました。僕たちは普段コメディタッチで表現することが多いんですけど、今回は、あえてふざけすぎない。ちゃんと違和感に向き合って作品を作りました。再生数を狙いにいくより、中身にどれだけこだわれるかを優先したというか。僕たちとしても結構大変だったのですがなんとか形にできたのは、サイボウズさんと一緒だったからだと思います。

俳優さんと真剣に対話する三野監督。
本当の理想は「誰もが自分らしく働ける」社会


でも今回はあくまで「働く女性」が感じる違和感や障壁に焦点を当てる企画だったので、男性側の偏見を入れすぎるとテーマがぼやけてしまうなと、バランスにはかなり気をつけました。第3話に登場する大迫さんのキャラクターは「気をつかってるつもりだけど全然できてない」という昭和感がありちょうどよい塩梅で表現してくれていたと思います。

たとえば一見悩みが無さそうな人だって、背景にはその人なりの苦労があるはずで。今回の作品制作を通じて、性別や年齢に限らず誰にでもドラマがあるんだと実感しました。だからこそ、どんな立場の人にも想像を巡らせたり、対話を重ねたりできる社会に近づけたらいいなと。今回の動画を見た人にとって、他人の視点から物事を考えてみるきっかけになれば嬉しいです。
自分の気づきが、誰かを思いやる第一歩になる


他人や社会をすぐに変えることは難しいけれど、自分の選択や行動は変えられる。今いる場所が合わないなら、自分にとってより良い場所を選ぶというアクションだってできる。見た人が「自分を変える勇気」を持ってくれたら嬉しいなと思います。

吉岡さん(画像左)は第1話にて「飲み会に女性が同席すると華やかになる」と言われ、モヤっと感じるも何も言えずに終わってしまう。

誰かが偏見にさらされながら生きていると知るだけで自分の言動が少し変わるきっかけになる。相手のことを想像する余地が増えれば、きっと世の中がもっと良くなるはずです。

そういう現実があることも忘れずにいたいし、そういう環境で働く人たちにもこの動画が届いて「なんか分かる」「自分のことかもしれない」って思ってもらえたらうれしいです。

でも話してみたら、意外と共感してくれて、受け入れてもらえたんですよ。これはすごく大事な体験でした。この動画をきっかけに「これってどう思う?」と誰かと話してみてもらえたらうれしいです。



企画・編集:サイボウズ式編集部 執筆:曽我 智恵里
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執筆

曽我 智恵里
1994年生まれ・新潟県在住。Web広告代理店にてマーケティング・広報を経験したのち、サイボウズへ入社。「チームワーク」の価値が伝わるコンテンツづくりに取り組んでいます。趣味はサッカー観戦・サウナ。
撮影・イラスト

高橋団
2019年に新卒でサイボウズに入社。サイボウズ式初の新人編集部員。神奈川出身。大学では学生記者として活動。スポーツとチームワークに興味があります。複業でスポーツを中心に写真を撮っています。