あのチームのコラボ術
どのようにしてLINEは生まれたのか――世界規模で広がる日本発アプリを生み出したチーム
「あの企業はどんなツールを使って、アイデアをカタチにするチームを作っているんだろう」 NHN Japan株式会社の無料通話・無料スマートフォンアプリ「LINE」はこの10月に7000万ユーザーを突破し、破竹の勢いが止まりません。前回の記事では、チームでの情報共有の仕方やコツを聞きました。
今回はサイボウズが協賛する「ベストチーム・オブ・ザ・イヤー」にLINE開発チームが選ばれたことを機に、LINEのチームワークをもう少し掘り下げて伺いました。 インタビューに答えてくれたのは、Webサービス本部の稲垣あゆみさんと金子智美さん。「メンバーは戦友」と語る2人に聞くLINE開発の背景とは?
最初は、写真共有サービスを考えていた
取材は2度目になりますが、今回は違った視点から伺いたいと思います。 まずはLINEを開発したきっかけを教えてください。
椋田
プロジェクトがスタートしたのは2010年の年末でした。当時は「NAVER JAPAN」という検索サービスが中心の会社でした。 もっと主力になる新しいソーシャルなサービスを作ろうと、3人で新規事業開発のプロジェクトチームを立ち上げたのが、LINEの始まりです。キーワードは「アプリケーション」と「リアルでクローズドなもの」。どんなサービスにするかと検討していく中で、メッセージングと写真共有サービスの2つが候補に残り、2011年の2月までブラッシュアップを続けていました。具体的な画面設計やデザインに着手したころに、東日本大震災が起きました。そのときは、写真共有のアプリを先にリリースするつもりで開発を進めていたのですが、地震でメッセージングのアプリが日本で求められていると判断し、メッセージングアプリの開発を4月末から本格始動しました。
最初は写真共有のサービスが立ち上がる予定だったんですね。そこからリリースまでの過程は?
椋田
リリースしたのは2011年の6月23日です。4月末に開発スタートだったので、すごいスピードで開発しました。まずはリリースを優先し、今のLINEと違って文字が送れるだけのシンプルなものにしました。なんとかリリースにこぎつけたという感じです。
LINEができた当初はつらかった
リリースから半年で1000万ダウンロードを達成されていますが、そこまでの道のりはいかがでしたか?
椋田
メッセージングサービスは、自分と自分の周りの人たちが使っていないとおもしろくないサービスです。リリースした当初は、文字を送れるだけのシンプルなサービスでしたので、「何を売りにすればいいのか!?」とマーケティングチームも困っていました。サービスとして生き残るために、LINEの特徴を早く作り出さなければいけませんでした。このときがチーム全体にとって1番つらい時期でしたね。「メッセージングだったらLINE」という雰囲気をどれだけ早く作り出せるかが勝負でした。
最初から爆発的に大成功したように言われるんですけど、全然そんなことはなくて……。小さい機能改善を繰り返し、いろんなプロモーションを試行錯誤してきました。始めは失敗もありましたね。
製品販売から4か月後の10月に、無料通話とスタンプの機能を追加しました。現在の状況は「必死に製品を開発していたら、これだけたくさんの方から支持していただけるサービスになった」という結果でしかなくて。最初からこうなるとわかっていたわけではありませんでした。
メンバーとの密なコミュニケーションがスピード対応の秘訣
機能改善の要望など、ユーザーの声はどのように集めているのですか?
椋田
毎日、広報でソーシャルメディア上の声を拾って全社向けにレポートしています。お問い合わせがある中で多いものや深刻なものを優先的に対応しています。
メンバーがそれぞれにアプリストアのレビューを見ていて、問題を発見したらすぐに対応しています。
こちらからアンケートを取らなくても、ユーザーさんから感想を教えてくれるのは、とてもありがたい環境ですね。ソーシャルメディア上の声が大事だという社内全員の共通認識があるので、休みの日でも偶然バグを見つけたらすぐに連絡してくれたりします。
その連絡はLINEでですか?
椋田
そうです。LINEでグループを作って、みんなで話しながら連絡や確認をしています。リリース前のテスト環境からずっとLINEで話し続けているので、休みがないんですよね。でも、LINEの開発にスピードがあるのはLINEのおかげだなと思います。
迅速な対応にはLINEが欠かせなくなっているんですね。LINE以外の秘訣はありますか
椋田
マネージャー層の意思決定がとにかく速いです。現場と同じかそれ以上の知識があるので、現場判断とのかい離がほとんどありません。スピーディに意思決定できる環境も大きいと思います。
普通、逆ですよね。意思決定がマネージャーで止まることが多いと思うんですけど、逆に上からどんどん指示があるから、追いつかなきゃって。
ソーシャルメディアへの対応や、会社としての迅速な意思決定に対応していると、現場がフレキシビリティの塊になってきます。臨機応変に対応していくスキルが必要になりますね。そして、LINEでずっと話しながら開発を進めていくので、チームメンバーはもう戦友みたいな感じになります(笑)
スタンプ開発秘話
LINEと言えばスタンプですよね。ここまで人気が出ると思われていましたか?
椋田
正直、スタンプが1つのビジネスモデルとしてこんなにうまくいくとは思っていなかったです。開発時もデザインの試作を見た時も、本当にこれでいいのかなって、あまり自信がありませんでした。でも、10~20代の方を集めてユーザーリサーチをしたときに、ほかの人はいまいち反応が良くなかったのに、女子高生だけにはすごくウケていたんです。テスト環境で実際に使ってみると意外とおもしろかった。そこから自分たちが作っていても楽しくなってきたので、もしかしたらヒットするかもしれないという期待は出てきました。ただ、同時期に追加した無料通話機能で開発がいっぱいいっぱいだったこともありましたし、CMも無料通話を全面に出していたので、スタンプがここまで爆発的に人気が出るとは思っておらず、想像を超えました。
オリジナルのキャラクターがどんどん人気になってきて、ソーシャルメディア上でも「ムーンのOLバージョンが欲しい」といった声が挙がるようになりました。今はユーザーさんの声を元に、どんどん新しいキャラクターが増えています。
コニーとブラウンのラブラブなデザインも、ユーザーさんの声からですね。Twitterで「LINEを使ってよかったことを教えてください」というキャンペーンをしたときに、「うちの旦那がブラウンにそっくりなんです!」「うちの彼氏がブラウンなんです!」「わたしがコニーで、いつも送り合っています!」と教えてくれたカップルが、日本でも世界でもすごく多かったんです。 無口なブラウンと表情豊かなコニーの組み合わせがぴったりなんでしょうね。
1億ユーザーを目指して
目標設定はどのようにされていますか?
椋田
今年の年末までに、世界で1億ユーザーを目指そうというのを掲げていて、社内にポスターを貼っています。5000万ユーザーを達成したときに「祝5000万ユーザー! 目指せ1億!」っていう(笑) 。もともと会社の進め方として、あんまり先の目標は立てないんですよ。先の目標を立てても1年後にどうなっているかわからないし、それよりも目の前の状況に合わせて最善を尽くすことをずっと続けていくスタイルなので。「3ヶ月以上先は未来だ」って、よく言っていますね。
今後の展開は?
椋田
サービスが世の中に出ることをファーストステップ、ユーザーが増え、サービスが定着化した段階をセカンドステップととらえました。現在は、LINEのプラットフォームを生かしながら、何がLINEのユーザーと一番親和性が高いかを見るために、いろんな機能を追加している段階のサードステップに入ったと認識しています。現在はユーザーがすごく増えている時期なので、安定性や質の向上をとても大事にしています。これからも、みなさんに使っていただくプラットフォームとしての信頼性を高める努力を続けていきます。
写真撮影 :橋本 直己
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