あのチームのコラボ術
メルカリのぶれない採用基準とは
「Go Bold」のロゴが入ったクールなTシャツを着て対談場所に現れたのは、フリマアプリ「メルカリ」を開発・運営するメルカリで、人事・採用を担当するHRグループの石黒卓弥さん。Go Boldとは「大胆にやろう」を意味し、同社が掲げる3つのバリューのひとつです。
人材採用にあたって「バリューに共感しているか」「事業に共感・理解しているか」を重要な要素として掲げ、イベントや記事などを通じて発信し続ける石黒さんとサイボウズ 人事部 マネージャーの青野誠、サイボウズ式編集長の藤村能光の3名で、メルカリ流の採用について話してきました。
(Tシャツを見て)わー、いいですね! 取材時には必ず着ているんですか?
常に着ていて、デニム+メルカリのTシャツが基本スタイルです。「あの人、ほかの服ないんじゃないか」と思われていそう(笑)。 でも、いいこともありますよ。マーク・ザッカーバーグ氏ではないですが、コーデイネートに悩まなくなったのはラクです。「一日の選択の回数をできるだけ減らす」という。あまり気にしなくなったのもありますけど。
ロゴがかわいいですよね。普通に着てみたい。
Facebookに写真を載せると、社外の方から「売ってほしい」と言われるくらい人気なんですよ。
社員さんも着ているんですか?
よく着ていますよ。新入社員にも作ってはわたし、を繰り返しています。
会社が大きくなっても、創業者の思いが伝わりづらくならない理由
活発に採用活動を実施している印象です。社員は何名くらいですか?
全体で約250名です。東京に110名、仙台に110名、米国に30名ほど(2016年3月時)。半数以上がカスタマーサポートのメンバーで、それ以外の8割程度がプロダクトにかかわるメンバーですね。ほとんどが中途社員で、今年初めて新卒を採用し、4月には6名が入社予定です。
メンバーが増えていく中、人事としてどんな取り組みをしていますか?
コミュニケーション施策の1つとして、「社内にいる知らない人」をなくすために「シャッフルランチ」を企画しています。1組5人くらいで最大、1人当たり2000円までね、といったルールを設けて。 新入社員のデスクには名前入りのバルーンを置いて、周囲から声をかけてもらいやすい状況をつくっています。1月からは新入社員とメンター同士の食事代を会社が負担する「メンターごはん」もスタートしました。
部活も盛り上がっているそうですね。
ええ。ビリヤード部やテニス部、ワイン部など、インドア・アウトドアを問わず部活があり、社内コミュニケーションの場となっています。部門の垣根を越えて知り合うために役立っていますね。 全社で情報共有・勤怠管理するのに使っているSlackにも「部活用のチャンネル」があります。ちなみに、「ダイエット部」ではbotが用意されていて、最初の体重から減量幅を教えてくれるんですよ。ムダに高機能(笑)。
bot……すごいですね。組織の規模が拡大するフェーズごとに、やるべきことはどんどん変わっていきますよね。創業者の最初の思いが伝わりづらくなるという不安はありませんか?
メルカリには、ミッションを達成するために掲げる3つのバリューがあります。「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One(すべては成功のために)」「Be Professional(プロフェッショナルであれ)」です。 このバリューへの共感を徹底しているからこそ、不安がないのかもしれません。代表の山田や取締役の小泉もですが、私たちがインタビューを受けるときは、社外だけでなく半分は社内のメンバーを意識して、伝えたいメッセージを発信しています。
そういえば、弊社代表の青野(慶久)も自著『チームのことだけ、考えた。』を社員に読んでほしい、と言っていました。社内への発信も大事ですね。
育休取得率が目的化しても意味がない
2月1日に発表された新人事制度「 merci box(メルシーボックス)」が話題ですよね。この制度をつくったいきさつを教えていただけますか?
ベースにある思想は「社員が思いきり働ける環境」をつくることです。社員が200名を超え、とくにカスタマーサポートのメンバーは半分以上が女性。結婚や出産などのライフイベントを控えるメンバーも多いので、このタイミングで導入しよう、と。
merci boxのうち、とくに「産休・育休支援の拡充」はネット上で話題になっていましたね。
(1)社員の家族を含めた環境の支援 ○産休・育休支援の拡充 産休・育休期間中の給与を会社が100%保障する制度です。安心して出産や育児に専念できる環境を整えています。 女性:産前10週+産後約6ヶ月間の給与を100%保障 男性:産後8週の給与を100%保障(メルカリ プレスリリースから引用)
産休・育休期間中の給与100%保障とありますが、雇用保険は用意されるのでしょうか? 現状は、雇用保険(育児休業給付金)が育休中の収入となるケースが多いです。
復職後に手当一時金として渡します。育児休業給付金の支給を受ける社員については、彼らの意思を尊重して、私たちが掲げる給与100%保障に相当する形での支援を考えています。
社内からはどんな反応が寄せられていますか?
好意的な反応が大半です。男性社員数名から「うちも子どもが生まれるので育休を検討したいんです」といった報告も届いています。
男性に対しては産後8週の給与を保障する、とありますね。サイボウズの場合、男性では1〜2週間育休を取る人が多いです。最近はエンジニアのリーダーポジションにある男性3名が取得していました。
いいですね。ただ、最近の育休に関する報道を見ていて気になるのは、育休取得が目的化しているケースもあること。本来、企業が目指すべきは、社員に育休を取得させることではないですよね。
わかります。大企業が「多様性の実現を」と言いながら、育休取得率で競っている空気があるなぁ、と感じます。
それは違うでしょう、と思いますよね(笑)。
いっしょに働きたいのは、心からメルカリが好きな人
採用について伺っていきます。メルカリさんはWantedlyやLinkedInなど、自社運用する形の新しい採用ツールを積極的に使っている印象があります。
わたしがメルカリに入社し、採用にかかわり始めた当時、アプリのダウンロード数は約900万DLくらいでした。成長局面で社員数も少なく会社の認知度を上げていくには「採用活動をしているんだな」と知ってもらう必要があり、いろいろと試している状況でした。しかし会社の要求レベルに比べて「お会いしてみたい」と思える方のレジュメに出会うことはほとんどありませんでした。
なるほど。
以前より大切にすべきものはスキルより(メルカリへの)共感ではないかと考えていた中、私たちから伝えたい内容を直接発信できるツールであるWantedlyやLinkedIn、自社採用ページに注力するようになりました。 採用サービスはどれも実際に使ってみないと、良し悪しはわからないものです。使うか使わないかが、圧倒的な違いなのではないでしょうか。まずはやってみる、くらいのスタンスでいい。まずやってみて使い倒しいくことで、何がいいか、何が合うかわかってきます。今は3〜4種類のサービスしか使っていません。
ちなみに、石黒さんはすべての面接に参加されるんですか?
1日平均4〜5名の面接がありますが、わたしが参加するのは最初の5分だけで、あとは担当の役員が担当します。1次、2次、3次……どの面接にも共通しています。 私の役目は候補者の悩みの要素をひとつずつ減らし、当社を選ばない理由をなくしていくこと。とくに面接が進んでいく方は、弊社としても欲しい相手ですし、候補者の方も弊社に入りたいはずですから。
ほぐしてあげる、といった役割なんでしょうね。
わたしは候補者の方の味方ですから、面接を通過してほしいと願っています。候補者を口説くときには、その方と同じ方向を向いて、彼らの人生を徹底して考えています。
メルカリさんはリファラル採用(縁故採用)に力を入れている印象があります。どれくらいの割合の社員さんがやっているのでしょうか?
経営陣をはじめ全員です。実際に会食に行っているメンバーも半数以上はいますね。例えば、メルカリに来てほしいかも、と思っている友達と食事に行くとします。その際、会社負担で数千円程度の食事ができるのも喜ばれているのだと思います。もし、その友達が結果的にはメルカリを受けなかったとしても全然気にしなくていいよ、と社員には言っています。 その方の友達がやってくることもあり得ますしね。 定期的に開催しているミートアップもそうです。わたしはのべ500人くらいに会っていますが、仮に1人が20人友達がいれば、彼らを起点として1万人がメルカリに興味を持っていただき、応募してくれる可能性もあるわけで。そうやって「ゆるやかに応援してくれる人」を増やしていこうと考えています。
ゆるやかにファンを広げていくことが、採用活動にもつながるのですね。
面接で多数の候補者と向き合うなかで、どんなことを感じていますか?
やはり、心からメルカリを好きな人が面接に通るなぁと。逆に言うとどんなに優秀な人でも、実際にメルカリのプロダクトを使って商品を売買していない人は受かりません。使いこなして初めてスタート地点に立てる世界です。
ちなみに、面接官全員が「◯」をつけると当然採用となるんでしょうが、1人でも「◯」をつけない場合、候補者はどうなるのでしょうか?
たとえ1人でも面接官が違和感を覚えたら通しません。「迷ったら見送る」と決めています。そうすることで、会社のメンバーのメルカリに対する思いや共感の度合いは高いままで保たれます。「あの人、うちには少し合わないよね」と感じる人が1人でもいると、会社は途端に居心地が悪いものになりますから。 ほかの会社でお聞きしたことがあるケースでは「次の面接で不採用にするけど、ひとまず◯にしておこう」という思想だったと。メンバーの誰かにとって違和感があるなら、ほかのメンバーも同じように感じるだろう、と考えているんです。
一貫していますね。
代表や経営陣クラスは複数の会社を経験し、組織が成長する過程で無理に人を採用しすぎたという経験をもつ人もいます。だからこそ、本当に必要な人だけを採用していこう、という思いがあるんです。
大学名や性別は関係ない、見るのはデザインやコードだけ
すべての面接に経営陣が参加されていると知りました。経営陣が採用にフルコミットされているんですね。
はい。経営陣が書類選考や1次面接から参加している点で、旧来の面接とは違いますね。誰よりも経営陣が「メルカリに来てよ」と口説きたい相手と食事に行っていますし、採用に時間をかけている。人事として、当社ほど全社員が採用に協力的な会社はない、と思うほどです。
サイボウズではツール・制度・風土の3つを大事にしています。それらが変わらなければ、新しいものは生まれない。人に投資し、思いきり働ける環境をつくり……と風土がていねいに整備されているのが特徴ですよね。そのあたりで意識されていることは?
経営陣が積極的に発信すること、スタートアップの中では比較的、給与水準がしっかりしている方であることは意識していますね。成果に見合うだけの評価を渡したい、という思想です。 そのかわり、厳しさもあります。これだけ働ける環境を用意しているわけですから、パフォーマンスが出ないと、給与が下がる可能性もあります。 弊社では、新卒採用でも実力主義。デザインができたり、コードを書ける人でないと採用に至りませんし、大学名も性別も見ないです。
優秀な人材を集めておいて、他社から引き抜かれる恐れはないんですか?
引き抜かれたら「うちに魅力がなかったんだね」ととらえるしかない。だから、条件面も1度決めたら、いくら相談されても変更しません。そこは徹底しています。
ぶれない一貫した姿勢がメルカリさんの強さなんだな、と再認識しました。
文:池田 園子/写真:尾木 司
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