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食洗機の能力を最適化する──コデラ総研 家庭部(4)
テクニカルライター/コラムニストの小寺信良さんによる「techな人が家事、子育てをすると」というテーマの連載(隔週木曜日)の第4回目。今回は「食洗機の最適化」について。
本連載では、読者の皆さんからの、ご意見、ご質問、とりあげてほしいトピックなどを、広く募集しています。編集部、または担当編集の風穴まで、お気軽にお寄せください。(編集部)
文・写真・映像:小寺 信良
僕は元来真面目なたちなので、家電の取扱説明書も丹念に読む。さらに読んで「なぜそうなのか」を考え、実験することで納得する。理系なのである。
よく食洗機で聞かれる不満は、「思ったより綺麗にならない」「ちゃんと洗えない」というものである。実はうちの実家もビルトイン食洗機が付いているが、上手く洗えないということでしばらく使っていなかった。だがその使い方を見て、原因がわかった。理屈に合っていないのだ。
食洗機には、食器を立てて入れられるように棒のいっぱい付いたトレイがある。そこに食器を並べていくわけだが、この並べ方にコツがある。
回転ノズルの効率
うちで導入した「NP-TCB1」は、底面に2つの回転するノズルがあり、ここから水を吐き出しながら回転する。回転に動力は使っておらず、水が噴出する穴に角度が付けられているので、その噴出の勢いで回転するのである。庭に水を撒くスプリンクラーと同じ原理だ。
実際に、内部でどのような水流が発生しているのかを観察するため、防水型のスポーツカムと、LEDライトを防水ケースに入れて内部を撮影してみた。
水流はノズルによって、2箇所で回転しながら発生しているのがわかる。基本的には水から徐々に温めながら、お湯になるまでこの動作が延々繰り返される。ここから学べることはいくつかある。
まず、この回転ノズルがうまく回転できないと、水が隅々まで行き届かず、洗い残しが出ることになる。従って、トレイの下に落っこちてしまうようなもの、例えば箸やカニスプーン、マドラーのような細いものが下まで突き抜けてしまうと、回転ノズルが回らなくなってしまう。こういうものは、太い方を下にして、編み目の細かい小物入れのところに入れる。
説明書の写真では、箸は尖った方を下向きに入れてあるが、研究の結果、子供用の細い箸は編み目の脇から下に落ちてしまうものがあることがわかったため、うちでは先を上に向けて入れるように統一している。
菜箸のような長いものは横に寝かさないと入らないケースもあるが、これは水流に押されて斜めに落っこちたりするので、その場合は上から別の食器を載せて動かないように固定する。
もう一つ、内部の動画から気づくことがある。それは、本機の水流は左回転で発生するということだ。つまり水流は、ランダムに食器に当たるわけではないという事である。
これはすなわち、水流が噴射される方向に向かって、食器の内側、すなわち汚れ面を向けないと洗えないということである。これは取説をつぶさに観察するとわかるが、食器の向きは奥は左向きに、手前は右向きに置くよう指示されている。これはまさに、2つのノズルから出る水がよりぶつかる方向であることがわかる。うまく洗えないという方は、おそらく食器の入れ方が適当すぎるか、逆向きなのであろう。
食器の配置という点では、水が天井まで綺麗に抜ける隙間を作ることは、極めて重要だ。例えば食器同士が当たっていると、そこから先へは水流が抜けないので、部分的に洗えない箇所が発生する。
食器のカーブがまちまちなので、どうしても食器同士が当たる部分が出てくるのはある程度仕方がないことだが、極力同型の食器を使うこと、小さい食器に被さるように大きな食器を配置することで、かなり解決する。
洗剤は化学である
もう一つ誤解があるのは、洗剤の使い方だ。一般の台所用洗剤は、界面活性剤によって油を乳化して分離するため、泡立ちをよくしてある。もちろん、泡が出た方が洗えてる感じがする、という感覚的な部分も大きい。
また台所用洗剤は、実は食器洗いのみに特化していない。手元に洗剤がある方は確認して欲しいのだが、裏面ラベルの用途に「野菜」など食品が書いてあるものもあるだろう。それらの洗剤は、野菜や果物なども洗えるのである。一般家庭ではあんまり野菜を洗剤でザブザブ洗う習慣はないかもしれないが、飲食店などではシンクで薄めて、結構洗うそうである。
この食品が洗える洗剤は、食品衛生法で規定があり、pHは中性、酵素や漂白剤は含まれない。一方で手洗い用洗剤でも、食器専用と書いてあるものは、pHが中性ではなく、弱アルカリ性や弱酸性に振ってある。このタイプでは食品は洗えないので注意が必要なのだが、詰め替え用を買ってきて混ぜちゃったり、そうやってたらラベルと中身が違って一体何が入ってるかわからなくなってる家庭もありそうだ。どこかのタイミングで、ちゃんとリセットしたほうがいいだろう。
一方食洗機用洗剤は、一般の台所用洗剤と違って、殆ど酵素によって汚れを分解・分離する。研磨剤も含まれており、そもそも泡立つ必要がないため、どうも量が少ないように感じてしまう。汚れ落ちが悪いとついつい洗剤の量を増やしてカバーしようとするが、これはむしろ逆効果である。必要量以上に洗剤を入れてしまうと、濃度バランスが崩れてしまったり、妙に泡だって水流の邪魔をしたりするので、結果的に洗浄力を弱めてしまう。
また食洗機用洗剤は、直接手で触れないというのが前提なので、pHは高め(アルカリ性)に振ってある。高温のアルカリ溶液で、汚れを分解するのである。だから量が少なくても、ちゃんと汚れは落ちる。また洗剤を切らしたからといって食洗機用洗剤で手洗いすると、全然汚れが落ちないだけでなくめっちゃ手荒れするので、止めた方がいい。
近年は、洗剤内に含まれる研磨剤が鍋などのコーティングを剥がしてしまうという例が目立つようになり、洗剤のトレンドは徐々に研磨剤を減らして酵素分解の方向にシフトしているようだ。(了)
変更履歴:
2013年11月23日:「右向きに奥くよう指示されている。」のtypoを修正しました。編集部のチェック漏れでした。大変申し訳ありませんでした。
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