40歳定年制は雇用の不安を解決する!? 35歳からのチャレンジを身近に
2013年10月に開催された、株式会社walkntalk主催「人活カンファレンス ~35歳からのチャレンジをもっと身近に~」から、東京大学大学院経済学研究科・経済学部 柳川範之教授の「40歳定年制が解決できる雇用の不安」と題した講演とサイボウズ株式会社副社長の山田理との対談を紹介する。
40歳ぐらいでエネルギー補給を
2012年、「40歳定年制」という話を、政府の報告書に出し非常に物議を醸しました。主旨としては、「世界経済は大きく変化しているので、その環境変化に合わせた形で、日本の経済システムや雇用のあり方を大きく変えていかなければ、とても持たないだろう」ということです。世界経済は、急激な勢いで変化しています。そうすると、「自分に一番ふさわしい場所が、ずっと同じ企業にある」と言い切れるのか疑問に思います。変化に合わせて働く場所を変えるのは、極めて自然なことです。十分に働けないということは、本人にとっても、社会にとっても非常に不幸なことです。経済はこれから少子高齢化の中で人口がどんどん減っていくので、何とか少ない人口の中で生産性を上げてく必要があります。適切な働く場所を得るということはとても大事なのです。単に働く場所を変えるだけではなくて、寿命が伸びているので、場合によっては75歳くらいまで元気な人は働いてもらわないといけないし、働ける時代だと思います。そう考えていくと、能力を途中の段階でバージョンアップさせるということが必要です。40歳ぐらいの定年といったイメージの1番の理由は、「40歳ぐらいで1つエネルギーの補給をしないと、この先をもっと走っていくことはできないのでは?」というところにポイントがあります。
世界全体を考えると、新興国の人たちの持っているスキルは極めて高度化してきています。東南アジアなどでは、日本人よりも高いスキルを持っていて、かつ給料が半分ということもあります。その状態の中で日本がどうやって生き残っていくか。50年後なんて何が起こるかわかりません。今の会社が今いる人たちの能力を発揮できる会社になっているとも誠実な経営者であればあるほど言えない話です。そうすると20歳の学生だけではなく、30代や40代の人にとっても保障などないわけです。日本は、アメリカなどに比べると産業構造調整のスピードがすごく遅いです。なぜかというと、その人が辞めるまではその分母は潰さないということを考えているからです。雇用をギリギリまで維持するので、問題が顕在化しません。それで、どこかの段階で破綻をきたして、一斉に調整に走ることになると大きな社会問題になります。
新しい能力を身につける
もう1つの重要なポイントは、変化が速いとスキルの陳腐化が起こるということです。必要とされていた仕事内容が必要ではなくなってしまう。そうするとどれだけ能力があってもその人の仕事はない。日本人はあまり仕事がなくなるということに関して危機感がないです。今の正社員は職種を限定していないので、仕事そのものがなくなっても会社外で仕事を取ってこられる。ところが、産業全体で仕事がなくなると、会社自体は対応できなくなる。仕事がなくなってしまった人にはどうするのかというと、社会全体としては、その人たちが生産性を上げる新しい能力を身に付ける以外には方法はないだろうと思うのです。
スキルや能力の再習得をもっと柔軟かつ大胆にやっていかないと日本企業はとても生き残れません。そうしないと人材競争に勝てません。今までは、企業内で別の部門に移して能力開発をしていく以外に、もう少し前向きな出口戦略を考える必要があります。新しい能力を身につけつつ会社を移っていくという方法が、社会全体の構造としては必要ではないかというのが、大きな枠組みの中から出てくる話です。では、どういうふうにこれをやらせますかというところで考えたのが、40歳定年制です。40歳でクビにするという話ではありません。有期雇用の多様化の話です。例えば20年という区切りにすると、それが40代ということだったのです。ポイントは、働き方、学び方、コミュニティ、アイデンティティも全部を企業に頼るという話ではなくて、もっと企業を移りながら充実して働ける構造を作っていく必要があるだろうということです。
いくつになってもチャレンジをする
なぜこういうことを考えたかというと、生産年齢人口がどんどん減っていくので、今ある労働人口をよりよく活かして生産性を上げていけないといけないからです。今のメカニズムには限界にきています。大企業だとか有名企業でもリストラの可能性があります。倒産してしまうと会社は守れないわけです。個人が自立した形で生産性を上げていくことでしか雇用の安心というのは確保できないというのが現実の姿です。そうすると、企業に頼らないシステムの構築が大事です。途中で再教育をし、能力をブラッシュアップしていくことが雇用をうまく動かしていくためには大事ではと思います。
ブラッシュアップという時にはポイントは2つあります。1つは例えば20年間会社で働き培った能力は非常に重要なものなので、それをうまく活かす形で会社を移ることです。多くの人を見て感じるのは、能力はあるけれどもそれをうまく活かせていないということです。別の会社に行った時に、うまく使えるようにしてあげなければいけない。もう1つは、うまくいかなくなってしまった人が、それまでと違う能力も身に付けるために、新しい教育を受けるシステムも大事だろうと思うのです。70歳になっても75歳になっても元気な人はいっぱいいます。55年も1つの会社にいる、チャレンジもしないというのは、あまりにも、もったいない話です。いくつになってもチャレンジをする、失敗したらもう別の会社に入るなり、新しい能力なりを身につければいいのです。それぞれの年齢に合った働き方、働く場所を見つけられることが、イキイキとした社会を実現させるということでもあるし、個人にとってとても重要なことです。一生を3回くらいに分けて、いろいろな働き方ができるということが、個人にとっても大事なことだろうと思います。絵空事のように見えるかもしれませんが、やっているところはあります。わかりやすい例でいくとアメリカです。アメリカの大学や大学院に行くと、中年の人もいっぱいいます。アメリカに行くと40歳や50歳でも平気で学生をやっている。学び直しができる。
もう1つが、これもいろいろな問題点もありますが、北欧諸国で展開されている積極的労働政策です。デンマークの「フレキシキュリティ」、フレキシビリティ(柔軟性)とセキュリティ(安全性)とを合わせたのです。大事なポイントは、セーフティネットの部分を新しい能力を身につけさせる教育訓練費用に充てるということです。簡単にクビになりますが、能力を身につけて質を高めた上で別の会社に移るという仕組みです。財源が必要なので、そのままこのシステムを導入できるとは思えませんが、こういう考え方や仕組みは、これからの日本にとって大事です。
対談:柳川教授×サイボウズ山田副社長
講演に続き、柳川教授とサイボウズの山田理副社長が対談をした。
働く人のセカンドキャリア、サードキャリアの機会を作っていくための40歳定年制とは確かにそうだなと思います。企業としては、雇用の責任がありますが、お給料を渡し続けるだけではなく、違う会社でも働けるようにするのも雇用の守り方なのではないかと思います。世の中はどんどん変化し会社もどんな状態になっていくのかわからない。そういう中でサイボウズでは、副業を許可したり、育自分休暇制度という復職できる制度を作ったり、独立支援制度というものも検討しています。「お金を渡します。独立してもう帰ってくるなよ」ではなくて、会社のほうから、「独立しても管理部門の仕事は面倒をみるよ。ダメだったら戻ってきていいよ」というぐらいにして、チャレンジを重ねられるようにする。こんな多くの人が独立しやすくなるような形の制度を検討しています。
まさに雇用の責任という話が非常に重要です。責任を持って雇用したいと思っても、ときにはリストラしないといけなくなる。こういう時代においての会社の責任は、その人が会社を放り出されても自立していけるようなことを提供することではないかと思います。そう考えると「独立支援」を組み込んでいくことは、これからの会社にとって重要です。副業を認めることも素晴らしいです。日本の会社は、一つのことに集中することが偉いことで、脇目もふらずにいることを推奨する雰囲気がありますが、副業の中から独立につながることもあると思うのです。副業で独立の準備をし、うまくいったら転職のステップとして踏んでいくことを皆ができるようにしたらいいのではないでしょうか。まさに実践されていらっしゃるのですごいなと思います。
経営者の思い
続いて会場から質問と意見が寄せられた。
私は、柳川先生の冒頭の部分に異論があります。経営者に「50年間続くか?」と聞いたら、自信を持って「そうだ」とは言えないというお話に非常に違和感があります。 なぜならば、私は会社を創業して3年経っていますが、本気で50年間やっていけると思っています。 自分の後の人、3代か4代ぐらい後のマーケットを切り開いていくと考える人達も必ずいると思うのです。ジム・コリンズの『ビジョナリー・カンパニー』の中に、「ビジョナリー・カンパニーの定義は「50年、他を寄せ付けない成長力で成長していく会社」だとあります。私としては、サイボウズさんに「50年続けられる」と答えていただきたいと思います。そういう所が1つ目の質問と、私の意見です。2つ目ですが、独立支援制度についてです。サイボウズさんは検討していて素晴らしいと思います。しかし、おそらく独立出来る人と出来ない人がいるのではないでしょうか。№2の人がいないと№1の人は輝けない。ポイントとしては、マネジメント人材だと思うのです。日本の教育制度の中で戦略的発想を教育してくれるような教育制度はありませんでしたが、教育の中でマネジメント人材、戦略的発想を作って行けば、結果として40歳定年制が実現できるのではないかと思うのです。このあたりを是非、先生にご意見をいただければと思います。
ありがとうございます。「50年続ける」と自信をもっていってもらえるのは、嬉しいです。少し反省をしています。僕が聞いたのは大企業の経営者なのです。そういう人達に聞いたからいけないのです。新しく会社を立ち上げた人達からすると、会社の寿命についてのお考えは、おっしゃる通りだと思います。ですから、私の学生もそのようなところに行くほうが50年の安心が得られるという事を知ってもらいたいと思います。その点は、本当にありがとうございます。そしてマネジメント人材の育成というのも、おっしゃる通りです。日本がマネジメントは専門職なのだという意識がかなり乏しいと思います。ある程度の経験を積むと管理職などと勤続年数がマネジメント能力を作っていくと勘違いしているところがあります。マネジメントとは専門職なので、それなりの能力開発が必要と僕は思うのです。また転職となると、とたんに一人一人になって動こうしますが、それが大きな間違いではないかとも思います。サブの役割を果たしている方がいるはずだというのは、まさにその通りです。日ごろの仕事は、チームワークですよね?転職は一人一人でしか動かさないというのは、ずいぶん無理があると思っています。役割分担があって専門性もあるので、何人の単位かは業種によって変わると思うのですが、たとえば2、3人などチームで転職するという事をもう少し考えていくとスムーズにできるのではないかと思います。
1000年は、いってみよう
50年後は、自分は死んでいる可能性が高いので「いきます」とはいいにくいですが、サイボウズは継続的に成長させたいと思います。50年ではなく「100年200年1000年は、いってみようよ」と思っています。会社という概念がどうなるのかは、わかりませんが「サイボウズ」という遺伝子や僕達だからこそ提供できるなと思う「モノ」をできたら継承していきたいです。
そういう意味では、僕は「会社が大きくなった方が良いのか?」とさえ思っています。サイボウズ出身の人がどんどん外に出て行って周りでビジネスを行い生態系を作っていく。ひょっとしたら失敗する人も出てくるかもしれませんが、「元サイボウズ」みたいな形で合体しても良いかもしれないし、サイボウズに戻って来ても良いかもしれません。細胞が分裂をしてウジャウジャした生態系を作っていく会社が、長く続くのではないかと思うのです。会社が本当に辛くなった時にエコシステムを作ろうと思っても余裕はありません。余裕がある時に会社の資産を渡して行くわけです。どんどん渡して行ったときには、会社が大きくならない。こんなことは上場会社では、なかなかできないと思いますが、そういう事をやっていく事で輪が広がっていく事もあるのではないでしょうか。優秀な人から順番に抜けて行くと「会社がどうなるの?」というふうに思われるかもしれませんが、僕はもしそうなったら経営者の負けだと思います。優秀な人が抜けていく経営をやっているなら、それ自体が負けです。自分がイケてないのに、抜けにくい制度を作って会社を維持するのは経営者としてエゴです。会社を自分のものにして残したいだけではないでしょうか。他の会社に行こうと思ったら行ける優秀な人達にもかかわらず「この会社オモロイからいるわ」といわせるような魅力のある会社にすることが経営者の課題です。世の中もだんだん変わってくると思います。
写真撮影:橋本 直己 執筆・編集 渡辺 清美
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執筆
渡辺 清美
PR会社を経てサイボウズには2001年に入社。マーケティング部で広告宣伝、営業部で顧客対応、経営管理部門で、広報IRを担当後、育児休暇を取得。復帰後は、企業広報やブランディング、NPO支援を担当。サイボウズ式では主にワークスタイル関連の記事やイベント企画を担当している。