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技術の力で“力ずく”、キッチンクリーニング──コデラ総研 家庭部(5)
テクニカルライター/コラムニストの小寺信良さんによる「techな人が家事、子育てをすると」というテーマの連載(隔週木曜日)の第5回目。今回は「ハウスクリーニング」について。
本連載では、読者の皆さんからの、ご意見、ご質問、とりあげてほしいトピックなどを、広く募集しています。編集部、または担当編集の風穴まで、お気軽にお寄せください。(編集部)
文・写真:小寺 信良
もう少し食洗機のノウハウを重ねて行きたかったのだが、そろそろ年末に向けて大掃除のシーズンということで、ハウスクリーニングの話に切り換えたいと思う。
年末の大掃除は、まとめて1日でやる派と、12月に入ったらなんとなーく機運を盛り上げて少しずつ積み上げていく派に分けられると思う。僕は本来掃除などしたくない派なのだが、いったんやり出すとサルみたいにずっとやってる派でもある。
大掃除で一番消耗するのは、キッチンまわりの掃除だろう。油汚れやこびりついた焦げなど、しつこい汚れを掃除するのは、時間も根気も手間もかかるし、第一殆どが力仕事である。
特にガスコンロまわりは、普段から小まめに掃除しとけば大したこともないのだが、つい毎日急いで料理していると、鍋からこぼれたものがそのままになってこびりついたりする。タワシでこすれば綺麗にはなることはわかっているのだが、僕はタワシを手で持ってゴシゴシこするなど原始人のやることだと思っているので、技術の力で解決してしまうのだ。
お断わりしておくが、ここでご紹介する方法は完全にやってることの危険性が理解でき、そのリスクを自分で負うことができる方のための手法なので、できそうにないと思ったら引き返すのも立派な大人である。
レンジの汚れとガチンコ勝負する
ここで利用するのは、技術者なら誰でも持っている「電動ドライバー」である。いきなりガスコンロを分解するわけではない。電動ドライバーはビットと呼ばれる先端工具を取り替えることで、いろいろな用途に使えることはご存じだと思うが、この先端をタワシ状のものに替えるのである。
先日購入したのは輸入品で、直径15cm程度の大型のナイロンブラシだ。ここまでガチでタワシっぽいのは国内メーカーではないようである。もっと径の小さいものなら、「電動ドライバー ナイロンブラシ」で検索すると、アルミ研磨用の各種カップブラシが見つかるだろう。価格は700~800円程度である。通販でも買えるが、近所にホームセンターがある方は実物でブラシの堅さなどを確認するといい。
あとはガスコンロにクレンザーをふり、少し水を振りかけて馴染ませてから、真上からブラシがけしていく。電動ドライバーには大抵高速/低速の切り換えスイッチがあると思うが、最初は低速で、コツが掴めてきたら高速にトライだ。
汚れ次第ではまわりに飛び散る可能性があるので、汚れてもいい服装で行なうことをお勧めする。また安全のために、電動ドライバーは両手で持った方がいいだろう。
一通り磨いたら、キッチンペーパーなどで軽く拭いて、汚れの落ち具合を確認する。硬くこびりついてしまった汚れは、ナイロンブラシでは落ちないだろう。
次のステップは、ナイロンブラシよりもハードなワイヤーブラシを使用する。こちらも金属研磨用としてホームセンターなどでカップブラシが購入できるが、ナイロンと違ってワイヤーはガチ危険なので、一緒に作業用の革手袋を購入することをお勧めする。1セット500円ぐらいで、厚手の豚革や牛革のものが売っているはずだ。
ワイヤーブラシの何が危ないかというと、高速回転するワイヤーがもし皮膚に当たると、簡単に皮膚をちぎり飛ばして血まみれになるからである。また回転するワイヤーが抜けるとどこに飛んでいくかわからないので、防護用のメガネもあったほうがいいだろう。これは400~500円で手に入る。
ワイヤーブラシはかなり研磨力が強いので、ヤワな塗装が相手だと塗装を剥がしてしまう可能性がある。まずは目立たない部分で塗装が剥がれないか、低速回転で様子を見てからにして欲しい。
すでにナイロンブラシであらかたの汚れは落ちているはずなので、特にこびりついたところにワイヤーを軽く当てる。一気に削り取るより、少しずつ削るイメージだ。
この方法なら、手動でタワシでこすっていたら小一時間もかかるガスレンジまわりの掃除が、15分ぐらいで完了する。しかも大して疲れない。安全への配慮のためにいくつか道具を購入する必要はあるが、1,000円程度で解決できる話だ。
もう一つの難関、鍋の底
さて、キッチンまわりで同様の難関と言えば、お鍋やフライパンの裏底に頑強にこびりついた、黒い焦げ付きであろう。これは元々は何らかの汁や食材がこびりついたものが、何ヶ月も、場合によっては何年も高温で熱せられることで、まるで塗装か何かのようにしっかり固着したものである。これは、普通にスチールウールでこすったぐらいではどうにもならない。
こういうものも、電動ドライバーとワイヤーブラシで綺麗にできる。ちなみにナイロンブラシごときではまったく歯が立たないので、試すだけ無駄である。これも鍋を湿らせておいて、クレンザーをかけて研磨して行くのだが、もし表面に塗装や蒸着加工がある場合はやめておいたほうがいいだろう。
ワイヤーブラシ研磨は、確実に汚れが落ちる変わりに、周囲に黒い粉末状の汚れが盛大に飛び散る。キッチンでやると周囲が真っ黒になってしまうので、この作業はお風呂場など、事後に水で洗い流せるような場所でやる方がいいだろう。当然ワイヤーブラシを使うので、防護メガネと革手袋は必須である。
これはガチで綺麗になる。おそらくこれまで見たこともないレベルで、鍋底が新品レベルに甦る。ただしワイヤーと鍋が強烈に反響するので、結構うるさい。金属切断中みたいな音が出ても問題ない時間帯に作業して欲しい。
ここまで徹底したクリーニングした鍋なら、また1年ぐらい使い続けても全然平気である。年に一度の掃除としては、十分な成果だろう。
ワイヤーブラシを掃除に使っていると、油汚れが付着してしまい、逆に汚れをこすりつけるようなことになってくる。だが、ワイヤーブラシそのものを掃除する方法はない。尖ってて危ないので、くれぐれも素手で洗おうなどと思わないことだ。加湿噴射式のスチームクリーナーなどがあれば、直接触らずに掃除できないこともないが、そういうものがない場合は素直に消耗品だと諦めて、新しいものに交換した方がいいだろう。
これは普段家庭内で役立たずと言われている技術者が、大掃除でヒーローになれるチャンスである。キッチンをピカピカに磨き上げ、パパすてきーとか言われてみるがいい。(了)
変更履歴:
2013年12月24日:見出しに「──コデラ総研 家庭部(5)」が抜けていたのを修正しました。
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