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「園芸家12カ月」──techな人にお勧めする「意外」な一冊(7)
tech@サイボウズ式のアドベントカレンダー企画、techな人にお勧めする「意外」な一冊の7日目。高野 了成さんのお勧めは「園芸家12カ月」(カレル・チャペック、中公文庫)。高野さんとの最初の接点は、「Agenda」というLinuxベースのPDAでした。(編集部・風穴)
文:高野 了成
カレル・チャペック「園芸家12カ月」
カレル・チャペック、我々の業界なら「ロボット」の名付け親として名前は知られているだろう。そのSF作家というイメージとは裏腹に「園芸家12カ月」である。
本書は先輩の結婚式の二次会のプレゼントとしてもらったものだ。「結婚生活とは園芸に似て手間のかかるものなのか?」などと思いながら、とんと園芸には興味の無い私によって、本書は本棚の隅でほこりをかぶっていた。そんな折、techな人にお勧めする「意外な」一冊とお題を頂いて、10年振り(?)に手に取ったのが本書である。
ぱらぱら頁をめくる。山のように出てくる植物の99%は聞いたこともないけど、そんなことはどうでもいい。園芸マニアとでも言うべきアマチュア園芸家の生態がユーモラスに描かれている。例えば、偏執狂、収集熱、魔法の儀式……。そこで気付く。あぁ、なんと我々プログラマと同じではないか。
「園芸家は、花の香に酔う蝶なんかにはならない。窒素をふくむ、かおり高い、くろぐろとした、ありとあらゆる大地の珍味をもとめて、土の中をはいまわるミミズになるだろう」(本書 p.44より)
どこか裏方に徹する我々と通じるものがないだろうか。土壌の改良だ、病害虫駆除だ、嵐が来るだと、翻弄される園芸家の姿は、シェルやエディタの設定ファイル、自前ツールやライブラリをああでもないこうでもないと日々嬉々として手入れしているプログラマの姿に重なる。
納期のない趣味のプログラミングも園芸も完成することがない。園芸家は、花屋に並ぶようなバラの花を育てるためには、どんな環境とアプローチが必要で、どんな虫に気を付けなければいけないか、一家言もっている。園芸家ごとにてんでばらばらで、宗教じみているが(笑)。花が咲く頃には興味は別の所に移っているのだが、これも言わずもがな。
チャペックが本書を執筆していたのは今の私と同年齢のころ、時代はナチス・ドイツが台頭し始めた1920年代後半。そんな時期にチャペックは何を思い、こんな本を書いたのだろう? 落葉し寒々とした季節の11月。「未来は芽の姿で、わたしたちといっしょにいる」(本書 p.174より)と書いた筆者の胸の内は如何に。そんなことを考えながらもう一度読み返してみたい。
まとめ。純粋に読んで楽しく、プログラマの魂にも訴えるものがあるということでお勧め。(了)
高野 了成さんのプロフィール:
UNIXなんてダサいと独自OSについて研究していたが、気がつくとLinuxについて仕事をし、Plan 9についてブログを書くようになっていた。今は某研究所の主任研究員(出向中)。
・Plan 9日記:http://d.hatena.ne.jp/oraccha/
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