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「モバイルフロンティア」──techな人にお勧めする「意外」な一冊(11)
tech@サイボウズ式のアドベントカレンダー企画、techな人にお勧めする「意外」な一冊の11日目。小山 哲志さんのお勧めは「モバイルフロンティア──よりよいモバイルUXを生み出すためのデザインガイド」(レイチェル・ヒンマン、丸善出版)です。小山さんとの最初の接点は、PHPカンファレンスの打ち合わせの席だったと思います。2002年ごろ。(編集部・風穴)
文:小山 哲志
モバイルフロンティア
──よりよいモバイルUXを生み出すためのデザインガイド
「techな人にお勧めする『意外』な一冊」というタイトルですが、 空気を読まず意外でもなんでもないド直球な書籍をご紹介します。というのも、2013年に出版された書籍の中で、自分的に一番インパクトが大きかったのがこれだったからです。
先日開催されたHTML5 CONFERENCE 2013で、この書籍の日本語版を翻訳されたエンジニアの方々による、この本の紹介セッションがありました。各人が翻訳を担当した章ごとに、その章の内容のキーポイントを解説するというものでした。翻訳した方々が数分間隔で入れ替わり立ち代りに、全9章を熱く語る姿に、あー皆さんこの本に惚れ込んでいるんだなぁと感じ入ったものです。自分は、出版直後にすでにこの本を読んでいて、その価値は十分に理解してたのでさもありなんでした。
さて、この本を一言で表すならば、現在進行形で行われているUI/UXの大変革をあらゆる側面から取り上げている本です。
UI(ユーザーインターフェース)/ UX(ユーザーエクスペリエンス)は、ざっくり言えば人間とコンピュータがやり取りする際のあらゆる要素を含んでいます。モバイル環境が出てくるまでは、机に向かって、比較的大きな画面を使って、不確定要素のない環境でコンピュータを使うという前提が成り立っていました。これまではその大前提を元に、アプリやサービスのUI/UXは設計されてきました。ところが「持ち歩けてどこでも使えるコンピュータ」と言うべきスマートフォンの普及によってその前提が崩れ、デスクトップで培われたUIの方法論がそこでは全く役に立たないことがはっきりしています。現在はその新たな状況でのUI/UXの方法論を、模索しながら新たに構築している過渡期にあるのです。
この本では、これまでのGUIの次に来るUIの考え方をナチュラルユーザーインターフェース(NUI)と定義し、現実の私達が住む物理空間やさまざまな環境をより考慮したものになると説いています。シンプルで直感的に動作でき、マウスやキーボードの代わりに、タッチやジェスチャーを用います。
話は変わりますが、近年世界を席巻しているフラットデザインUIの流れに、個人的にはどうにも違和感を感じています。単純な図形を基本とし、装飾を極力排除したデザインを用いて、アイコン、文字ラベル、アニメーション等を効果的に使うアレです。この本には、なぜ世の中がフラットデザインに向かっているのか、その理由がNUIに絡めて明確に書かれていました。GUIが現実のメタファーを過度に模倣することは、使われる環境が多岐にわたるモバイル状況においてはむしろ違和感を強く発生させます。どのような状況にでも馴染むようにするには、むしろシンプルで装飾性の少ないUIが求められるのです。
このように、現在世の中で起こっているのは、コンピュータを使うユーザの環境、状況の大幅な変化です。スマートフォンを持ち歩いて、より不安定で断続的な環境の中でサービスを提供することは、UIのみならずアプリの作り方やサービスの提供の仕方も含めて、開発者の考え方を根本から見直すことを求められるのです。この書籍のタイトルが「モバイルフロンティア」なのは、そのような新しい環境に適した手法はまだまだ研究途上であり、未開の大地、フロンティアが今まさに眼前に広がっていることを示している実に良いタイトルだと、この本を読み終える頃には思える自分がいるのでした。(了)
小山 哲志さんのプロフィール:
PHPやJavaScriptで色々作っているプログラマー。来年は環境が大きく変化する年になりそうで、ちょっとワクワクしています。日々視聴したアニメをあにみた!に記録し続けるアニオタです。
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