仕事の引き継ぎに不満を感じる若手ビジネスパーソンは7割
その年の「ベストチーム」を表彰し、チームワークの向上を考えるベストチーム・オブ・ザ・イヤー実行委員会が、部署異動に関する引き継ぎの実態調査の結果を19日に発表しました。
サイボウズ式では、その結果を元に、名古屋商科大学経営学部教授の北原康富氏にコメントを頂いてみました。
仕事の引き継ぎの実態と問題点
引き継ぎをした期間については、56.7%の人が「1週間以内」と答えています。うち「3日以内」と答えた人も約3割いますね。業界別に見ると、金融業界では80.8%が「1週間以内」の引き継ぎであり、他の業界よりも短い期間で引き継ぎをしています【図1】。
今回は「引き継ぎを受けた人」に聞いた調査ですが、職場を移動する場合、一人で「引き継ぐ」と「引き継がれる」という2回の引き継ぎをする人も、ある程度いるのではないかと思います。そういう人で引き継ぎに1週間と回答した人は、2倍の2週間──およそ半月を引き継ぎに使うと考えられます。そう考えると「1週間」は短くはないですね。1週間を超える長い引き継ぎ期間もありますが、その場合は、OJTのような教育の機会になっているとも考えられます。長期雇用が前提の日本企業では、組織の変更に伴って社員の配置転換が、比較的頻繁に行われます。社員が多様な経験を重ねることが重要と考えられています。引き継ぎ機関が長いのも、企業経営者から見ると人的投資を積極的にしていることになります。
引き継ぎを受ける際に問題点があったかどうかを聞いたところ、71.2%が「あった」と回答しています【図2】。
問題の内訳は「十分な時間がなかった(59.9%)」が一番多く、「これまでの業務もあり、引き継ぎの余力がなかった(37.4%)」、「仕事の全体像や過去の履歴が分からないまま引き継がれた(35.6%)」、「引き継ぎ資料はあったが説明があまりなかった(35.1%)」と続いています【図3】。
業務マニュアルは存在しているか
引き継ぎの手順や業務マニュアルの有無は、「両方とも無い」とした回答が約過半数の45.8%です。【図4】。引き継ぎに対する会社のルールや業務マニュアルの文書化が、あまり整備されていないようですね。
とはいえ、引き継ぎのルールが手順化されている回答は30%です。引き継ぎが繰り返し行われていると考えられます。
引き継ぎで使ったツールは、「紙文書」(64.7%)、「Excel」(59.3%)、「口頭」(59.3%)の順でした。現在でも「紙文書」が重用されている実態が浮き彫りになっています。紙以外に、引き継ぎデータとして使ったツールでは「Excel」が多用されています。業種別では、情報・通信業界では紙文書・各種ツールを使ったデータでの引き継ぎが他業界より多く、業務の文書化がもっとも進んでいる業界のようです。一方メーカーでは、「紙文書」と「口頭」が同率となり、サービス業界は紙文書よりも「口頭」と答えた人が多くいます。
一般的に、会社の仕事には、同じ業務を繰り返す「定型的業務」、繰り返しのない「非定型的業務」、中間の「半定型的業務」があります。定型的業務は、一貫性・一定の品質・効率性を増すため、文書化や手順化がされていることが多いです。非定型的業務は、繰り返しのない業務、少しつづ変化する業務、言葉や絵では表せない業務です。例えば「あやとり」のやり方を文書で伝えることはかなり難しく、口頭や動作で見せることを通じてするのが効果的です。引き継ぎに使ったツールを見ると、金融業種は文書が、サービスは口頭が多くなっています。これは、金融業種では定型業務の割合が多いからだと思われます。金融業種では人によって仕事に違いがあっては困るため、だれがやっても同じように業務を遂行するよう設計されているのでしょう。結果、最初の調査結果の引き継ぎ期間も短くなっているのではないでしょうか。一方サービス業種では、少しずつ変化したり、やって見せないと伝わらない業務が多いのでしょう。ITなどの情報業種は、業務による中間生成物が情報やデータなので、必然的に文書やデータの引き継ぎが多くなります。
時間も文書も無い引き継ぎは、上司への不満に
引き継ぎの問題点を業種別に見たところ、「これまでの業務もあり引き継ぎの余力が無かった」という回答は業界で大きく分かれています。サービスやメーカーでは、現業務との兼任で引き継ぎが行われています。
情報・通信業界では文書が存在している反面、「書いてあることが分からない」という回答が他業界に比べて多く、文書化のデメリットも浮き彫りになっています。引き継ぎの時間や余力や文書もないサービス業は、上司への不満も他業界と比べて多く出ています【図6】。
職種別では、営業系職種は「引き継ぎの時間」や「文書の説明が無かった」回答が高く出ており、職種特性が反映されています。技術系職種では、文書のわかりづらさはあるものの、全体像や過去の履歴も踏まえた上で引き継ぎがされており、かつ「上司や周囲のフォローがない」も職種別で最下位です。職種柄、仕様書などのマニュアルのもと、上司やメンバー含めたチームで行う業務が多いのかもしれません【図7】。
引き継ぎを業務改善の機会に
過去に受けた引き継ぎに関しての意見(自由回答)の中で、「1週間以上の引き継ぎ期間」があった人のコメントを見ると、成功したとは思っていないコメントがありました【図8】。引き継ぎ期間の長短と、実際の引き継ぎにおける満足度の間には、必ずしもイコール関係があるとはいえないようです。
調査結果を受けて、調査元のベストチーム・オブ・ザ・イヤー実行委員会は、引き継ぎの成功には、引き継ぐ人と受ける人の「現在の業務と引き継ぎ業務との適切な仕事配分」、「誰が読んでも分かる業務マニュアル」が必要であると結論づけています。引き継ぎで部署異動の効果が出るチームを作り上げていくことは、チームリーダーの重要な役割の1つであると言っています。
その2つは必須ですね。引き継ぎに必要な時間を見込んで計画しておくことが重要です。マニュアルがない場合でも、最低限、引き継ぐ業務を階層的に分解して、項目だけでも書いておくことをお勧めします。引き継ぐ業務の全体がわかるだけで、両者ともずいぶん安心できますから。引き継ぎをする人にとっては業務の棚卸をするようなものです。今までの仕事を俯瞰するよい機会です。引き継がれる人は、新しい仕事を学ぶ貴重な学びの機会と考えてはどうでしょうか? 引き継ぎを通じて今まで気づかなかった業務のムダや矛盾が見つかれば、改善する機会とも考えられます。引き継ぎは一見効率の悪い期間と感じるかもしれませんが、リーダーは「組織の息継ぎ」として、引き継ぎを有意義な期間と考えてみてはいかがでしょうか。
これから仕事を引き継ぐ方も、4月から新たな気持ちで仕事に臨む方も、気持ちの良い引き継ぎをしていきたいですね!
photo credit: Franck Vervial via photopin cc
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