あのチームのコラボ術
出口治明社長も太鼓判!? 現場ドリブンなプロ集団が作るライフネット生命の共感チーム
「あのチームは、どんなツールを使って、どんな風に仕事をしているんだろう?」を探る本コーナー。今回はライフネット生命保険。2012年3月15日にネット生保として初の上場を果たした公開企業なのに、被保険者の加入プランをハトに選ばせたり、ワイルドな(スギちゃん風の)出口社長が出てきたり……。その計算し尽くされたギャグセンス、もといマーケティングは目を見張るものがあります。
ライフネット生命の取り組みを知った人の多くはその姿に共感し、ファンに変わっていきます。こうした仕掛けを次々と打ち出していく裏には、ライフネット生命のチームワークにあるのではと思っていました。そこでサイボウズ式編集部が、常務取締役の中田華寿子さんに話を聞いてみました。
成長のフェーズに応じて、機動的にチームを編成
まず、チームはどのようなメンバーで構成されていますか?
マーケティング部は大きく4つのチームに分かれています。それぞれ広報PRチーム、PC・携帯・スマートフォン向けのサイト制作運営をするWebチーム、提携先の保険代理店の管理を行うチャネル開拓チーム、広告調査等担当の4つです。チームは成長のフェーズにあわせて、一番戦いやすいように変わります。メンバーだけでなくリーダーが替わることもあります。例えば、サイト制作のメンバーだった人がその実直な働きぶりを認められ、今は広報PRチームで活躍しています。将来、広告担当に戻った時、培ったPR的な視点が生きると思ったのです。
機動的にチームを変えていく理由は何でしょうか?
実績のある大手企業の場合、成功・失敗体験を多く積んだことで、ある程度チーム編成の定石が固まってきます。しかしライフネット生命は成長を続けており、月間契約件数は創業当時の300件から8000件と急速に伸びています。会社の急成長にあわせて、チームも施策も柔軟に変えていかないといけないと思っているんです。
チームのみなさんは柔軟に対応し、チームワークを育んでいくことが求められますね。
そうですね。柔軟にチームを編成できるのは、バックグラウンドの異なるプロが集まっているからです。全員が異なる視点から物事を見て、お互いをバックアップする意識を持っています。 マーケティング部は生命保険業界だけでなく、スポーツマーケティング、大手ポータルサイトの出身者などの中途採用社で占められています。私自身もスターバックス出身だったりします
これまでどういう時に、どうチーム編成を変えてきたのでしょうか?
私が入社した創業1カ月前の2008年4月は、メンバー全員がマネジャークラスのチームでした。コンセプトや販売戦略はコンサルタント出身、Webでの売り方はWebチーム、保険代理店への売り方はチャネル開拓チームというように、スペシャリストが縦割りで業務を担当していましたが、今ではメンバーの専門性を超えて、それぞれの知恵を惜しみなく出し合い、知らない知識は借りて前に進もうという意識に変わっています。
スピード感と決断力が生み出したライフネット生命のプロモーション
現場ではどのように施策を展開していますか?
企画の承認をもらうための準備に時間をかけたりせず、従来のマーケティングとは異なるスピード感を持って決断していることが特徴ですね。 インターネット業界やWebテクノロジーがすごいスピードで変化しているので、1年先の計画はあってないようなものです、たとえ同じ施策でも、1年前と今、1年後ではやり方も受け取られ方も違うはずと考えているからです。
上場のタイミングで展開された他社との共同キャンペーンは非常に話題になりました。
はい、おかげさまで。「ライフネット生命×Webクリエイター」は、当社と今をときめくWebクリエイター5社との共同プロモーションです。企画が動き出してからわずか3週間でリリースしました。早いですよね。 きっかけは、副社長の岩瀬が各社の経営者と知り合いだったことです。ライフネット生命の上場を祝う形で、各社から「協力するよ、アイデア出すよ」と言っていただいたのが企画のスタート。そこから当社のWeb広告担当スタッフが各社のハブとなって、企画を実現させました。
マーケティングの企画は現場に任せられているのですね。出口社長は関与したりしますか?
創業当初は、Webサイトの構成やSEOなどにもいろいろと意見を出していましたが、試行錯誤の結果、今は現場に任せてくれるようになりました。例えばデイリーポータルZさんのハト企画も現場が形にしたもので、出口本人はよく分からずにキャスティングされていたようです(笑)。結果的にこの企画からもかなりの新規契約につながりました。
現場主導なのですね。ちなみに出口社長はTwitterを積極活用していらっしゃいますが、これも現場からの提案だったとか。
最初は社員が出口のTwitterアカウントを作り、1日3ツイートを投稿するように依頼しましたが、今では出口が毎日、自由自在につぶやいています。Twitterは、ライフネット生命がサービスを届けたい20代の人たちとのコミュニケーションを仲介するものであり、誰よりも出口本人が楽しんでつぶやいているようです。 自分が納得していることだけではうまくいかないことを知り、「現場の力を信じてみよう」という考え方に変わっていったのでしょう。その「任せる」という空気を現場が感じ、社員はライフネット生命の理念を形にしてお客様にお届けするべく頑張っています。
ツールよりも、リアルな対面を重視する理由
社内ではどんなコミュニケーションが取られていますか
生命保険をインターネット販売に特化し、その分保険料を抑えて提供するのがライフネット生命のビジネスモデルですが、社員同士はWeb上のツール以上にリアルでのコミュニケーションを大切にしています。 マーケティング部社員の多くは業務が落ち着いた夜によく集まります。マーケティングの話題だけでなく、他社の情報から社会の動き、世間話などいろんな話をして、自社の立ち位置や存在価値を確認し合っています。この会話によって、社員同士の興味関心や得意分野が分かります。仕事で何かをやることになった時に、「あの人はこの話が詳しかったから聞いてみよう」となるんです。デイリーポータルZさんとのコラボも、リアルな会話でアイデアを共有していたからこそ生まれたのです。
ITツールはあまり使われていないのでしょうか?
もちろん、メールやメーリングリストを使ってノウハウを共有したり、社内SNSで部活動の連絡をしたりしています。でも、ワクワクする企画が生まれるのは会話によるものが多いですね。 当社の3階には社員やお客様が入れるコミュニケーションスペースがあります。ゆったりとした音楽が流れていて、部署や職種を問わず多くの人が、オン・オフを問わず議論を交わしています。社員が社長や副社長、役員と話す機会も多いですし、新人でも企画のミーティングを開けます。一方で、情報のログの蓄積・共有は、これからの課題かもしれません。
やわらかめ、それともかため? マーケティングの絶妙な舵取り
ライフネット生命×Webクリエイターのようなやわらかい施策と、そのほかのかたい施策のバランスはどう取っていますか?
メディアの使い分けとコンテンツのトーンアンドマナーは、特に意識しています。潜在顧客のアテンション獲得に向けたおもしろい施策は、自社以外のメディアを活用します。一方、自社サイトは実際に生命保険を検討する方がいらっしゃるサイトです。その要望に応えることを主眼としており、おちゃらけたことは一切しない方針です。
そのギャップに驚くほどです(笑)
やわらかい施策は、「おもしろいね!」と思ってもらうだけで十分かなと。生命保険って常にニーズが顕在化している商材ではないんです。でも結婚して、出産して生命保険について考えるようになった時に、ライフネット生命を思い浮かべてほしいと思っています
それでも、ライフネット生命ほど突き抜けたキャンペーンができる企業は多くないですよね。
開業当初は、新聞広告を打って資料請求につなげたり、こちらから電話をかけたりしようとも考えましたが、人は型通りの施策では簡単に動きません。それよりも小さい共感を積み重ねてライフネット生命のファンになってもらうことの方が大切だと気づいたのです。 ただ、何が共感されるのかはやってみないと分かりません。チャレンジを繰り返すことが大事です。通称切り込み隊長のやまもといちろうさんと出口の対談、格闘技イベントでのロゴプレイスメントなど、本当にいろんなことをやってきました。「ライフネット生命っていいね」って思ってもらえるようになったのは、それらが結実しているのでしょう。Web施策に対する反響は申し込み件数などの数字ですぐに分かるので、「まずはやってみる」。その結果を検証し、想定と違う効果が出た時は、そこで学びを得ればいいんです。これまでの保険会社とは異なる戦い方で、他社がやりたがらない施策を考え、チームを超えて有機的に展開することに注力しています。
強みを生かし、弱みを認める。
ライフネット生命保険にとって、チームワークとは何かを教えてください。
一言でいうと多様性かなと思います。出口がよく「石垣」の話をするんです。「強い石垣を作るにはでこぼこの石を積み上げ、その隙間に小さい石を組み合わせて作るのが良い」と。 ライフネット生命のチームワークの強みは、お互いが尊敬し合い、強みを生かし、弱みを認められることなのだと思います。誰かの弱みは誰かの強みなので、補強し合えばいい。一人ひとりは荒削りだけど、短所を直そうとすると石は丸く、小さく、同じ形になってしまいます。だから、多様性を積み上げて、ライフネット生命という石垣を作ろうとしています。 思えば、前職のスターバックスでも、スタッフの個性を一番大事にしてきました。会社の規模にかかわらず、それは同じなんですよね。将来ライフネット生命が大きくなっても、互いの個性と多様性を尊重して、強いチームにしていく。それがライフネット生命流のチームワーク だと思います。
取材:藤村能光、岡徳之、写真撮影:本田 正浩
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