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米を食うまでがこんなに大変とは──コデラ総研 家庭部(24)
テクニカルライター/コラムニストの小寺信良さんによる「techな人が家事、子育てをすると」というテーマの連載(隔週木曜日)の第24回(これまでの連載一覧)。今回のお題は「米を食うまでがこんなに大変とは」。
文・写真:小寺 信良
料理というのは、家事の中でも花形だ。掃除や洗濯は1日おきでも怒られないが、三度三度の食事はそういうわけにはいかない。そして家族が揃う瞬間を演出する、大切な機会でもある。
当然、家族に美味しい食事を提供することは、家事を担うものの喜びでもある。だから日々の料理に手が抜けない毎日なのであるが、案外お米というのは、主食でありながらあんまり気にしていないのではないだろうか。
生米はスーパーやドラッグストアに行けば、いくつかの産地、あるいはいくつかの品種が簡単に手に入る。水で研ぎ、炊飯器に入れればあとは自動でそこそこおいしく炊きあがる。急ぐときはパックのごはんをレンジで温めれば、2分で食べられる。「作ってくれた農家の皆さんに感謝して米の一粒まで」という教育も、遠い昔のことになりつつある。
うちの実家では、代々田んぼを農家の方に貸していて、その代わりにお米をもらっている。先日夏休みに帰省した折も、30kg入の米袋6つ、もらってきたばかりだ。まだ精米されておらず、籾のままである。こっちでもそれを食べたらおいしかろうということで、1袋送ってもらった。
ところが、である。近所にはコイン精米所もあるし、町内に仲のいいお米屋さんもあるのですっかり油断していたのだが、実は関東には、籾から精米してくれる設備がほとんどないということが分かった。コイン精米所は玄米からしか対応せず、お米屋さんも籾からの精米はできないという。
うちの実家の宮崎県には、籾から精米できるコイン精米所がそこそこあるので、全国的でもそんなものかと思っていたのだが、米は籾のままで保存する地域と、玄米で保存する地域に分かれているのだそうである。イセキのサイトで、保存方法の分布が分かる。関東地方では茨城、山梨以外は玄米保存が主流なので、農家のほうで籾すりまでやってしまうため、お米屋さんでも籾すりの必要がないということらしい。
実は何も知らずに小型の家庭用精米機を購入して待っていたのだが、これも玄米からしかできないので、籾のままではどうにもならない。どうにかして、籾すりをやる必要が出てきた。
なかなか玄米にもならない
籾すりについて調べたところ、小学校で教育のために稲作をするところもそこそこあって、実習として籾すりの方法がいろいろ紹介してあった。それによれば、一升瓶に米を入れて棒で突く方法、すり鉢に米を入れて、軟式の野球のボールを使って擦り上げる方法などがあった。
だがどの方法も、1合の籾すりをするのに1時間ぐらいかかるという。さすがに毎日1時間かけて籾すりをする気力はない。そもそも家庭用のもみすり機というのは本当にないのか調べてみたところ、米の水分試験用としてハンドルタイプのもみすり器というのがあることが分かった(写真1)。Amazonで3,800円。
恐らく少量だとは思ったが、どんなものだろうと思って注文してみた。見た目は小型のハンドル式エンピツ削りみたいな感じで、中にゴム製のローラーが入っている。このローラーと内壁の狭い隙間を籾が通るときに、こすれて籾殻が取れる、というしくみのようだ(写真2)。
上下対称に作られているのは、1度通過しただけではだめで、上下にひっくり返しながら何度もこする必要があるからのようである。ようである、とはっきりしないのは、説明書も何にも入ってないので、もう使い方なんて当たり前に知ってるでしょ、というレベルのプロの道具だからである。
実際に使ってみたが、一度に入れられる米の量は大さじ1杯分程度。1合を玄米にするためには、10回以上やらないとダメだ。まあやること自体は簡単なので、根気よくやれば終わるのだが、問題はその先である。
できあがったものは、籾殻と玄米が混じっているので、それを分離しなければならない。トレイの上に米を落としながら風を送ると、軽い籾殻だけ飛んでいくので、原理的にはそれで分離できる。だが、それを家の中のどこでやれるというのだ。もんのっすごい籾殻が散らかることは目に見えている。一応玄関前でやってみたものの、入れた籾とほぼ同じ体積の籾殻が出るので、掃除も大変だ(写真3)。
さらには、きれいに籾殻と分離できなかった、頑丈な籾もまだ残っている。これをより分けてまたもみすり器にかけるわけだが、その米粒ひとつひとつを分離するのは、相当な根気仕事である。
とりあえず一度最後までやってみよう、ということで娘と二人で休日にやってみたのだが、1合の米を食うのに半日かかるのでは、とてもやってられない。しかもこれが、米袋丸々1個分あるのだ。どうすんだ、これ。(つづく)
本連載では、読者の皆さんからの、ご意見、ご質問、とりあげて欲しいトピックなどを、広く募集しています。編集部、または担当編集の風穴まで、お気軽にお寄せください。(編集部)
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