「グアム旅行(仮)」の仮がとれるまで――「人事部感動課」流 1人で400人を巻き込む社員旅行の作り方
サイボウズ人事部「感動課」の福西です。2014年、サイボウズでは10年ぶりぐらいに社員旅行がありました。東京、大阪、松山と複数拠点に散らばる400人以上が、北海道、東京、グアムという別の場所を自由に選び、それぞれの場所で合同お食事会をする「選択型の社員旅行」です。
「社員旅行やるなら下見しましょうか?」――この一言で参加者だった自分が一転して企画担当者となり、4つのプランの旅行を作っていきました。そのプロセスを振り返りながら、1人で400人規模を巻き込む企画を回すコツを伝えます。ちなみに感動課って何よ? と一瞬でも思った方は『感動課の不思議な毎日』をどうぞ。
(後編:『Q「成功のコツは?」、A「全要望を叶えようとしないと割り切った」――人事部感動課、400人級の社員旅行を振り返る』に続きます。
「サイボウズっぽい」社員旅行。はじまりは、突然に
2014年、サイボウズでは10年ぶりくらいに社員旅行がありました。その前の社員旅行は「ぐらい」というほど前のことで記憶も定かではありませんし、当時を知る社員もだいぶ少なくなっているはずです。
2013年はクラウドサービス「cybozu.com」に注力する目標のもと「cybozu.com 一点突破」というスローガンで全社一致団結を図ろうとしていました。そんな時のこと。
青野さん、目標を達成したら何かごほうびが欲しいです
笑顔が冨永愛に似ている営業マンがひとつの提案を社長に投げかけました。社長に向かってそんなことを言う社員がいるなら、「それなら」と特別賞与を作ってしまう社長も社長です。ただちにうん千万円の予算が確保されました。
「ノリがよく、新しい挑戦に賛同してくれる」「ちゃんと決まっていなくても許してくれる」といういい意味でのサイボウズっぽさ(=企業文化)が、社員旅行企画の始まりとなったのです。
その特別賞与が「グアム旅行(仮)」と呼ばれるようになったのは、1か月後。月に一度の全社ミーティングで副社長の山田が、社員旅行を計画していることを発表しました。
僕からすると「おぉー、久しぶりやん!社員旅行なんて」って感じでした。そこで山田さんに話しかけてみました。
いいですね、久々の社員旅行。もし行くなら、下見とか手伝いますよ
そうやなー、手伝ってくれるなら企画からやってよ
はい…、僕で良ければ
「下見とか手伝いますよ」
その一言で僕の立場は一般参加者から、「代表取締役参加者?」に変わりました。ほんの数秒の会話が、これから始まる壮絶な「サイボウズ流社員旅行企画」のプロローグになろうとは、知る由もありませんでした。はじまりはいつも突然に、です。
「ぱーっとお金を使うこと」だけ考える
年は明けて2014年。売上目標を見事達成したことで、超久しぶりの社員旅行(元特別賞与)が実施されることになったのです。諸々の仕事を急ピッチで終わらせ、社員旅行の準備にとりかかりました。
この時点で決まっていたのはたったの2点。
・「うん千万円」の予算
・「選択型社員旅行」にしたい
本当にこれだけだったんですよ。念のため、副社長には確認したんですけどね。
この旅行の企画を感動課としてやりますが、感動するものにしたいとかあるんでしょうか?
これはごほうびやから、ぱぁーっと使ったらええと思うねん
このやりとりでハラをくくりました。「ぱーっとお金を使うこと」だけを考えて社員旅行を企画しようと。色々考えたらブレますから、シンプルに考えるようにしたんです。
昔ながらの旅行をやめ、社員選択型にしてみた
「選択型社員旅行」は、この企画の条件の1つでした。これはある程度しぼった候補から、行きたい旅行を各自が選択するプランです。全員で決められた日に決められた場所に行く「昔ながらの」社員旅行とは結構違います。
だから運営側としては「いつ、どこに行きます、全員参加なので各自で仕事を調整して参加してください。以上」という強引な進め方じゃダメなんです。各自の多様性を許容しながら、全員で売上達成を祝うという趣旨を、いいあんばいで伝えないといけません。
「行き先」「日程」に加え、「旅行をしない」場合のプランも事前に用意しておかないといけませんでした。詳細を詰めるために、400人以上の全従業員にアンケートをしました。「海外旅行、国内旅行、食事会、パス。この4パターンなら、どれを選びますか? また旅行の場合、いつくらいがいいですか?」――結果はこんな感じでした。
海外 130名
国内 75名
食事 99名
パス 68名
1対400――企画を一人で手がけ、社員を巻き込むこと
そうなんです。結局、この社員旅行企画はほぼすべて、自分ひとりでやりました。
こういった大規模イベントを企画する際にきついのは、さまざまな要望と闘わないといけないことです。アンケートには「ここに行きたい」「これは嫌だ」「旅行よりお金が欲しい」など、さまざまな要望が書かれます。
アンケート開始から数時間、ひっきりなしに通知が飛んでくる感じです。いわば「1対400で意見を受け止めないといけない」状態で、結構つらかった……。このとき、僕は確信しました。「とんでもないことに首を突っ込んでいる」と。
みなさんの意見を聞きながら落とし所を考えていく。これが一番の肝だと思います。ポイントは、どんなささいなことでもきちんと説明できるよう判断していたということです。結構みなさん好き勝手言ってきますので、攻略が難航しました。それこそオーガスタのグリーン並みですよ。自分の好みでなんとなく決める。これだけはやってはダメです。あとで周囲に説明できないですからね。
あまりいろいろなことを考えずにシンプルに判断する、大勢で楽しむ、決断に対しては公明正大でいるということ。このあたりが大切になってくると思います。
一般参加者として、すべての過程を共有しながら企画
アンケートの結果を持って某旅行代理店に向かい、「社員がこれだけいること」「予算がいくらあること」「これでグアムにいけるのか」――。決まっていることはすべて伝えましたが、一瞬で終わりました。本当にそれしか決まっていなかったからです。
この企画が始まったのもサイボウズっぽかったものですから、企画の内容から準備まで、すべてをサイボウズっぽくやろうと思っていました。その1つが情報をフルオープンにすることでした。僕は一般参加者でもありましたので、準備内容を全部公開して進めようと考えていました。
何も知らない僕は、交渉を通じて少しずつ勉強していきます。社員旅行には団体窓口があることなど、行動しながら学ぶ感じでした。2プランの旅行と食事会、そして記念品……。計4プランを並行して進めないといけません。どのプランも、何一つとして手は抜けません。
何社かの旅行代理店に候補や見積もりをお願いしました。伝えた内容は「開催時期」「参加者数」「基本的には自由行動で、一回だけ合同で食事会をする」この3つだけ。その後。こんな感じで詳細が決定しました。
3月週末+1日 | 国内旅行 | 北海道が有力 |
4月週末+1日 | 海外旅行 | 金土日 or 土日月 行き先は、グアムかサイパンかマカオ。予算的に、ハワイは無理でした。 |
3-5月平日 | 食事会 | 夜にご飯だけか日帰りバスツアー |
6月 | 記念品 | キャンセルも加味して一番最後に |
「一回だけ合同で食事会をする」。これをルールと決めたのがよかったです。「選択型の社員旅行」で始まった本企画。要望をあれこれ聞いて落としどころを決めるうちに、これは「社員旅行」ではなく「合同お食事会」だと思い、ネーミングを変えました。後から振り返ると、このコンセプトの変更が全体的にサイボウズらしい社員旅行につながった気がします。
合同で一回お食事会をするだけが決まっていて、後は自由時間となるので、幹事もお食事会の企画・運営だけに集中できますし、逆に、参加者は自分で自由時間に何をするかを選択できるようになります。この一見ゆるく見える絶妙なバランスがサイボウズ流です。
悩んでいた記念品は食べ物に決まりました。これもある意味お食事会です。コンセプトを決めるのは大事ですね。
グアム旅行(仮)の仮がとれた日
ここまでをまとめます。社員旅行企画のように初めてのイベント運営に取り組む場合は、「知見がない」という前提を常に意識しながら、柔軟な態度で物事を進めていくことが大切だと思いました。
あとは気張らずというか、無理をしないこと。常に社員の誰かの顔を思い浮かべながら、「この人やったらこういうふうにすると喜ぶ」と想像した上で、無茶ではなく無難な判断を積み重ねていきました。そういえばこのころ、より家族にも参加してもらいやすいようにと「家族割り」も始めました(一定の条件で家族分も負担するというものです)。
そんな感じで、福利厚生費などを勘案しながら、予算内でグアムにいける希望が出てきました。ようやくですが企画の全容が見えてきました。まだまだ道の半ばどころか10分の1も行っていませんが、ようやくグアム旅行(仮)の仮がとれた感じです。
※後編:『Q「成功のコツは?」、A「全要望を叶えようとしないと割り切った」――人事部感動課、400人級の社員旅行を振り返る』に続きます。
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