NewsPicksとサイボウズ式の新たな取り組み、9月に始めます
経済に特化したソーシャル経済ニュースメディア「NewsPicks」。2013年9月のリリース後、他のニュースキュレーションサービスと差別化した「経済特化型」の切り口や、著名人や専門家による記事へのコメントなどが支持され、ビジネスパーソンを中心にユーザーを広く獲得しています。
そんなNewsPicksとサイボウズ式がコラボレーションし、NewsPicks内でオリジナルコンテンツをお届けすることになりました。オンラインメディアにとって新たなチャレンジとなるこの取り組みを開始するにあたり、サイボウズ式の大槻編集長がNewsPicksを提供する株式会社ユーザベース社長の梅田優祐さん、NewsPicks編集長の佐々木紀彦さんにお話を伺いました。
(編集部追記:コラボ企画「Hot Topics」が始まりました。第1回の記事は「経営学は経営の役に立つのか:第1回 商売の成功は、理屈2割、気合8割」です。)
NewsPicksは「発見の欲求」と「理解の欲求」を満たすメディア
法人向けの企業・業界情報データベースサービス「SPEEDA」を主力事業としてきた御社ですが、経済ニュースメディア「NewsPicks」を提供しようと決めたきっかけは何でしたか。
実は創業当時から「世界一の経済メディアを作ること」をミッションに掲げていましたのでニュースは必ずいつか手掛けるべき領域だと考えていました。そこでまずは、スタートとしてコンサルタントやアナリストが使う、法人向けのSPEEDAの提供を始めました。そして、SPEEDA事業が順調に推移するようになり、経済メディアに進出するタイミングがいよいよ来たなと。
そうだったんですね。 メディアの形態にもいろいろありますが、とくに意識したことは何ですか。
ビジネスパーソンが最もよく接するビジネス系コンテンツといえばニュースです。ただ、「GPIFや四半期開示、社外取締役導入の有無」など、単に事実や用語だけが伝わっても読者は理解できず困っているのではと考えていました。もっと経済を深く知りたいという欲求が満たされていないのではないか、そもそも出会いたいニュースに出会えていないのではないかと。
NewsPicksでは「発見の欲求」と「理解の欲求」のふたつを満たしたいと考えています。コンサルタント時代に感じたのですが、たとえば、M&Aのニュースが報道され、社内がザワつくのを見ると「これは大きい案件なんだ」「スゴいことなんだ」と理解が進みますよね。さらに、隣に座る同僚が解説をし始めると、より理解が深まるはず。尊敬する先輩から「これ読んでおきなよ」と言われたら、それは自分にとって重要なニュースなわけです。NewsPicksでは、自分のデスク周辺で起こる反応をネット上で再現し、読者の発見と理解の欲求を満たせたらなと思いました。
7月にNewsPicks編集長に就任した佐々木さんは、以前は“外”(東洋経済オンライン編集長)の立場としてNewsPicksをどう見ていましたか。
私がNewsPicksを使い始めたのは、自分が執筆・編集した記事に対してどのような反響があるか、書き手・編集者として確かめるためでした。読者の声を聞くマーケティングツールとして、ニュースを読むというよりも、付いたコメントを読んでいましたね。
当初はツールとして見ていて、次第にどんな変化がありましたか。
仕組み自体が面白いなと感じていましたし、もともとキュレーションメディアをやりたいと思っていたのです。ただし、キュレーションだけではなく、キュレーションとオリジナルコンテンツとの組み合わせをやりたいなと。
ユナイテッドアローズ、ビームスなどのセレクトショップや、セブンイレブンやローソンなどのコンビニの商品も、プライベートブランドと他ブランドの商品とで構成されていますよね。同じことをニュースメディアで実現したいなと思ったのです。また、既存のブランド力があるメディアよりも、NewsPicksに魅力を感じたのは、プラットフォームとメディアを両方持っているところでした。
確かにユーザーにとってベストなものを提供できている実感はあります。佐々木が東洋経済新報社に所属していたとき、「プラティッシャー」(コンテンツ製作者であるパブリッシャーが、コンテンツ流通者であるプラットフォームの位置に寄っていくこと)について言及しているのを見て、私たちと目指しているところは同じだなと感じました。当時は会社同士で何か取り組みができないかと話していましたね。
PickerによるPickerのための新企画を
さて、今回の取り組みに到った経緯についても振り返ってみましょうか。事の発端は、ブロガーのイケダハヤトさんが執筆したネイティブ広告に関する記事内で「サイボウズ式とNewsPicksの相性はよさそう」と言及していたことでした。その後、私がFacebookでおふたりに呼びかけたところ、梅田さんからお返事いただいて、今回のNewsPicks×サイボウズ式の取り組みが生まれました。
そうですね。
今回一緒にやらせていただくのは「スポンサードランニングストーリー」という連載形式のもので、コーナー名を「Hot Topics」といいます。テレビでいうところの番組提供のような形で、コンテンツは広告主と直接関わりがあるものとは限りませんが、広告主と一緒にブランドイメージに沿った内容で提供します。
NewsPicks内で話題になったトピックを深堀りしてお届けします。以前、大きな注目を集めたのが堀江貴文さんの記事「コンビニ居酒屋という新しいビジネスモデル」でした。記事を読んだ学者の先生方が「これはビジネスモデルではない」などとコメントしていたのに対し、堀江さんが自身のブログで反論記事を書いており、一連の流れを見て面白いなと感じていました。
そこで第1回目は「経営学は経営の役に立つのか」とのテーマで、一橋大学大学院の楠木建教授に執筆していただきます。NewsPicksのコメント欄は1人1回しか書けないため、炎上が起きないというプラスの側面がある一方、よりニュースを深堀りしたい人のニーズには応えづらい。私たち編集部としては、対立を煽りたいわけではなく、ユーザーに各論者が語る異なる視点にふれてもらい、物の見方を広げてほしいと思っています。
確かに皆がコメントでツッコミを入れていても、自分たちでは調べられずにモヤモヤしたままで終わる内容の記事もありますよね。ツッコミの先がないといいますか。
これがもしテレビのような感情的なメディアだと、声の強い人が勝つように見えますけどね。
時間的な制約もありますし。
おっしゃるとおりです。リアルな討論もいいですが、文字で議論するのがいいなと。昔の論壇誌『文藝春秋』『諸君!』(2009年休刊)などでは議論がなされていましたが、今では同じイデオロギーの人同士で集まるようになった印象です。NewsPicksは多様な言論が集まる場として育てたいですね。
脊髄反射的ではない“間”のとり方、距離感が絶妙。有意義な議論が生まれそうです。
私たちモデレーターとして間に入ることで、良質な議論ができる場になると思います。しかもありがたいことに、そこにサイボウズ式というスポンサーまで現れて(笑)
SNSならではの双方向性を感じさせる、UGC(ユーザー・ジェネレーテッド・コンテンツ)モデルですよね。最初にご提案いただいたのは、普通によくある広告企画でした。しかし私にはピンときませんでした。「あれ? 普通の広告だぞ」と(笑)
打ち合わせの直前に拝見した「"ニュースに対して、誰がどんな反応をするか"に価値を置く世界観をつくる」という記事が頭の中にあったので、企画についておふたりと話し合うなかで、逆に「Picker(NewsPicksユーザーで、自身が関心のある記事にコメントをする人)さんにさらに楽しんでもらえるようなコンテンツを編集部で作ったらおもしろいのではないか?」と今回のアイデアが生まれました。ありがとうございます。
むしろこちらこそ、ありがとうございます(笑)。NewsPicksらしい広告とは何なのか、まずは実験していきたかったのです。私たちの新たな挑戦に賛同してくださるパートナーと、試行錯誤しながら取り組んでいきたいと話しましたよね。
大槻さんはNewsPicksのユーザーでもあります。だからこそ、NewsPicksの本質的な価値についても、使っていただきながら見出していただけたのかと。実は今回の取り組みを始める前に、いかに効果を出すかがずっと気になっていました。ただ、効果云々よりも「まずは面白いことをしよう」と言っていただけたのはうれしかったです。
効果を求めすぎてしまうと、新しいことにチャレンジするのは難しくなりますからね。広告に興味がないんです。NewsPicksのユーザーさんと一緒に何かに取り組みながら、一体感を生み出していくことに私は興味があります。
ニュースは料理。“美味しい”と良質な人やコメントが集まる場に
今回の取り組みを進めていく中で、ニュースメディア各社を私なりに図で整理してみました。NewsPicksはUGC(User Genarated Content:ユーザーによって作られたコンテンツ)の位置づけです。
ユーザーのコメントがひとつの価値になっていること、ジャンルを経済に絞っているため熱量があり、質の高いコメントが集まっていることを考えると、ジャンルは違いますが「ニコニコ動画」に近いポジションなのかなと。
私たちとの今回の取り組みに限らず、ユーザーと連動したコンテンツを作りやすいのではと思います。ただ、ああいう図を書いてみて思ったのですが、ニュースはコモディティ化しているのでしょうか。
コモディティ化しているとは思いません。ニュースはやはり全ての根幹であり続けると思います。やみくもにパートナーを増やすのではなく、同じゴールに向かっていけるコンテンツプロバイダとパートナーシップをがっちり組むことが重要かと。
集まるユーザーやコメントは重要なコンテンツです。ニュースは中心にありますが、それだけがコンテンツではありません。喩えて言うなら、レストランでいう料理のようなものだと思います。美味しければ美味しいほど多くの人が集まりますし、会話も弾みますよね。日本はニュースであふれていますが、良質なニュースが集まっているとはいえないと感じます。
良質なニュースとは具体的にどのようなニュースを指しますか。
たとえば、誰かが調べない限り、表に出てこなかったようなニュースはいちばん高度です。ただ、こうした調査報道的なニュースはあまりありません。現状は速報性で価値を持つニュースが大半です。良質なニュースには、新しい事実か、新しい意見(視点、切り口)か、新しい表現手段が含まれています――自戒も込めていうと、日本はまだこれらが弱いと感じます。
ニュースの質を上げるためには、どのような取り組みを行うつもりですか。
このまま実直にやっていくしかありません。とくに、データをどう綺麗に見せるかについては、海外メディアから学んでいきたいですね。インフォグラフィックの専門家と一緒に働くという選択肢もあると思います。コンテンツの内容としては海外の最先端の情報は欲しいです。特派員が現地でとってくる情報は限られますから、日本人が知っておくべき情報を迅速に翻訳できる仕組みを整えたい。今回、出資を受けた講談社が発行している情報誌『クーリエ・ジャポン』のような取り組みをビジネス分野にも広げていきたいです。
正直なところ、問題意識はあっても解がないのが現状。社内のメンバーで議論し合いながら、NewsPicksを最適化したコンテンツとは何か、試行錯誤し続けるしかないのです。だからこそ、編集部が社内に必要だと思っていました。
大手紙のエース記者に話を聞くと、以前に比べて「社内官僚」が増えているそうです。極端に言えば、日本のジャーナリストには、ジャーナリストとして書きたいことを書くか、官僚になって社内政治に励み出世するかといった、ふたつのキャリアパスしかありません。残念なことに、外部から評価されて引っ張られる構造がないのです。実力のある書き手がたくさんいるのに、力を発揮できる環境がなくてもったいない。良質なニュースを作るのは個人。NewsPicksを様々な書き手が活躍できる場にしていきたいです。
NewsPicksは“個”に焦点を当てたサービスだと理解しています。記事の書き手に限らず、Pickerからも羽ばたく人が出てくることを期待したいです。
【補足】『ViVi』の配信はありません
最後に、NewsPicks編集部のこれからについて教えてください。
現在は、海外からニュースを持ってくることもありますが、やはり中心にあるのは編集者・記者としてコンテンツを作ること。編集者として独自の連載記事やコンテンツを作り、記者として記事を執筆するのが主な業務です。新たにPickerを発掘することもあります。今のところ、体制としては10人くらいでやっています。しっかり収益を上げて、早く100人体制にもっていきたいです。
そういえば9月1日に、伊藤忠テクノロジーベンチャーズや講談社など9社から資金調達したと報道されました。私が気になったのが、日経電子版で「将来は『ViVi』など女性誌のコンテンツを提供することも含め〜」と書かれていたこと。「えっ、まさかの『ViVi』!?」と驚きました。
あれは誤報です(笑)この場を借りて否定しておきます!
当面はビジネス寄りのコンテンツを提供する予定ですよね(笑)
はい。ただ、新たな動きとして、NewsPicksで作ったコンテンツを書籍化するといった取り組みも、出版社の力を借りながら進んでいます。このほかにも現在、新たな改善事項として考えているのは、ユーザーの「コメントの発見欲求」を満たすこと。コメントが膨大にあるだけでは意味がありません。ユーザーの見たいコメントが上位に表示されるような仕組みに整えることが次の課題です。日本のITベンチャーでは増資額の大きさが話題になりやすいですが、私たちは良質なサービスを地道に作っていくことに今後も注力していきたいです。
ありがとうございました。9月にスタートする「Hot Topics」、楽しみです!
変更履歴:2014年9月22日:公開時のタイトル「NewsPicksとサイボウズ式の新たな取り組み、9月22日に始めます」を、「NewsPicksとサイボウズ式の新たな取り組み、9月に始めます」と変更しました。コラボ企画の開始は9月中を予定しています。
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