特技を活かしてPTAの負担を減らす──コデラ総研 家庭部(46)

テクニカルライター/コラムニストの小寺信良さんによる「techな人が家事、子育てをすると」というテーマの連載(ほぼ隔週木曜日)の第46回(これまでの連載一覧)。今回のお題は「特技を活かしてPTAの負担を減らす」。

文:小寺 信良
写真:風穴 江(「tech@サイボウズ式」編集部)

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PTAの広報紙をカラー化するにあたり、出版社からは従来のモノクロ印刷の3倍の見積もりが返ってきた。カラーになるとやっぱり高いのね、と普通の人なら思うところだろうが、今どき業者に頼む出版物でカラー以外のほうが珍しい。近所の自治会や川を守る会のような団体でさえ、日常的にカラー印刷の掲示物を発注していることを考えれば、そんなに高いわけがない。

すでに広報予算が決まってしまった中でカラー化へ動き出したため、予算的には従来のモノクロ印刷分しかない。つまり、「お値段据え置きでカラー化する」というのが、筆者に課せられたミッションだ。

地元には、PTA広報紙のような小規模な印刷物を扱う印刷所のようなところがいくつかある。ほかの業者でも同じなのか、電話で調査してみた。すると多くは、こちらがPTAだと分かると、だいたい同じような価格を提示してきた。おそらくどのPTAでも、広報予算はある程度の額を最初から設定しており、小規模な事業者にしてみれば値切られるわけでもなく、毎年似たような発注量が延々と続くことで、かなり美味しい商売のようだ。ある事業者などは、こちらの希望予算を伝えると、「あんた素人だから教えてあげるけど、そんな値段でどこもやるとこなんかないよ」と電話口で延々15分も説教された。おもしろい。それならその値段でやってやろうじゃないか。

もちろん、こちらとしてもうかうかしていたわけではない。知人が同人誌を中心としたオフセット印刷の会社を起業していたこともあり、ネットで発注できる印刷システムがあることは知っていた。ちと遠いがいざとなればその会社に発注することを念頭にいろいろ調べていたら、「ラクスル」というネット印刷システムがあるのを見つけた。

ラクスルは2009年創業のネットベンチャーである。日本全国の印刷会社をネットワークで繋ぎ、サイトで受注した印刷物を最寄りの提携印刷会社に発注、そこから納品先へ直送するというビジネスモデルだ。「印刷業界のオープン化」を目指すというだけあって、発注の仕組みも分かりやすい。A4中とじ8ページのカラーオフセット印刷600部で、受付から8営業日仕上がりであれば、1万5500円である。

ただし、これはDTPされた原稿をデータ入稿しなければならない。PTA広報委員会にはそのようなスキルはないので、これまでは出版社にDTPから印刷までを依頼していたわけだ。逆に言えば、DTPしてくれる人を探してくれば、格安でカラー化できることになる。

DTPの外注先を探す

これまで依頼していた出版社に、印刷はなしでDTPだけ依頼できないかと打診してみたが、印刷とセットでなければ受けられないという。ならば仕方がない。こちらでDTPできる事業者を探すだけだ。

筆者は仕事柄、友人に編集者やDTPデザイナーは多い。その中で、地元に近い隣町に住むフリーの編集者に「ラクスル」のサービスを紹介しつつ打診してみたところ、快諾していただけた。編集、DTP、データ入稿まで、これまでのPTA予算のままで面倒見てくれるという。

ここまで見えてきたところで、PTA会長から横やりが入る。これまで依頼してきた出版社を変えると、学校側に迷惑がかかるのではないか、というのだ。PTAはそもそも広報紙しか付き合いがないが、学校は定期的に発注があるのかもしれないという。

そこで教頭先生に確認したところ、学校側で出版社に依頼している出版物はないという。また長年付き合いのある出版社への発注をやめることについても、了解をいただいた。それはそうだろう。公立校が特定の事業者との関係が切れないということになれば、大問題である。

PTA本部と学校の許可も取れたので、出版社に対してはメールで取り引き停止の連絡をした。返事はない。これまでも同じメールを2〜3回送らないと返事がこないような営業だったので、見ていないのかもしれない。ただまあ、この話はもう1年以上前の話で、これまで何も言ってこないところをみると、読んではいたのだろう。

5月に広報委員長を引き受けてからこうした紆余曲折の間、およそ2カ月半が経過していた。外注先の変更が正式に決定したのは、夏休みに入る直前、7月も終わろうとする頃だった。

成果もきちんと出す

その間も委員の皆さんは、それぞれ手分けして原稿の執筆を行なっていた。発注先も決まらない状況で原稿を作るのは、気が気でないことだったろうと思うが、皆さんがんばって仕上げてくれた。

取材から執筆にかけては、あえて何も口出ししなかった。以前の広報委員会では、取材にいちいち委員長副委員長が立ち会っていたようだが、一緒に付いていっても邪魔なだけなので、これもやめた。その代わり、企画会議の段階でガッチリ内容に入り込み、全員で仕上がりのイメージを固めた。テーマは何か、具体的にどこにどういう内容を取材するか、最終的な落としどころはどこか、といったことを綿密に話し合うわけだ。

これらのことは、すでに小学校からずっと学校の授業の中で何度も繰り返し教えられてきたことなので、保護者の年齢になってもなんとなく覚えているものである。さすがに文章力はその人それぞれで力量の差が出るが、それはこちらで直せばいい。内容的にはよくある学校行事レポートではなく、社会派とも言える硬派な出来となった。

編集者へ入稿し、初校は紙ではなく、PDFをメール添付でもらう形にした。これをPTA室のパソコンとプリンタで印刷し、PTA本部と学校のチェックに同時に回す。1週間後に戻ってきたら、それを合体してPDFに注釈として埋め込み、編集者に戻す。これを2〜3回ぐらい繰り返して、完成である。

従来この作業で1カ月半かかっていたのだが、半分以下の3週間で完了した。編集者が直しをすぐやってくれるので、そこでも1週間ぐらい時間短縮できている。確認作業が短縮できれば、発行日まで余裕が取れるので、印刷費が安くあがる。ラクスルでは、急ぎの印刷ほど値段が上がっていくシステムなのだ。したがって編集者は、急いでやればそれだけ利益が増えるということでもある。

最初の号の印刷仕上がりは、さすがに不安があった。どんな印刷業者に当たるのか分からないし、発行日前日に届けられるだけなので、中身をチェックしてNGだったら、刷り直ししても間に合わない。発行日に委員を集めて検品作業を行なったが、品質的には十分満足いく仕上がりであった。紙の質も1ランク上がり、しかも念願のカラー化を果たしたということで、PTAにも学校にも好評であった。

のちにこの広報紙は、県で毎年行なっている学校広報紙コンクールで入選を果たした。本校で入選したのは、数年ぶりのことだという。カラー化したからということではなく、中身の良さが評価されたものだろう。

紆余曲折ありつつも成果をきちんと出したということで、次年度の予算は4万円のプラスとなった。もっとも、従来予算のままでカラー化できたので、増分の予算は使わないことになるだろう。

印刷物というのは、身近なものではあるのだが、それを作るとなると一般の人にはなかなか分からない分野である。1年こっきりの当番のように回ってくるだけの保護者には、手に負えない部分も多い。そこに大きな無駄が生じるのは、誰も専門知識を持っていないからだ。だが誰か分かる人間が現場に入って整理すれば、大きく効率化できる部分でもある。

隣の小学校では、広報紙の発行を委員会でやるのはやめて、保護者の有志で「広報部」を作って発行しているという。つまり1年で任期交代するのではなく、慣れた人たちがずっと専門でやる体制を作ったということだ。それもひとつの方向性だろう。

方法論を固定せず、今どきの時勢に合わせながら合理化するほうが、PTA活動は苦しくならない。「誰でもできる」から、「特技を活かして負担減」が今後のトレンドになればいいと思う。(つづく


本連載では、読者の皆さんからの、ご意見、ご質問、とりあげて欲しいトピックなどを、広く募集しています。編集部、または担当編集の風穴まで、お気軽にお寄せください。(編集部)


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