tech
中土井さんは、U理論のどこに惚れ込んだのですか?
サイボウズ・ラボの西尾 泰和さんが「エンジニアの学び方」について探求していく連載の第22回(これまでの連載一覧)。U理論の伝道師、中土井 僚さんにお話を伺うシリーズ(1)です。
本連載は、「WEB+DB PRESS Vol.80」(2014年4月24日発売)に掲載された「エンジニアの学び方──効率的に知識を得て,成果に結び付ける」の続編です。(編集部)
この連載では「エンジニアの学び方」をテーマにインタビューを行い、いろいろな視点を探求していきたいと思っています。第3弾は「U理論」の翻訳や「 人と組織の問題を劇的に解決する U理論入門」(PHP研究所)の出版などをされている中土井 僚さんです。中土井さんとの対談は、昨年、前編、後編という形で一部公開されましたが、実はカットされた部分にもいろいろと面白い話がありました。そこで今回から、カットされた部分を中心に補足説明を追加した解説をしていきたいと思います。
まずは、U理論に惚れ込み、U理論を日本に普及させるために熱心に活動している中土井さんに、いったいU理論のどこに惚れ込んだのかを伺いたいと思います。
中土井さんにとって、U理論のどこが一番重要なポイントですか?
そうですね、私は元々アクセンチュア、今のアンダーセンコンサルティングでコンサルタントとして、ITを使った業務プロセス改善の仕事をしていました。いわゆるロジカルシンキングをものすごくやる仕事です。
そうだったんですね。
そうです。で、入社したばっかりの時に同期と「なんでこの会社入ったの」っていう話をしていたら、当時はまだITが注目され始めたばかりの頃だったので「ITによって業務プロセス改善とか情報共有がされると、業務が効率化されて余計な雑務から解放されて残業しなくても帰れるようになるじゃん、そういう風になるといいよね」って同期が言ったんですね。その話を聞いた時に、私は直感的に「え? より忙しくなるんじゃないの?」って思ったんです。差がなくなるから。
差がなくなるというのは、何と何の差ですか?
みんながITを使っていったら、みんな同じように業務が効率化されるから、みんなの「当たり前」のレベルが上がるだけで、競争の優位性ってより生まれづらくなりますよね。これが直感的な疑問としてあったんですよ。ただ、その同期があまりにも優秀だったのと、言いきられたこともあって反論できなかったんですね。「おかしいなあ、そうなのかなあ」っていう風に思ったんです。
なるほど。
それから、その仕事を進めていくに従って分かってきたのは、業務プロセスの改善とかIT化とかをどんどん進めていくと、できる人とできない人の差がものすごく生じてくるということ。
ITのツールを使いこなせているかどうかで格差が広がってしまうということですか?
そうですそうです、格差を感じたんですよ。私がお付き合いさせて頂いてるお客様って、社内の中でもエースの人たちだったんです。で、エースとノンエースの違いがものすごく大きく感じたわけですよ。エースの人たちは、ITを使って何が可能なのかをものすごく考えている。それに対して、ノンエースの方々はツールを使う程度になってる。「これはすごく差が開くな」って思ったのを覚えてるんですね。
ええと、まずIT導入によって「当たり前」のラインが上がり仕事の効率による競争優位性が生まれづらくなる。一方でノンエースの人はITツールを使うだけになってしまって、エースの人との差が広がる。このノンエースとエースの差とは何でしょう?
2つあるなと思っています。ひとつはアーティスティックなセンスで、自分の感性みたいなものを形にしていける能力ですね。今後、右脳的なセンスを左脳的に形にできるかどうかが重要だなと思ったのです。
差別化に重要ということですか?
そうです。差が出てくる要素のひとつめは、右脳的なセンスとして、まず直感的に芸術家的にものを見ることができるかどうか。もうひとつは、ものすごく物事を考えていることによって思考に幅広さが生まれているかどうか。
その「考える」って言ってるのは、いわゆるロジカルシンキング?
はい。まず、ロジカルシンキングじゃない右脳的なセンスの差、「人が着目しなかったところに着目できて、今までなかったアイデアを生み出していく」っていうセンスが優位性を生むだろうなと思いました。次に、仮にセンスがなかったとしても、ロジカルシンキングで人よりも一歩、二歩先を考え、それによって幅広い視野で物事を捉えられてるなら、それも優位性を生むのかなと。
ロジカルシンキングで人よりも先まで考えるというのは、将棋でいうところの読む深さが他の人よりも深いというような状況?
そうそう、まさにそれです。そういう人がすごく優位だろうな、そうじゃない人との差はすごく開くだろうなと思ったんですよ。エースの人たちはITを駆使してどんどん形を作っていくでしょう。それ以外の方々っていうのは、提供されたツールを説明どおりに使うだけ、使いこなせればいいほう。すごく差が開く。こう、漠然とした感覚として思ってたんですね。
もやもやがあったわけなんですね。
で、のちにそのU理論に出会った時に「いかに感性を研ぎ澄ますか」とか「いかに自分の中でインスピレーショナルなアイデアを生み出していくか」に関係していることに非常に可能性を感じました。自分がU理論に出会う10数年前に持っていた「感性の有無で差が開く」という仮説は当たってたんだな、と思ったのと共にそれがどうやったら高められるかをU理論が語ってくれてるっていうのがグッときたポイントでしたね。
なるほど、ITの普及によって業務プロセスが改善されると、みんなの作業効率が上がって差が縮小し、差別化のポイントが変わってくる、というわけですね。
ものに例えると分かりやすいかもしれませんね。例えば一時期、デジタルカメラは画素数の競争をしていました。画素数が高ければ高いほど、顧客の満足度も高いだろう、と考えていたわけです。ところがその競争の結果、画素数に対する顧客の満足度は飽和しました。例えば「画素数? スマホのカメラで十分だよ。むしろ撮った写真をすぐTwitterに投稿できるのが重要」という人が出るようにです。この例では「画素数」という性能が顧客の満足度に寄与しにくくなり、かわりに「Twitter投稿の手軽さ」という性能が重視されるように差別化のポイントが変わったわけです(図1)。
人間についても同様の構図が成り立ちます。ITの普及によって定型業務の作業効率が上がり、効率に対する顧客満足度が飽和し始めれば、効率の差は差別化に繋がらなくなり、別の差別化が必要になります。その差別化のひとつとして「いかにアイデアを生み出していくか」があり、それに指針を示してくれそうなところが、中土井さんにとってU理論がグッとくるポイントなのですね。(つづく)
「これを知りたい!」や「これはどう思うか?」などのご質問、ご相談を受け付けています。筆者、または担当編集の風穴まで、お気軽にお寄せください。(編集部)
謝辞:
◎Web+DB Press編集部(技術評論社)のご厚意により、本連載のタイトルを「続・エンジニアの学び方」とさせていただきました。ありがとうございました。
変更履歴:
2015年5月11日:「って思んです。」を「って思うんです。」に、「っていう風に思っんです。」を「っていう風に思ったんです。」に、それぞれ修正しました。大変失礼いたしました。
SNSシェア