会社と個人の関係は「リンク・フラット・シェア」に近づくか? 篠田真貴子×山田理 ALLIANCE対談
人と企業が信頼関係を築きながら、仕事に応じて雇用関係を結ぶことを提唱する「ALLIANCE(アライアンス)」。東京糸井重里事務所取締役CFOの篠田真貴子さんと、サイボウズの山田理 副社長 兼 サイボウズUSA社長の対談も最終回です。
アライアンスの考え方と、糸井重里さんが著書『インターネット的』で指摘した「リンク」「フラット」「シェア」の共通点について触れつつ、アライアンスに対応できる日本企業はどのくらいあるのか? そもそも日本でアライアンス的な雇用形態で働きたい人はどのくらいいるのか? に話が進んでいきます。この議論が、自分にとって理想的な働き方とはどのようなものかをあなたが考えるきっかけになるかもしれません。(「会社と個人はフラットな信頼関係を築けるのか?」「会社ってなんで続かなくちゃいけないの?」からの続きです。)
アライアンスで生まれる人と会社の関係は極めて「インターネット的」
アライアンスは、会社を強く、大きくするためのものなのでしょうか? 僕は、アライアンスはシリコンバレーのような場を作るのにすごく適していると思うのですが、単に会社を強く、大きくして長く存続させるための方法となってしまうと、ちょっと話が小さくなってつまらないですよね。
単位は会社でも、シリコンバレーでも、NPOでもいい。みんなで集まって何かを成したいという時に、賛同者が減るのはやはり悲しいですよね? 賛同者を増やす方向に持っていきたいならこういう方法を提案します、ということです。 一番大事なのは、「何かを成したい」という想い。同じ想いを持つ仲間が増えるとうれしいというのが原動力です。「私は1人でやるからいいです」だったら、そもそもアライアンスなんて不要なわけで。
昔、「ソーシャルチームワーク」という言葉を使っていたんです。同じ理想に対して、いろいろな場所で、いろいろな時間に、いろいろな働き方で、いろいろな人種や文化の人たちがチームを結成し、ワークする。しかもチームは、お金だけでなく、人やモノ、ノウハウなど、有形無形の資産でつながる、というのがソーシャルチームワークです。 例えば、仕事にがっつりコミットしたい、という人もいれば、今は子育てなどで大変だからある程度距離感をもってコミットしたい、という人もいる。一律のワークスタイルを押し付けるのではなく、そういう壁を取っ払ってあげれば、どんどん多くの人に手伝ってもらえるチャンスが増える。こうしたソーシャルチームワークを実現する時に、アライアンスは有効ですよね。
ええ。
ソーシャルチームワークやアライアンスのような会社と個人の関係って、まさに糸井重里さんが『インターネット的』という本で書かれていた「リンク」「フラット」「シェア」に近いなと感じます。
私もそう思って、アライアンスの本のまえがきにもそのことを書きました。糸井は、インターネットがもたらす様々な変化の中でも注目すべきは「リンク」「フラット」「シェア」という3つの価値観であり、それらの価値観は、むしろインターネットの外にある社会全体に豊かさをもたらす、と言っています。では、人と会社の関係にもたらす変化は? というと多分、アライアンスのようなものなのだろうと。 伝統的な価値観の企業って、組織はヒエラルキー型でフラットと逆だし、相互の関係もピラミッド構造の中で規定され、社内の人とだけ仲良くしていればよい。社内外の人と網の目のようにリンクするのではないんですよね。 個人の価値観を会社や多くの人とシェアするのではなく、会社に滅私奉公しなさいとなっていた。アライアンスによって生まれる会社と個人の関係って、まさにそれとの対比なんだなと理解しました。
なるほど。
働き方は「その時の期待のタイプ」で決めればいい
雇用する側の企業にしても、社員にどういうコミットメントの仕方をしてもらおうかと考える時に、終身雇用かアルバイトか、という両極端なイメージしかないのはもったいない気がします。会社には常に変化が必要です。その際、「変化を起こしてほしい。頼むよ」とアライアンスでいう変革型の依頼をし、約束をする、というような関係の作り方を知らない企業が多いんでしょうね。
確かに。
アライアンスでいう、ローテーション型、変革型、基盤型という分類も、あくまでその時の信頼に基づく互いの理解であって、当然、変わっていっていいものだと思うんです。 私自身、糸井重里事務所に入った時は、「糸井重里の個人事務所ではなく、きちんとした会社組織にする」というミッションを実現するための変革型社員としての役割を期待されていました。それが、今では基盤型社員へと変わってきている。
ええ。
山田さんがさっきおっしゃったソーシャルチームワークのように、例えば今は親の介護があって会社の期待に全面的に応えられないからローテーション型社員として働いて、しばらくしたら変革型なり基盤型として働きたい、というスタイルもあると思うんです。要するに「会社と社員がお互いに今、何を期待しているのか」という期待のタイプによるものだろうと。 従来の終身雇用型の雇用スタイルのように、超コミットするか、もしくはバイトや派遣かではなく、そのどちらでもない「3つめの選択肢」を、企業は明確に定義づけてこなかった。アライアンスは、それをやってみたら面白いんじゃないですか? という提案でもあります。
世の中の会社はみんな、アライアンス的な価値観に転換するべきなのですかね?
絶対こうなるべき、というものではありませんが、こういうやり方もありますよ、と。 私は会社組織のあり方は今までの日本型の終身雇用しかないと考えられているのが不満なんです。結婚だって、お見合い、恋愛、相談所からの紹介など、いろいろなスタイルがありますよね? それと同様に、新しい会社組織のあり方を考える時に、それをすくい上げる型紙の1つとして機能すればいいなと思っています。
「自立」ってどういうこと?
会社と個人がフラットな関係を構築するには、個人が「自立」している必要がありますよね。自立ってどういうことなんでしょう?
自立というのは、誰にも雇われないでフリーランスでやっていくということではないですよね。私は、「気持ちとして会社とフラットであるというところに持っていけるか」が非常に大事だと思います。会社に頼りたい、依存したい、というのでは、フラットにはなり得ませんよね。 逆に、終身雇用の名残が色濃く残っている日本の社会では、会社とフラットであろうとすると、ワガママとかチームワークができない人、という目で見られる危険もあるのかもしれない。
自立しているというのは、「選択肢を持っている」状態なんですかね。別に他にも自分を必要としてくれる場所はあるけれども、そこにいることを自ら選んでいる、という。
そういうことだと思います。
ヒトもカネも、もっと会社の外にばら撒こう
アライアンスを今の日本でやろうとした時に、対応できる会社ってどのくらいあるんでしょうね? というか、個人でも「こういう形態で働きたい」という人はどのくらいいるのかなと。もっと言うと、本当に自立したいと思っている人って、どのくらいいるんだろうという話なんですが。
少ないけれども、対応できる会社もあるし、自立したいと思っている人もいる。それは実感としてあります。
そもそも、従来型の日本の大企業って、自立した人を作る仕組みになっていないですよね。いったん入ったらその会社でずっと働くことが前提になっているから、自立するという選択肢をなくしている。
おっしゃるとおりです。
ただ、確かに、バブル崩壊以降、このままじゃダメなんだ、ということで、自立を考える人は増えていますよね。サイボウズもその1つかもしれませんが、創業者が大企業から独立起業して成功しているベンチャー企業もたくさんありますし。日本でもシリコンバレー的なものが生まれつつあるとも感じます。
同感です。
だからこそ、本当は大企業の外に出たらもっと違う価値を生み出せそうな人が、自立させない仕組みの中で飼い殺されている、おっと、言いすぎだな(笑)、能力を充分に発揮できていないケースがまだまだ多いのは、ものすごく残念なんです。 篠田さんは長銀(日本長期信用銀行)の出身ですが、僕はホント、長銀は経営破綻して良かったと思っているんですよ。それによって、1つの枠組みの中でやってきた優秀な人材が、世の中に拡散した。そういう意味でも、大企業をどんどん潰したら、日本はもっと面白くなるのではと思っているんです(笑)
私はそこまで過激なことは言いませんが(笑)。ただ、既存の枠組みの中でも、外部の人とネットワークをつくり、それを社内の仕事に生かすことは奨励されるようになってきたように思いますね。そういうところに現実解があるかもしれない。 逆に、社員がFacebookなどのSNSを使うのをあまりこころよく思っていない企業もあるようですが、そういう企業は、社員のことをまったく信頼していなんでしょうね。「絶対何かやらかすだろう」と。
ははは。
会社が自分をそういう目で見ていると、社員だって不愉快になりますよね。その社員が社外で魅力的な人を知っていても絶対に紹介しないでしょう。
逆に、会社からチェックされている気がするのでSNSは実名でやらない、などという人は、見られて困るような行動をしているのかなと思っちゃいますよね(笑)。「本当の自分を出したら自分は評価されない」という考えが前提にあるからそうなるのでしょう。会社と社員、お互いが疑心暗鬼になっている気がします。
そのとおりですね。
実は僕は、いずれ、独立支援の制度を本気でやりたいと思っているんですよ。
そうなんですか!
ええ。例えば、サイボウズという会社の資産を持ち出して、自分でやってみなよ、もしダメだったら戻って来ていいから、というような。サイボウズのブランドを使ってもいいし、オフィスだって使っていい。ただ、お互い縛られるのはイヤだから資本関係だけはつなげませんが(笑)
のれん分けみたいなものですね。
そうそう。サイボウズをそういう場にしたいんです。会社を維持しよう維持しようと思うから、社内にもったいない資産が溜まっていってしまう。ヒトもカネも、維持するのではなく、外にばら撒こうよ、と。 シリコンバレーはそういう場としてワークしていると思うのですが、日本ではそうなっていない。だからまず場から作らないと。じゃないと、アライアンスのようなものも広まらないですよね。 今日は長時間、ありがとうございました。アライアンスの考え方から、刺激を受けることがたくさんありました。
こちらこそありがとうございました。山田さんが日本に帰ってくる時に、またお話しましょう!
(執筆:荒濱一/写真:橋本直己)
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