多様性は大切だけど、わかりあう必要ってあるの?
異なる価値観を攻撃するのは「自信がなく、弱い」から──TABIPPO清水直哉×山田理、旅から学んだ「違いに目を向ける力」

「旅をすると価値観が広がる」と、多くの旅好きの人たちは言います。この「価値観が広がる」とは具体的にどういう状態なのでしょうか? そしてそれは、多様な価値観を認める社会を生きるための鍵になりえるのでしょうか──?
「旅で世界を、もっと素敵に。」を理念に掲げ、若者に旅を広めるために多角的に事業を展開している株式会社TABIPPOの代表取締役社長・清水直哉さんと、バックパッカー経験のあるサイボウズ副社長(兼サイボウズアメリカ社長)・山田理、旅の経験が豊富なふたりが語り合いました。
「価値観が広がる」とは、自分が知っている価値観の幅が増えていく感覚



清水 直哉(しみず・なおや)さん。株式会社TABIPPO代表取締役社長。東京学芸大学にてサッカー漬けの日々を送るが、人生に悩み、世界一周の旅へ。 学生時代に旅で出会った仲間とTABIPPOを立ち上げる。 大学卒業後はWeb広告代理店の株式会社オプトへ入社、1年目からソーシャルメディア関連事業の立ち上げに参画。最年少マネージャーの経験などを経て2013年11月に退職、 TABIPPOにて法人登記を果たす。夢は「やりたいことを、やりたい仲間と、やりたい場所で、やりたい時に、やりたいだけ、やり続けること。」




そこから突然ヨーロッパや世界中の国々を巡ったので、「国が違うと考え方も文化もこんなに違うのか!」と感じる経験ばかりでしたね。価値観が広がったなあと実感して日本に帰ってくることができました。

でも、僕は高校生の時に1年間アメリカにホームステイしたんですが、正直そのときは「価値観が広がる」という感覚がよくわからなかったんです。

山田 理(やまだ おさむ)。サイボウズ 取締役副社長 兼 サイボウズアメリカ社長。1992年日本興業銀行入行。2000年にサイボウズへ転職し、責任者として財務、人事および法務部門を担当し、同社の人事制度・教育研修制度の構築を手がける。2014年からグローバルへの事業拡大を企図し、米国現地法人立ち上げのためサンフランシスコに赴任し、現在に至る。


価値観がない状態だと、そもそも広がらないし、変わらない。だからピンとこなかったんです。



「こんな価値観も、あんな価値観もあるんだ!」と、自分が知っている価値観の種類が増えていく感覚が、「価値観が広がる」ということだと思っています。



自分の生き方を肯定できることが、自分にとっての幸せだと気づいた



それなのに、なぜかみんな笑顔で笑っているし、心にゆとりがあったんです。見ず知らずの日本人の僕が困っていたら助けようとしてくれるし、親切にしてくれて。



その単調な生活の中に心のゆとりや笑顔がある。これって純粋にすごいことだなって思ったんですよね。


稼いだお金でいい車や家を買うことが、自分の人生のゴールで幸せだという価値観を疑ったことがなかったんです。だけど、「立派な車や家がなくたって、こんなに幸せになれるんや」と実感したときに、「ああ、お金じゃないんやな」って思いました。


それからは、日本で最低限生きていけるお金さえ稼げたら、あとは自分がどう思いながら生きるかがすべてだと思うようになりました。「この人生でいいんだ」って、自分の生き方を肯定できることこそが僕にとっての幸せです。この時気づいた価値観は、今になっても変わらないですね。

その時から僕の夢は、「やりたいことを、やりたい仲間と、やりたい場所で、やりたい時に、やりたいだけ、やり続けること」なんです。


人は誰もが違う、個性は多様だということを「実感」できるのが旅の良さ


「そんなの当たり前じゃん」と言われるのかもしれないけれど、頭で感じることと、リアルに多様な人を見ることの差はすごくあると思うんですよ。



でも、「いやいや、もうすでに日本人や社内は多様なんだから、そこに目を向けようよ」と思うんです。「日本人」「うちの会社」とくくっている時点で、多様性を実感できていないしイケてないんですよ。




TABIPPOも、「旅をするならいつでも会社を休んでよい制度」や「旅するオフィス制度(毎日働く場所を選ぶことができる)」など、個人の生き方や個性に合わせた制度がたくさんあります。これらは、実はサイボウズさんの考えをものすごく参考にさせていただいているんです(笑)。

自分自身が正しいかどうか不安で自信がない人ほど、自分を守ろうとして攻撃的になる




だって、人は誰もが「正しい」し、誰もが「正しくない」と思うんですよ。


これって、お互いが「正しい」し、「正しくない」状態だと思うんです。



だからきっと、自分自身が正しいかどうか不安で自信がない人ほど、自分を守ろうとして攻撃的になってしまうんです。自分に余裕がある人は、きっと受け入れられるんじゃないでしょうか。






だからこそ、ちょっと道から外れることを怖いと思い、みんなが大学行くから大学に行き、大企業に行くから大企業に行く、という流れになってしまうんじゃないでしょうか。




アメリカ人は、多様な人種や個性を「認める」んだけど、決して受け入れているわけじゃない

アメリカに行って思うのは、アメリカ人は、多様な人種や個性を「認める」んだけど、決して受け入れているわけじゃないってことです。




日本人って、なぜか「身内でできるだけみんな仲良くした方がいい」って考えますよね。だから、近くなれない人を仲間はずれにするという流れがあるんです。変わった人を排除してしまう。




価値観を広げ、他人との違いに目をむけることは、自分の理想を確固たるものにする




価値観を広げ、他人との違いに目をむけることは、自分の「理想」を確固たるものにすることに役立つのではないでしょうか。旅先に答えが落ちてるわけではなく、それはいつでも自分の心の中にあるものなんだと思います。
構成・ ミノシマタカコ/撮影・橋本美花/企画編集・明石悠佳
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執筆
撮影・イラスト
橋本 美花
主に人物写真を撮らせていただいているカメラマンです。お仕事以外では海外へ行ってスナップ写真を撮ることが大好きです。自転車に乗りながら歌うことも好きです。
編集
あかしゆか
1992年生まれ、京都出身、東京在住。 大学時代に本屋で働いた経験から、文章に関わる仕事がしたいと編集者を目指すように。2015年サイボウズへ新卒で入社。製品プロモーション、サイボウズ式編集部での経験を経て、2020年フリーランスへ。現在は、ウェブや紙など媒体を問わず、編集者・ライターとして活動をしている。
