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「ほっとく勇気」と「調理時間の組み合わせ」でメシマズから「メシ楽」へ──コデラ総研 家庭部(60)
テクニカルライター/コラムニストの小寺信良さんによる「techな人が家事、子育てをすると」というテーマの連載(ほぼ隔週木曜日)の第60回(これまでの連載一覧)。今回のお題は「『ほっとく勇気』と『調理時間の組み合わせ』でメシマズから『メシ楽』へ」。
文:小寺 信良
写真:風穴 江(tech@サイボウズ式)
前回は調理の基本として、レシピの読み方を中心に解説した。今回はレシピに書かれていない調理方法のノウハウをお伝えしたい。
ほとんどの料理は、煮る、焼く、揚げる、蒸すに分類されるわけだが、「蒸す」は蒸し器が必要なので、若干難易度が高い。筆者もほとんど蒸し物は電子レンジを使う程度で、蒸し器を使ってやったことがないため、これは割愛させていただく。
まず簡単なところで焼き物を例に考えてみよう。肉や魚の最もシンプルな調理法が、フライパンを使って焼くことである。油を適量ひいて焼けばいいだけなのだが、初心者のうちは焦げたり生焼けだったり、あるいは形が崩れてバラバラになったりすることが多い。
なぜそうなってしまうかといえば、調理時間をきちんと計っていないからである。レシピには焼き時間まで書いてあるはずだが、初心者ほど時間を計らず、自分の感覚で焼き加減を調整しようとする。そして焦げないかを気にするあまり、まだ焼けていないうちから端のほうをめくって様子を見たり、ひっくり返してしまったりする。
そうやって火が通らないうちに食材をいじり回してしまうので、身が崩れてしまうわけである。特にムニエルなど、魚の切り身を使った料理で起こりがちだ。なぜ分かるかといえば、筆者がずっとそんな調子だったからである。
レシピに書かれていないメシマズ脱出のコツは、「ほっとく勇気」だ。例えばレシピに片側5分と書いてあったら、キッチンタイマーを使って5分をきっちり計測し、タイマーが鳴るまでは絶対にいじらない。当然のことながら、火力にも注意を払う。中火で5分と書いてあったらその通りであり、強火でやれば2分半でできるわけではない。中華料理の炒め物でない限り、強火で焼くというケースはないはずだ。
プロの厨房でも、キッチンタイマーはよく使われている。レストランなどへ行っても、厨房から聞き覚えのあるタイマー音が聞こえてきたりする。筆者はキッチンタイマーを2つ、多いときには3つ使っていた。ホームセンターに行けば、音色の違うキッチンタイマーがいくらでも売っている。スマートウォッチがあれば、音声入力でタイマーをセットすることもできる。
調理時間を組み合わせる
最近はキッチンタイマーを1つしか使わないようになってきた。それは身体感覚で時間を覚えたわけではなく、毎回やる調理を通じて、いろんなもので時間が計れるようになったのである。
例えばうちでは米は炊飯用の土鍋で炊いているが、いつもの分量を火にかけて噴きこぼれるまでがおよそ5分だ。冷凍した食材を電子レンジで解凍するのもおよそ5分。味噌汁用の鍋にいつもの分量の水が沸騰するまで、およそ3分である。
以前もご紹介したと思うが、揚げ物はフィリップスのノンフライヤーに任せており、これで揚げ物が仕上がるまでだいたい15分。ガスコンロもタイマーが使えるものに入れ替えたので、これは任意の時間がセットできる。
こうした自動的に時間が計れるものや特定の工程を時間差で行うことで、他の焼き物や煮物の時間を計っている。これにあてはまらない時間のみ、タイマーを使えば済む。
それでも焦がしてしまうケースもあるが、それは複数の調理のうち、どれのタイマーだったか忘れてしまった場合である。あるいは無意識のうちにタイマーだけ止めてしまって、肝心の火を止めるのを忘れた場合だ。こればかりは今のところ、防ぎようがない。
以前は蓋をしてしまう煮物など、中身の状況が見えないのが不便だと思っていた。だからガラス製の蓋を買ったり、耐熱ガラスの鍋を使ったりしてみた。目で見て判断しようとしたのだ。だがこういうものは結局、湯気や水蒸気が内側に付くため、結局中身が見えなかった。
最近は多くの調理パターンを経験したので、レシピのない調理でもこれぐらいだと5分とか、量が多いから7分ぐらいかなとか、だいたいの調理時間が分かるようになってきた。こうしておそらく何分ぐらいだろうと予想を立てたら、その分数でタイマーをセットし、途中でいじらない。
こうすることで、1つの調理にかかりっきりになることがなくなった。同時並行のタスクを増やすことができるので、トータルでは同じ時間だが、もう1品余分に作れるようになってきた。自分なりの段取りを開拓すると、あとは組み合わせパターンで動くことができる。こうして手際が良くなると、同時並行で調理が終わった鍋類を洗う余裕も生まれてくる。すべての調理が終わるころには、洗い物も完了して綺麗にキッチンが片付いた状態で食事がスタートできる。
男性は元々、複数の行為を同時に行うことが苦手と言われている。1つのことに集中しないと、うまくできないというタイプの人も多いだろう。おしゃべりしながら車の運転ができないタイプ、とでも言おうか。
筆者もそういうタイプで、最初は調理も一度に1つずつしかできなかったが、半年ぐらい続けていると、ルーティンワークの効率化に頭が回るようになってくる。 そうなったら、あとは並行作業を行ってもしくじらなくなってくる。
なかなか最初からは上手にできないかもしれないが、一旦壁を越えると、あとは飛躍的に楽になってくる。そこからの調理が、実に楽しいのだ。(了)
本連載では、読者の皆さんからの、ご意見、ご質問、取り上げてほしいトピックなどを、広く募集しています。編集部、または担当編集の風穴まで、お気軽にお寄せください。(編集部)
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