「どうなる? 議員の育休」──宮崎議員と男の育休を語る
衆議院議員の宮崎謙介さんによる男性国会議員初の育休取得宣言は、称賛とバッシング、両方を巻き起こし、各界の男性に「育休」について考える機会を提供してくれました。
そんな話題の宮崎議員を囲む緊急フォーラムに、働き方変革を推進するオピニオンリーダーが集結。育休を取得した経営者や首長、仕事と子育ての両立に取り組むジャーナリストらの熱いエールを中心にFJ★緊急フォーラム「どうなる? 議員の育休〜永田町が変われば、日本の子育て・WLBが変わる」の模様をお届けします。
男性の育児参加を進めないといけない
NPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事の安藤です。今日のテーマは「どうなる? 議員の育休」です。背景には何万人と育児をしたい、育休をとりたいという男性がいます。
議員の育休は、日本社会にどう変化をもたらすのか、みなさんからご意見をいただきながら考えていきたいと思います。まずは、自民党の宮崎議員からお言葉をいただきたいと思います。
衆議院議員の宮崎謙介でございます。世の中、賛否両論あるなかで、物議を醸し出してたいへん多くの方にご迷惑をおかけしているなと実感している日々です。いっぽうで応援してくださる方も多くいるので、ありがたいと思います。
少子化が進むなかで、女性の社会進出を進めると同時に、男性の育児参加をなにがなんでも進めないといけない状況です。 私が目指すものは、日本の風土・雰囲気を変えること、制度をより充実させていきたいということ、この2つです。
AERA編集長の浜田さん、この状況に寄せられる世論はどうなっていますか? また個人としても宮崎議員にエールがあればお願いします。
AERA読者は、「育休をぜひとるべき」「がんばれ」という反響が多かったです。個人的にも宮崎さんが宣言する意義は大きいと思います。国会議員としての立場が問題となっていますが、仕事はするとおっしゃっていますので理解がすすめばいいと思います。
本当は「国会議員の評判を落とす」といったのは誰だ、ということを聞きたかったのですが。そのようなことをいう人こそいなくなってもらわないと、日本の政治がよくならないと個人的には思っています。
「日本版パパクオータ制」の導入を
ファザーリング・ジャパン理事の塚越です。 男性の育休がどうなっているのか、調査結果から説明します。日本の男性の育休取得は、2014年度の数字で2.3%。女性の86.6%に比べると地をはうかのようです。
ファザーリング・ジャパンでは、こどもやパートナーのため有給休暇や特別休暇を取ることを「隠れ育休」と呼んでいます。この「隠れ育休」をどれくらい取得しているかを調査したところ46%でした。
育休を取得したいという希望は6割ですが、希望どおりにはなっていません。
もっと育休を利用しやすくなるにはどうしてほしいのかという問いには、上司からの働きかけが一番でした。「育休をいつとるの?」と取る前提で聞いてほしいです。周囲からの働きかけが背中を押します。
もう一つは、決まり事にすることです。皆が取るといった決まり事であれば取りやすい ファザーリング・ジャパンは超党派イクメン議員連盟と共に父親時間を割りあてる「日本版パパクオータ制」の導入を求めています。
目立つ人がやるのが大事
続きまして、全国で初めて首長として育休を取得した文京区長の成澤さんどうぞ。
ようこそ禁断の世界へ。(宮崎議員と握手)
私が「なんちゃって育休」をとったとき「男は外で働く、女は家庭で家事・ 育児が日本の伝統なんだから」といわれました。
男性議員の育休の制度化より、働き方を見直すことが大事であり、男性も女性もイコールパートナーとしてどうやっていくべきか議論すべきです。
フランスでは、育休期間中にほかの会社で働くことも認められていいます。育休は家事、育児に専念という設計ではなく、仕事も含め大事なことはするといった緩やかな制度設計もいいのではと思います。
禁断の世界にひきずりこまれたもう一方、サイボウズの青野さん、宮崎議員の行動をどう思われますか?
「素晴らしい」の一言です。偶然、私の長男は、成澤区長のお子さんと同じ日生まれで近所だったのです。成澤さんに、広報になるから育休をとったらいいよ」といわれて育休を取りました。
やってみて思ったのは、育児は異常なまでの重労働だということです。体験をもってわかったので、理解を広げる活動をしています。
目立つ人がやるのが大事です。去年3人目のこどもが生まれ社長の私が16時退社をしていました。それまでは、時短のママさん社員が17時ぐらいになると申し訳なさそうに帰っていましたが、「あれでいいんだ」と空気が変わりました。
青野さんは、優秀な人材を集められるので負ける気がしないといっていますね。
中途社員の素晴らしい採用ができています。最初は大企業に入った人も人材不足のなかでサイボウズにきます。やったもん勝ちですよ。
育児の社会的地位を上げよう
民主党の寺田学衆議院議員、コメントお願いします。
寺田です。宮崎さんが育休を取るといって、あれほど批判がくるのをみて窮屈な国だなと率直に思いました。育児の社会的地位がものすごく低い現状があります。
議員だろうがなんだろうが、父親としての当事者意識をいかにもてるかが大事です。多くの男性に育児への理解が広がれば、育児って大変だしすごく尊いよなと、育児の社会的地位が上がり、育休を取ることにもみんなが寛容になると思います。
僕自身は、国会議員を落ちたときに子どもができたので、幸か不幸か育休取得の議論にはなりませんでしたが、もし二人目ができたら絶対とります。
(宮崎議員に向かって)頑張ろう。
与野党のイクメンがタッグを組むのは素晴らしいですね。治部さん、宮崎議員の今回のアクションについてどう思われますか?
経済ジャーナリストの治部と申します。「男性がんばれ」といういい雰囲気になっていますが、おばさんなので厳しいことをいわせてほしいです。
大事なのは、ここに集まって論じている人だけが偉いのではないということです。我々が今日ここに来られるようにしてくれたこどもたちをみてくれている夫、妻、おじいちゃん、おばあちゃんやシッターさん、そういう方たちがいるおかげで議論できています。
日本では育児をとても神聖なお母さんの仕事とするにもかかわらず無償労働ですよね。基本的に価値が認められていないことが、この問題の本質だと思うのです。
目標出生率1.8ですよね。国会議員の仕事と自分のこどもどっちが大事? 自分のこどもに決まっていますよね。こんな簡単なことを議論しているのに正直、腹がたちました。
うちは夫と大学の同級生で、1人目のときは夫が隠れ育休を半年くらいとっていました。授乳以外は夫がやっていました。2人目のときは、夫は公式な育休を取ったのですが夫の職場では上司からパタハラ発言をうけました。
宮崎さんが直面しているいまの大変さは、女性はずっと直面しているんです
私はハッピーなことに2人こどもがいますが、私より少し上の女性は産むか仕事かどちらかをとれといわれてきたのです。涙をのんでやめるか、マタハラにあうか、家族をもたないといった選択をさせられてきました。
男性はぜひ勇気をもって育休をとってください。16時や17時に帰るとか、それこそが地味な本当の勇気の出し方だと思います。
マタハラ、パタハラ、ケアハラは日本の経済問題
『マタハラ問題』を出版した小酒部さん、職場におけるマタハラの現状は?
マタニティハラスメントの被害者支援をしている小酒部です。2015年11月に、厚労省がマタハラの速報値をだしました。派遣社員の48.7%、2人に1人がマタハラ被害にあっています。 女性たちがこれだけ被害にあっているということは当然パタハラもあるでしょうし、ケアハラもあると思います。
これは働き方の違いに対するハラスメントです。長時間労働が前提の職場で排除の対象となっているのです。個人の価値観の議論ではなく、大きな日本の経済問題として捉えてほしいです。
厚労省は2030年までに、女性の就労を80%以上にするとしています。そうでないと年金が健全化しません。男性の育児参加は第2子、第3子につながっています。みなさんにまわりまわってブーメランのようにかえってくるんだよと理解してもらいたいです。
元祖イクボスの川島さんは、いまの問題をどうとらえますか?
私は管理職を15年、会社経営は4年やっています。管理職としては、社員のパフォーマンスを最大化するためにも、しっかりと育休をとる、地域活動できる、親の介護ができるよう配慮するのは当たり前ですよね。社員の人生の安定や社員満足度がパフォーマンスにつながります。
うちの会社は、社員満足度向上のために必要なことを徹底的にやったら、業績は3割あがっています。
反対意見は折り込みずみ
病児保育事業を10年前にたちあげた駒崎さんは、そのころ独身でしたが、その後に育休を取りましたね。
この10年間って、すごい変化だと思うんです。病児保育を起ち上げたときには「子どももいないのに、男なのに。なんで保育やるの?」といわれました。それくらいの認識だったんですね。
2010年にファザーリングの安藤さんや長妻大臣とともに、家事、育児をする男性を盛り上げていこうと厚労省イクメンプロジェクトを始めました。「イクメン」は、最初の年は国民認知度13%でしたが、3年後には97%に上がりました。
「イクメン」に対しては「子育てするのは当たり前なのに、ちょっとやったぐらいでなにどや顔しているの?」ともいわれました。
必ず反対意見はある。それは折り込みずみです。むしろ「それがないと盛り上がらないよね?」というくらいでないといけない。社会をアップデートさせるときには炎上が必要なんです。
古きはアグネス論争があります。コントラバーシャルな話題を世の中に提起するには、誰かがリスクをとってやるしかない。宮崎議員も、圧力をかけられるような反応があるとは思わなかったでしょうけれど、そういう反応を起こしてくれたことに本当に感謝しています。
問われているのは宮崎議員だけではありません。我々が問われています。彼を孤立させずに「ふざけんな!」と声をあげてこそ、社会はアップデートされると僕は強く思うのです。
我々がほしい未来は、男性の議員が育休をとれないで縮こまっている未来ではない。男性でも子育てに参加する、社会で子どもを育むそんな未来だと声高らかに言っていきたい。
政治家が子育てに関わっていないから、「それじゃないっ!」という政策をやりまくる。なにが小学校の先生を保育士にしようだ? あさってすぎて言葉がでないですよ。
少しでも多くの政治家が子育てに関われば「それだよ。それっ!」ていう政策をしてくれます。我々は政治家たちが、子育てに向かうように後押ししないといけない。
少子化対策を前進させる機動力に
武石先生、研究者の立場からいまのムーブメントをどう思いますか?
法政大学の武石と申します。私は、2004年に『男性の育児休業』という本を出しました。そのころからみると男性の育児が話題にされるようになり、世の中変わったなと思います。
宮崎議員は、奥様も国会議員で共働き。国会議員のダイバーシティもここまできたかと感慨深いものがあります。男性が育児をすることについて、本質的な話題を提供していただいたと思っています。
宮崎議員の育休の成果は、国会議員を続けて少子化対策を前進させる機動力になることだと思います。応援しています。
私もマタハラ被害者として顔出し名前だしをしたとき、ものすごいバッシングでした。それ以上に応援がありました。心配しないでバッシングをチャンスに変えていっていただきたいです。
私はアメリカの国務省から勇気ある女性賞を贈られました。氷の上でペンギンが押しあい、へしあいしている生存競争のなかで、オットセイやシャチがいるかもしれない海に最初にとびこむ勇気ある一匹をファーストペンギンといいます。うまくいけばたくさんのえさをとれるんです。ぜひ宮崎議員には頑張っていただきたいです。
宮崎議員には、永田町のファーストペンギンと呼ばれてほしいですね。
ほぼ100%の応援メッセージをもらえたのは初めてです。国会議員は重たい議席を預かっているのを自覚しつつ、しっかり考え、日本の未来を変えていきたいです。
写真:尾木司 文:渡辺清美
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執筆
渡辺 清美
PR会社を経てサイボウズには2001年に入社。マーケティング部で広告宣伝、営業部で顧客対応、経営管理部門で、広報IRを担当後、育児休暇を取得。復帰後は、企業広報やブランディング、NPO支援を担当。サイボウズ式では主にワークスタイル関連の記事やイベント企画を担当している。