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賛否分かれる「セラフィット」、その実態は?──コデラ総研 家庭部(92)
テクニカルライター/コラムニストの小寺信良さんによる「techな人が家事、子育てをすると」というテーマの連載(ほぼ隔週木曜日)の第92回(これまでの連載一覧)。今回のお題は「賛否分かれる『セラフィット』、その実態は?」。
文・写真:小寺 信良
テレビをよく見る人と話をすると、時折驚くほど知識やブームに違いがあるんだなと感じることがある。昼の情報番組をよく見ているママ友にお勧めされたのが、「セラフィット」というセラミック加工されたフライパンセットだ。
油なしでも焦げ付かないとか、焼き上がりの食材でもするっと滑ってくっつかないとか、噂レベルも含めていろんなことが言われているようだ。公式サイトでは、販売数400万枚を突破という文字が踊る。
ところがこの「セラフィット」をネットで検索してみると、あまり評判がよろしくない。さらに注意深く調べていくと、この商品は昨年9月に消費者庁から、景品表示法の第5条(不当な表示の禁止)違反ということで、措置命令が出されている。
このとき問題になったのは、主にテレビCMにおける以下の表現だ。
- 「ダイヤモンドの次に硬いセラミックを使用」との映像及び「セラフィットはダイヤモンドの次に硬いセラミックを使用」との音声
- 「傷がつかない コーティングが剥がれない」との映像及び「コインで擦っても傷が付かず、コーティングは剥がれません」との音声
- 「クギを炒めても傷がつかない!」との映像及び「たとえ大量の釘を炒めたって傷が付かない」との音声
- 「耐摩耗テスト50万回クリア!!」との映像及び「セラフィットは50万回擦っても傷まないことが証明されました」との音声並びに対象商品で金属製品を用いて調理する映像
消費者庁の調査・試験の結果を見ると、実際に本商品で使用されている「セラミック」と称する物質は、ダイヤモンドの次に硬いものであるとは言えず、対象商品を金属製品で擦った場合には、50万回を大きく下回る回数で傷が付くという結果がでている。
セラフィットの販売を行なっていた「ショップジャパン」の運営会社であるオークローンマーケティングの「お知らせ」では、「第三者試験機関にて自社基準による50万回の耐摩耗性試験及びJIS S2010に準拠した試験等によって検証して」いるとして、50万回の耐摩耗試験はクリアしていると言う。
当時の報道を調べてみると、消費者庁の調査では、金属製の調理器具を使って擦った場合、約5000回で傷が付いたといい、企業側が50万回擦ったと主張したのは、ナイロン製の調理器具を使った場合だった、と報じられている。
主張の食い違いがあるが、当時のテレビCMでは、金属製のフライ返しを使用している映像をバックに「耐摩耗テスト50万回クリア!!」との映像及び「セラフィットは50万回擦っても傷まないことが証明されました」との音声が入っていることから、視聴者は当然金属製のフライ返しで擦っても50万回の耐性があると認識する。よって景品表示法違反である、との判断となったようだ。
訂正しても記憶は残る
現在セラフィットの公式サイトでもテレビCMでも、すでに上記のような表現は使われていない。具体的な性能を示すというよりも、むしろ焦げ付かないというイメージ的な戦略へ表現を移行させたような印象を受ける。
景品表示法違反による措置命令が下ったのはつい最近のことであり、もしこのような事実を知っていたら、当然消費者はこの商品に関して一定の用心をするだろう。だが多くの主婦は、このような処分があったことも知らず、単にCMがリニューアルしたぐらいの感覚しか持っていない。従ってセラフィットの性能も、以前のCMで得た誤った知識のままで更新されていないままになっている。
実際に現在販売されている世羅フィットを購入し、中の説明書を確認したところ、「相性の良い調理器具」として、「シリコンやナイロン、木製など金属製以外のもの」との表記があった。「金属製の調理器具を使用すると、コーティングが傷つき、性能が劣化します」とも書かれている。景表法違反の事実を知ってこれを読めば、ははーんと気がつくところだ。しかしそもそもフライパンの説明書など丹念に読む人は少ないだろうし、事実を知らなければ相変わらず金属へらで50万回擦っても傷が付かないと思って使い始めるだろう。
また焦げ付きに関しても、ネットでの意見は手厳しい。現在のCMでは、長期間焦げ付かないと表現されているものの、すぐ焦げ付き始めたという書き込みがかなりある。
ただ、これはさすがに使い方に誤解があるのではないか。説明書によれば、使用する前に少量の油で表面を磨く「油ならし」をするようにと大きく書かれている。また注意書きとして、食洗機で洗ったあとは特に油ならしが必要と記載されている。おそらくこのメンテナンス部分が、すっぽり抜けてしまっているのではないか。
また一部には、油なしで調理できるという誤解もあるようだ。確かに素材的には油なしでも焦げ付きや張り付きは起こりにくいだろうが、そもそも油がないと食材に均等に熱が伝わらず、温度も一定に保てないため、ムラ焼けになってしまう。説明書にも、焦げ付きを防ぐために、少量の油を引いてから使用するよう記載されている。
洗い方にしても、説明書にはコーディングを保護するため、加熱直後に冷水につけるなど急激な温度変化を避けるよう注意書きがある。この辺りも、まるっきり見逃されており、性能が急速に劣化しているのではないか。
実際に商品を試してみたが、説明書の注意書きを守って使えば、熱伝導性も高いし、食材が貼り付くこともないので、使いやすいフライパンだと感じた。通常のフライパンとは素材が違うだけに、使い方やメンテナンス方法が違うということはあり得る。それらの注意書きをまったく読まず、一般のフライパン同様の使い方をして「ダメだ」と言っているのであれば、さすがにそれは消費者に非がある。
土鍋や中華鍋などには、独特の「育て方」があるものだ。それと同じように、特殊な調理器具ならば少なくとも説明書は一通り読んで、注意点を頭に入れてから使い始めるといった用心深さは、基本にしたいところだ。(了)
本連載では、読者の皆さんからの、ご意見、ご質問、取り上げてほしいトピックなどを、広く募集しています。編集部、または担当編集の風穴まで、お気軽にお寄せください。(編集部)
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