社員を縛らず、選択肢を広げて社員に決めてもらうのが新しいカイシャ──サイバーエージェント、ほぼ日と語ってみた

新しいカイシャの姿をテーマに、サイボウズが主催した「チームワーク経営シンポジウム」。パネル1では堀江貴文さんを迎え、これからの働き方と教育について議論しました。
パネル2では、モデレーターにBUSINESS INSIDER JAPANの浜田敬子さん、パネラーにはほぼ日の篠田真貴子さん、サイバーエージェントの曽山哲人さん、サイボウズの山田理が登場。
カイシャと私たちの理想的な関係とは……? 人事制度と組織作りを中心に、登壇者が語り合いました。
失敗を経験した人材が辞めてしまうのは、会社にとって損失

まずは曽山さん。サイバーエージェントはどのような組織作りをしているんですか?


優秀な人から辞めていってしまう危機感から、役員で話し合って新たな人事制度を考えました。それが「実力主義型終身雇用」です。
実力があれば、若手でもどんどん抜てきします。だからといって、実力がないと会社に居られない訳ではなく、価値観が合っている人を終身雇用で守るという考え方に沿ったものです。

曽山哲人(そやま・てつひと)。1974年、神奈川県生まれ。1998年上智大学を卒業後、株式会社伊勢丹(現:株式会社三越伊勢丹ホールディングス)に入社。1999年サイバーエージェントに入社。インターネット広告事業本部統括を経て、2005年に人事本部長に就任し、2008年に取締役就任。著書に『クリエイティブ人事』(光文社新書)、『強みを生かす』(PHPビジネス新書)がある。


僕らは年間10社ほど子会社を設立し、新卒入社して数年の若手を社長に抜てきしています。この中で5年後まで生き残っているのは、6〜7社です。


なぜなら、失敗から学べることは大きいからです。失敗経験をした人材が辞めるのは、会社にとって大きな損じゃないですか。
弊社には、「挑戦した敗者にはセカンドチャンスを」というミッションステートメントもあります。


当社社長の藤田(*)も「失敗している本人は恥ずかしくて辛いのだから、よくねぎらってあげて」と言っています。
(編注:藤田晋さん。サイバーエージェント代表取締役社長)
クリエイティブな組織を作るなら、管理部門もクリエイティブにならないといけない


ただ、入社したとしても、万人に向いている職場ではないと、わたしは思っています。

篠田真貴子(しのだ・まきこ)。1968年生まれ、東京都出身。1991年慶応義塾大学経済学部卒、日本長期信用銀行(現新生銀行)に入行。米コンサルティング大手のマッキンゼー・アンド・カンパニーやスイス製薬大手のノバルティスファーマを経て、2008年東京糸井重里事務所に入社。2009年から取締役最高財務責任者(CFO)に就任。


わたしが入った10年前は、組織というより個人事業主が集まっているような状態で、仕事も属人的でした。


クリエイティブな集団をマネジメントするには、管理部門がどれだけクリエイティブになれるか。それが大事なポイントです。


浜田敬子(はまだ・けいこ)。1989年朝日新聞社入社。前橋・仙台支局、週刊朝日編集部などを経て99年からAERA編集。記者として、女性の働き方・雇用問題、国際ニュースを中心に取材。2014年から編集長。2016年5月から朝日新聞社総合プロデュース室プロデューサーとして新規プロジェクトの開発などに取り組む。2017年に同社を退社し、現職に就任。

でも、ほぼ日は「個」が光るほどチームが強くなるタイプの会社。つまり、大事なのは属人性をいかに守るかなんです。


要は、1人ひとりが余計な心配をせずに、バンバン打席に立てるように仕組みを作り、社員がクリエイティブな力をより発揮してほしいという狙いだったんです。


命令された業務をこなすだけでは、仕事に対するモチベーションが弱いじゃないですか。


例えば、社内全体でくじ引きだけで決める席替えをしています。部署も関係なく席が決まるので、私の周囲には編集者や商品開発担当者がいるんです。
席が近い人同士で雑談する中から企画チームが生まれることもあります。
「インターネット的」な社会が組織を変えた


山田理(やまだ・おさむ)。1992年大阪外国語大学卒業後、日本興業銀行に入行。2000年サイボウズへ転職し、責任者として財務、人事および法務部門を担当し、同社の人事制度・教育研修制度の構築を手がける。2014年からグローバルへの事業拡大を企図し、アメリカ事業本部を新設し、本部長に就任。

ただ、このような動き方をするには、社員1人ひとりにどんなことができるのかを、管理側の人が把握しないといけない。個人のリソースがわからなければ、さまざまな仕事を割り当てられませんから。



たとえば、僕が部下にパワハラをしたら、すぐにSNSで広まってしまう。


信頼できるフラットな関係を築けている会社とそうでない会社には、大きな隔たりがありますね。

ほぼ日では「チーム」という、部や組織を横断した集まりで動くことが多いです。自らの動機で集まり、得意・不得意による役割分担はあれど、そこに意味のないヒエラルキーは生まれない。
リーダーは判断することが仕事ですが、あくまでそういう分担だということに過ぎません。えらいわけではないんです。
これからは「社員をゆるく囲い込むこと」がトレンドになる?

大企業はどちらかというと、社員を会社のものと思っている。彼らの時間やスキル、人脈もすべて会社の資産として、支配したがるのが一般的です。




いわゆるベンチャー企業は、大企業と違って人材が集まりづらいので、社員が離職することにめちゃくちゃナイーブです。


だって、社員が帰ってこないよりは、6年後に帰ってくるほうが絶対いいじゃないですか。
複業も「できないなら辞めます」と言われるくらいなら、半分のリソースでもいいから残っていてほしい。




会社に合う・合わないは、選択肢を広げた上で社員に決めてもらう


直接伝えて、社員自身が変わろうとするなら、きちんとサポートします。


自分への評価を客観視する力を身につけたいので、長らく自己評価を採用しています。


しかし、その過程では、自分の仕事を自己評価しながら進めなければなりません。
仕事の質を高めるには、自己評価の精度を上げて、他者の評価とすり合わせることが必要です。
しかし、経験が浅いと、自己と他者の評価がどうしてもズレてしまう。


それを聞くことで、1人ひとりが自問自答を重ね、自己と他者の評価と向き合っていきます。


短期的には、周りから求められることをしっかり返すことで、信頼を重ねます。
でも長期的には、本人に強い動機があれば、どんなことをしてでも、自ら打席を作ろうとしますよね。動機さえあれば、いずれ他人を巻き込んででもやろうとするはずです。


理由は2つあって。まず、会社の理念に合う・合わないは0か100かの話ではなくて、グラデーションがあるからです。100合う人もいれば、10合う人もいる。


社内の仕事と評価だけに染まると、外に出るためのスキルがなくなってしまう。
僕らは会社側も社員側も、依存し合う関係から解放したいと思っています。複業を許可すれば、社外でも通用するスキルが身につくでしょう。


「会社を変える」前に、自分がどう変わるか



後者の場合、古い体質を変えたいと考えても、末端にいる平社員の立場ではなかなか難しいと感じています。
個人が草の根活動をすることに、どれだけの意味があるのでしょうか?


そして、対象範囲をどんどん広げていきながら、その中でも立場の高い人をどれだけうまく巻き込めるかが大切だと思います。
逆に、そこまでやって変わらないのであれば、会社を辞める選択肢もあります。
別にあなたの才能は、その会社だけで発揮されるものではないはず。自分の才能を安売りしないほうがいいですから。


「会社を変えたい」と言いながらも、なぜ変えたいのかを考え抜いていない人が意外と多いんじゃないかな、と。
たくさん面接を受けて、たまたま入っただけの会社に、なぜそこまでコミットしたいのかを客観視してみてはどうでしょうか。

キャンプファイヤーにたとえると、中央でたくさんの人が楽しんで歌っているのに、変える努力って本当に必要なのかなと思います。
自分が気持ちよく働けるところに場所を変えたほうがいいこともあるでしょうし。


実際に変えることができるのは、自分であり、周りの人です。そうした事実から逃げないことが大切なのではないでしょうか。
そしてやはり、一番変えられるのは自分自身というのを覚えておくといいかな、と思います。

文:園田菜々/編集:杉山大祐(ノオト)/撮影:栃久保誠
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