「休みたいのはサボりたいからだろ」──ぼくは社員を信頼していないのに、社長として信頼されたかった

「社長には、もうついていけません」
もし自分がとある企業の社長だったとして、社員からこのようなセリフを言われたらどうしますか──?
岩手県にある、創業100年の歴史を持つ染物屋「京屋染物店」。この会社を引き継いだ4代目社長の蜂谷悠介さんは、実際に社員から「ついていけない」と言われた経験があるそう。
衰退する業界で生き抜くために奔走するものの、ブラックな職場環境はなかなか変わらず、社員の心は離れるばかり……。「自分自身のあり方を本気で反省した」と当時を振り返ります。
サイボウズ代表取締役社長の青野慶久も、かつて似たような経験をしました。急成長の勢いに身を任せ、社員にハードワークを求め、M&Aを繰り返した先に待っていた大失敗。「もう社長を辞めたい」とまで思い詰めたそう。
京屋染物店もサイボウズも、現在では社員がいきいきと働く会社に変わりました。2人の社長は、どのようにして社員の信頼を取り戻していったのでしょうか。
逆転のストーリーを語り合いました。
「勝手に有給を取るなんて許さない」と本気で思っていた




蜂谷 悠介(はちや・ゆうすけ)さん。大正7(1918)年創業の京屋染物店を受け継ぐ4代目社長。大学時代にウェブデザイン会社を起業するが、3代目の父・蜂谷徹氏の他界に伴い2010年に京屋染物店代表に就任。法人化や社内の改修、縫製工場の新設など新たな取り組みを進め、同社の製品は「いわて特産品コンクール・岩手県市長会会長賞」や「経済産業省・The Wonder500」(世界に誇れる日本の逸品500選)などに選ばれている。


そんな状態ですから、社長になった当初の私は、とにかく働いて、お客様の声に応えていくことが最優先だと考えていました。


それなのに、社員からは次から次へと言われるんですよ。
「社長は、ほかの会社で働いたことがないから、そんなことが言えるんですよ」とか、「普通の会社だったらこんな体制で、有給も取れて……」とか。


青野慶久(あおの・よしひさ)。1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立した。2005年4月には代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を行い、2011年からは、事業のクラウド化を推進。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない』(PHP研究所)など。

でも、最終的にはどうしようもなくなって。全社員の前で謝ったんです。
社員を信頼していないのに「ついてこい」という勝手な社長だった


さすがに、そこまで言われたときは自分の社長としての振る舞いを反省せざるを得なくて、自分の考え方や行動を振り返りました。


仕事を減らせば会社が潰れる、でも仕事を増やせば社員が辞めていく。そんなふうに追いつめられていく中で、当時の私は、社員を信頼できなくなっていたんですよね。
「休みたいだなんて。みんなサボることばかり考えて、染物のこともこの会社のことも、どうでもいいのか?」と……。



でも社員からすれば、説明もないのに社長が何を目指してるのかよくわからないし、どれだけ仕事をしても終わりが見えないし、残業は増え続けるし、そりゃあ「社長についていっていいのかな」と思いますよね。
さらには「俺がこんなにやっているんだから、みんなもっと信頼して俺についてこいよ」と勝手なことを言って……。最低なことをしていたと思いました。
社長が自分を強く見せようと威張り散らしても、会社は良くならない


社員が会議で、「仕事を減らすべきじゃないか」と議論しているところに入っていき、「僕は仕事を減らすつもりはないよ」と言い放ったことがありました。

青野さんの考えが変わったのには、何かきっかけがあったのでしょうか?

これでは成長できない、何か間違えているんじゃないか。もっと社員ひとりひとりと向き合ったほうがいいんじゃないのか? と思うようになりました。

社長が自分を強く見せようと威張り散らしても、会社は良くならないんだと気がついたんです。


しかし、時代は変わるし、お客さんのニーズも変わる。たくさんの価値観がある今の世の中で、どんな人に何が喜ばれるかなんて、自分1人ではとても考え続けられません。
だから、「社長がいつまでも威張って会社を動かしていくなんて、逆に非効率なんだ」と、思うようになりました。
社長だけで判断するのではなく、みんなで判断してやっていくスタンスに


それまでは企業理念なんてなかったのですが、社員それぞれの夢を叶えることにもつながる理念をみんなで打ち立てました。
「世界一の染物屋になろう」と。


そのために、会社の情報はすべてオープンにして、みんなで判断できるようにしました。売り上げも利益も、リアルタイムですべて公開して、「どうぞ見てください」と。
社長だけで判断するのではなく、みんなで判断してやっていくスタンスに変わりましたね。

会社のビジョンとそのシステムを使う意味がつながった




そこで、「業務フローをしっかり見える化していかなければいけない」と考えたんです。いま誰がどんな仕事をしていて、この先どんな仕事をする予定になっているのか。それさえ分かれば、先回りして対策できそうだなと。


そこで、どこからでもスケジュールを管理できるように、予算を割いてシステムを作りました。しかし、今度は現場から使いづらいという声が出て、なかなか定着しませんでした。



導入はうまく進みました。しかし、「みんなの仕事の状況やスケジュールを、キントーンなら楽に共有できる」ということはわかっても、なぜそれをやるのかまでは社員に伝わっていなかったようなんです。




キントーンによる業務改善の秘訣やノウハウを共有するイベント「kintone hive」にて、蜂谷さんのプレゼンテーションは最優秀賞に選出。

会社のビジョンとキントーンを使う意味がつながったようなんです。
何のためにそのシステムを使うのか。会社にどんな課題があって、そのシステムを使うことで何を解決したいと思っているのか。
そういった全体像がわかり、「それを使う意味」「それをやる意味」が腑に落ちてからは、社員はさらに自分たちで活用方法を探るようになりました。

社長が社員のことを考えるのは難しい、だったら社員自らが考えて動ける状況を作るべき

私も昔、待機児童が大きな問題として出てきたころに、社内に保育園を作ろうと提案しまして。きっと全社員が感動するだろうと思ったら、びっくりするくらい、即却下でした。
「アホですか?」「青野さん、通勤ラッシュの電車に子どもを乗せられるわけないでしょ」と(笑)


だったら、やはり情報も理想もオープンに共有して、社員自らが考えて動けるようにすべきなんでしょうね。

それは、みんなで「何年後には海外に支店を作る」という目標を掲げているから、実現したことなんですよね。



京屋染物店の皆さん

そのときにどう乗り越えるのか。社員と向き合って、情報も理想も包み隠さず共有して、一緒に考えていきたいと思っています。

文:多田慎介/撮影:橋本直己/企画編集:吉原寿樹
京屋染物店のより詳しいキントーン利用方法はこちら
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「うちみたいなアナログ企業で働き方改革なんてできない」という言葉をよく耳にします。
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執筆

多田 慎介
1983年、石川県金沢市生まれ。求人広告代理店、編集プロダクションを経て2015年よりフリーランス。個人の働き方やキャリア形成、教育、企業の採用コンテンツなど、いろいろなテーマで執筆中。
撮影・イラスト

編集

吉原 寿樹
1995年、大阪生まれ。2017年にサイボウズへ新卒入社。働き方やツールに関するコンテンツ制作を通して、サイボウズが製品で提供できる価値をより広く伝えるプロモーションに取り組んでいます。趣味は音楽・ゲーム・読書。