地方は組織も「空き家化」している? 維持できない組織やルールはなくそう──宮崎のシャッター街を再生した田鹿倫基さん
シャッター商店街にIT企業を誘致するなど、ほかの人がなかなか思いつかないアイデアを実現させ、宮崎県日南市の「油津商店街」を蘇らせた田鹿倫基さん。
2013年に「マーケティング畑の民間人登用」に抜擢され、日南市のマーケティング専門官として活躍しています。
今回の取材のテーマは、地域と企業における「持続可能な組織」の共通点。一見、違う性質を持っていそうな2つの組織ですが、共通する課題を持っているんじゃないか……そんな視点から、お話を伺いました。
「空き家化した組織」はコストがかかる
田鹿倫基(たじか・ともき)さん。1984年生まれ、宮崎県出身。宮崎大学を卒業後、株式会社リクルートに入社し、インターネット広告の事業開発を担当。その後、上海に本社を置く日系広告会社「爱德威广告上海有限公司(アドウェイズ中国法人)」に転職して、中国人スタッフとともに、北京事務所の立ち上げを行なう。2013年からは、九州最年少の33歳で市長に当選した崎田恭平さんの掲げた公約のひとつ「マーケティング畑の民間人登用」に抜擢される形で、宮崎県日南市の「マーケティング専門官」として着任。地域の人口動態を踏まえた地方創生関連事業を行ない、ベンチャー企業との協業事業や農林水産業の振興、日南市全体のPR、マーケティング業務を担っている。現在は、日南市に誘致した企業の採用支援や、起業を目指して日南市に移住した人のサポートも行なう
たとえば、「初期の消火活動」のために結成されたはずの消防団が、気づけば「消防技術を競い合うコンテストで優勝すること」を目指す組織になっていたり、ひどいときは飲み会のほうが多かったり。
どこかで「存続させなきゃいけない」と思って残っているような組織もある気がします。どうしてそうなってしまうんでしょうね。
僕はこの状態を「組織の空き家化」と呼んでいるんですよ。
組織を建物と同じ「ハード面」だととらえれば、人がいない組織を維持するのにも、人材育成などに多くのコストがかかるでしょう。
気づけば、誰かが引いた「境界線」に支配されている
その状況って地方に住む僕としては、少しハラハラするんですよ。だって2つの銀行は、地元企業の融資残高を奪い合う間柄なわけですから。
にもかかわらず、地方銀行の人たちは、「県境の内と外」で相手を判断しようとする。そして、「ライバル行には負けない!」と言って行動します。
でも、こういう現象ってあらゆるところで起こっているんじゃないかと。
地域も企業も「架空の存在」のために損をしている
「カイシャ」とは、人の集団を分かりやすく表現するために、便宜上そう呼んでいるだけで、「カイシャさん」という人がいるわけではありません。つまり、「架空の存在」です。
竹内義晴(たけうち・よしはる)。1971年、新潟県妙高市生まれ・在住。ビジネスマーケティング本部コーポレートブランディング部 兼 チームワーク総研 所属。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながら、サイボウズで複業している。地方を拠点に複業を始めたことがきっかけで、最近は「地方の企業と都市部の人材を複業でつなぐ」活動をしている
そもそも、カイシャさんなんて存在しない。それなのに、誰かが引いた境界線によって作られた、架空の存在に支配されています。
個人を犠牲にしないために、境界線をなくしていく
例えば宮崎県の山間部にあった人口減少に悩むA村、B村、C村の3つの自治体が合併してD町になったのですが、それにより3つの行政の問題が、1つの行政の問題に集約されたのです。
「キャンプファイヤー経営」でゆるやかに集まる組織へ
ただそれだと、囲みのなかにいる社員は、何のために仕事をしているのか、ビジョンを見失ってしまいがちです。どうしてその組織にいるのかがわからなくなってしまう。そうなれば、一体感がなくなったりと、あらゆる弊害が出ます。
境界線の内と外には温度差がある
青春時代、その商店街で過ごした人の多くには、「にぎわっていた頃のような商店街へと再生させたい」という思いがあります。一方、高齢を迎えたほとんどの商店主は「引退して稼いだお金と年金で悠々自適な生活を送りたい」と思っている。
そして地元住民が「商店街活性化のために商店主ももっと頑張るべきだ!」とか言い出すわけですね。
そして、貸してもらった店舗に、次々と誘致したテナントを入れていったんです。若者が働きたいと思えるIT企業などを誘致しているので、市内の若者やUターン者の新しい雇用も生まれています。
現在の油津商店街。自然と人が集まる場になっている
プロジェクトメンバーの決め手は「理念」の共有
日南市に定住している人、関係人口としてかかわる人、観光に来た人……何かしらの形で日南市にかかわる人たちがいます。その人たちを「少しでも幸せにすること」が、このプロジェクトの理念です。
その人たちは、そもそも「日南」という概念が好きなんです。そこで幸せを感じているからこそ、「日南って良いところなんだよ」と周りに広めたくなるし、広めた先の人が幸せになるのを見て、また自分も幸せになれる。
日南市に住んでいても共有できない人もいますし、強要すべきでもない。でも逆に、日南市外に住んでいても、日南プロジェクトの理念を共有できている人もいる。いま流行りの関係人口は、こういう人のことを指すんだと思っています。
それに、それぞれのメンバーができることは違います。日南市で生まれ育った両親の最期をサポートする人もいれば、旅館の女将さんとして宿泊客を楽しませようとする人もいるはずです。
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執筆
流石 香織
1987年生まれ、東京都在住。2014年からフリーライターとして活動。ビジネスやコミュニケーション、美容などのあらゆるテーマで、Web記事や書籍の執筆に携わる。
撮影・イラスト
二條 七海
写真家→ホームレス→LIG.inc→フリーランスフォトグラファー。 現在は著名人や芸能人の人物撮影を中心に行っている。 多様な作風が持ち味。好きな食べ物はハンバーグ。
編集


